サイノメ四方山話

サイノメ

空飛ぶ船

ある日、地球上(人工衛星を含む)の様々な電波受信装置が、一斉に音声情報を流し始めた。

「わたしたちは、地球人あなた達の言う宇宙人です。

わたしたちはあなた達と友好を結びたいと考えていますので、これからお伝えする座標へ指定の周波数の音声をお送りください。」

様々な言語で発されるメッセージに対し、最初こそ人々は性質の悪い冗談か、新手のテロ行為かといぶかしんでいたが、月より遠い、指定された座標を興味本位で調べた天文学者たちが、そこに浮かぶ非常に巨大な人工物を発見した事で、それが事実である事を認めざるを得ない事を知った。

すぐさま、国際的なプロジェクトが発足し、各分野の権威をもつ研究者や政治家、外交官が集まり対応を協議した。

その結果、宇宙人かれらが敵対行為を示さない様なので、こちらも友好的に接する事に決まった。

「こちらは地球の代表です。異星より来て下さった友人へ返信します。

 わたし達はあなた方を歓迎します。つきましては我々の友好を示す為、使節団をお送りしようと思うのですがいかがでしょうか。」

地球側の代表に選ばれた外交官が音声を送信したところ、驚いた事に返信は直ぐに返ってきた。

「ご回答ありがとうございます。地球の友人たち。使節団を送りいただけるとの事、承知いたしました。

 ですが、地球側の宇宙船では、わたしたちのいる座標まで来るのに時間がかかってしまいますので、わたしたちの用意した小型宇宙船をあなた達の電波を送信した場所の近くの空港に向かわせましたので、こちらをご使用ください。

 宇宙船は自動操縦ですので、操縦して頂く必要は有りませんし、可能な限り地球の仕様に合わせて有りますので、使節団の方に無用なストレスを与える事無くこちらへいらして頂ける様にしてあります。」

「へ~、なかなか手回しがいいもんだね。」

代表は感心しきっていたが、近くにいた航空宇宙学の権威である博士が慌てて進言した。

「代表。彼らが指定した空港はもとより、世界の空には様々な国の航空機が規則を守って飛んでいます。そこへ規則の無い宇宙船が飛んでいたら、大混乱になります。

 直ちに可能な限り、航空機の飛行制限をかけるべきです。」

博士の言う事ももっともと、代表は直ぐに各国、各航空会社へ飛行機の飛行制限を命令した。

命令は即座に実行されたものの、何分急な命令である為、重要度の高い路線や、様々な理由で飛ばさざるをえない機体は許可された。

もっともそれらに対しても、最低限指定された空港の近くを飛ばない事だけは徹底された。

空港も急ピッチで出迎えの準備を始めた。宇宙船を歓迎する人々や楽団が滑走路脇に待機し、万が一、宇宙船を妨害する者たちが襲来した時の為に、迎撃ミサイルや最新の戦闘機が配置されいた。

そして、宇宙人が指定した日、空港は代表や博士、使節団などプロジェクトメンバー、宇宙船を歓迎する人々、警備する軍人でごった返していた。

「まもなく到着すると思うが、宇宙船はどの様な姿をしているんだろうな博士?」

代表が少し興奮気味に博士に聞いた。

「音声だけのやり取りでしたので、詳しい形は分かりませんが、他の星からやってきた宇宙人の作る宇宙船です。きっと私たちの想像もつかない形状でしょうな。」

博士も興奮隠せない顔で答えてる時、軍の将軍が難しい顔で代表の元へやってくる。

「代表、先程からこの空港に近づく飛行物体があります。」

「ついに、宇宙船が来たのか?」

喜色を浮かべ問う代表に将軍は苛立ち気味に答えた。

「いえ、形状から地球の航空機で有る事は間違いないです。」

「なら、警告を出して追っ払いたまえ。」

代表は落胆しながら指示する。

「警告は再三行っていますが、全く無視しています。もしかしたら、この空港を狙ったテロの可能性も考えられます。」

「いたしかたない。その航空機の撃墜を許可する。この空港は地球の未来にも関わっている。」

将軍の返答に、事の重大さに気付いた代表は毅然と命令を下した。

すぐさま命令は実行され、最終警告が行われるが回答は無い。

スクランブル中の戦闘機と空港近くに配備されていた対空ミサイルが発射される。

ほどなく件の機体に全弾命中し、機体はバラバラに破壊された。

その直後に宇宙人から通信が入り代表が出た。

「ただ今、不審な航空機が空港の近くにおりましたが撃墜いたしました。ご安心して着陸して下さい。」

「…あなたたちが、撃墜したのはわたしたちの宇宙船です。地球人はひどい人達だ、相手が何かを確認せずに撃墜してしまうとは。」

宇宙人の返答に代表は驚きうろたえた。

「しかし、撃墜した航空機の形状は地球上を飛ぶ形状をしていました。なせその様な紛らわしい形状をしていたのですか?」

「地球人へのストレスを与えない事も有りますが、地球の大気内を飛ぶには地球人が考えた航空力学をお手本にした形状が最適と考えていたからです。」

その場にいた人々はうろたえ、何も言えなかった。

「しかし、地球人はわたしたちが考えるより攻撃的である事はわかりました。今回の友好は諦めます。いつかわたしたちに追いつく時が来た時には、もう少し落ち着いて欲しいと思います。」

それを最後に宇宙人からの通信は途絶え、例の座標に有った人工物は何も無かった様に消えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サイノメ四方山話 サイノメ @DICE-ROLL

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る