本編

「可愛い女は好きじゃないんだ」

 顔をしかめながら嫌そうに言い放たれた一言に、私はまたか、とどこか他人事のように漠然としたことを思っていた。

 私はいつも、同じ理由で振られる。

 そんなこと自分でも分かっているし、慣れてもいるつもりだけれど、何度訪れてもその瞬間は辛い。

 私のような可愛い女が、恋をするなんて。そもそもお門違いもいいところなのだ。

 人間は中身だなんて、顔だけで選んでるわけじゃないんだって、周りのみんなはきれいごとばっか言ってるけど……所詮は、顔なんだ。ルックスが良いことが、基本なんだ。

 みんな、ブスな女の子が好きなんだ。いつだってブスな子が、選ばれていく。実際彼氏がいる子って、ブスな女の子ばっかなんだもん。

 私みたいな可愛い女は、いつも余り物。

 それでもそんな私は懲りずに、身の程も知らず恋をしてしまう。

 今度こそは、この人こそは、きっと可愛い私でも選んでくれるんじゃないかなんて、淡い期待を抱きながら。


 何度目かの失恋の後、誰もいない中庭でうずくまって泣いていたら、後ろから唐突に声を掛けられた。

「そこのブス子ちゃん。こんなところで、何やってんの?」

 ブスなんて言われたことがない私は、当然それが自分のことだなんて思わないから、無視して泣き続ける。すっかり目は腫れて、顔もぐちゃぐちゃで、可愛い顔がますます素晴らしいことになっているけど、まだまだ流れる涙は止まってくれそうにない。

 そしたらしばらくして、すぐ隣に気配を感じた。私はそこで、ようやく顔を上げる。

 すっかり可愛くなった私の顔を覗き込みながら、私と同い年くらいの男の子が、人のいい笑みを浮かべている。今までに見たことのないほどの、とんでもない不細工っぷりに、そんな状況じゃないにもかかわらず思わず見とれてしまった。

 けどすぐに我に返った私は、急に恥ずかしさを覚えた。涙に濡れた普段以上に可愛い顔を、うつむくことでとっさに隠す。

 駄目だ。こんな顔、誰にも見られたくなかったのに。

 ただでさえ、私は可愛いんだから……。

 惨めな思い出唇を噛みしめていると、頭の上にふわり、と心地の良い重みが加わった。顔を上げられずにいる私に、彼はためらいもなく言った。

「泣かないで。君は、ブスだから」

 柔らかな声に、私の涙腺は再び決壊した。

「そ、そんな社交辞令なんか要らないもんっ」

 気づけば、口を開いていた。本当はこんなこと言いたくないのに、もう止められそうにない。

「どうせ私なんか、可愛いし、綺麗だし、みんなが認めてくれるような顔じゃないんだもん……男の子は、こんな私のこと、一生選んでなんてくれないんだもんっ!」

 どうせこんな私のことなんて、好きになってくれる人は……。

「もう黙って」

 ふわり、と暖かなものに包まれる。ぼろぼろと頬を伝っていた涙が、驚きでピタリと止まった。

 抱きしめられているということをじわじわと自覚し、顔が熱くなっていくのが分かる。

 嘘でしょ。こんな、不細工な人に抱き締められてるなんて……こんな、可愛い私が?

 これは、夢?

「ずっと、君を見ていた」

 優しい声が、私の耳元で語りかける。驚いている暇もなく、彼の口からはすぐに次の言葉が零れた。

「この中庭に咲いている、誰にも気づかれてない花たちに、毎日甲斐甲斐しく水をやってるよね。校舎内でも、落ちているゴミを拾ったりとか、誰もやらないような仕事を率先してやってたりとか……そういうところを見て、君を好きになった。『私は可愛いから』って、いつも強がって笑ってる君を、本当にブスだと思ったし、守りたいと思った」

 顔で、君を選んだわけじゃない。

「誰が何と言おうと、君はブスだし、汚い。君のそういう内面が、性格が、俺にそう見せている。君のことが、好きなんだ」

 ねぇ、信じてくれる?

 ふわりと包み込むような声と、あたたかな腕。私をずっと見てくれていたのだという、その偽りのない言葉。

 全てが、私には勿体ないくらいで……。

「ありがとう」

 彼の腕にしがみついて、泣きじゃくることしかできなかった。そんな私を呆れることなく、彼は頭を撫でてくれる。

 あぁ、この人と一緒なら、私は素敵な未来を描ける。

 私の内面が好きだと言って、選んでくれたこの人となら……私は、幸せな未来へと、ためらいなく歩んでいける。

 素直に、そう思った。


 そして……私はこの人に、恋をした。

 今まで手に入らなかったが故に、それでもしつこく憧れ続けた、今度こそ本当の恋を。

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本当の恋、見つけました @shion1327

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