道中②
本来は先を急がなくちゃいけないところだけど、陽が沈み始め、妖怪との戦闘で(
木で身を隠せるし、ついてることに近場で泉も見つけた
仮の寝床としては最高の場所だろう
準備と言っても、簡単な焚き火の用意と、簡易な寝床を用意してるだけだが
「近くにこんな良い場所があってよかったな
寝床はともかく、焚き火の木がなかったらやれること限られてくるもんな」
「・・・その場合は術を使って応用すれば良いのでは?」
「そうだった」
今のはちょっとやばいな
術を使うっていう発想が出てこないとか自虐的過ぎだろ
「私は何もない広々とした草原で寝る方が、なんだか怖いです・・・そういう意味で、森があってくれて良かったです」
「ま、そうだね。さて、こんなもんかな」
焚き木に火をお越し、タオルケットのシーツと枕を用意し、簡易な寝床の完成だ
「それでは、私は泉に行ってきても宜しいですか?水浴をしにいきたいので・・・」
確かに、暗くなりきると近場とはいえ危ないもんな
「とはいえ、こんな所まで来ても体を洗うなんて、キレイ好きなんだな」
「どこかのだれか様に注意されましたから」
「その度は本当に申し訳ございませんでした」
咲耶のニッコリとした笑みに途方もない圧力を感じたため、全力で頭を下げる
まだ根に持ってらっしゃったようだ・・・
自分の荷物から手拭いを一つとりだし、咲耶は泉へと歩きだす
ふと、足を止めこちらを振り返る
「の、覗いちゃ、ダメ・・・ですよ?」
「そんなことしたら陰陽師だけじゃなく、人としても終わるからな」
咲耶はどことなく不安そうに、そして何故か残念そうにしてたものの、信用してくれたのか再び泉へと歩き出した
ここから泉まで、50m以上も離れてる
覗こうと思って覗ける距離じゃない
・・・いや、覗こうとなんかしてないよ?
「(水浴してきたあとは体が冷えてるかもな・・・)」
そう考えて、俺は火を強くするために枯れ木を拾いに歩き出した
と言ってもすぐ近場で、だ
わざわざ「危険」を犯すようなことはしない
両手に程よく収まるくらいに集め終え、元いた場所に戻る
するとそこには
「ウキッ」
猿がいた
咲耶の荷物を抱えて
「よし、動くな」
俺の荷物ならまだしも、咲耶の荷物はまずい
何でかは分からないけど直感がそう言ってる
ジリ・・・ジリ・・・と距離を詰めていく
「ウキー!!」
「待てー!!」
猿は木を登り、その上を逃げていく
俺は持っていた木を数本だけ手元に残し、猿の後を追う
「キー!!キー!!」
くそ、陽が沈んで暗い
見失いそうだ
猿は俊敏な動きでどんどん奥へと向かっていく
「ふっ!」
俺は手に持っていた木の棒を一本投げつける
棒は確実に猿を捉えていたが、猿はこれを軽々とヒョイとかわす
「(単発じゃダメだ!!残りの棒を効果的に使わなくちゃ)」
残ってる本は3本
これを確実に当てるには・・・
考えを即座にまとめ、右手に2本、左手に1本に持ち直す
そして、右左右の順で投げる
1本目は猿目掛けて一直線に飛んでいく
当然、猿は先程同様軽々とかわす
が、避けた先に次の棒が迫る
「キキッ!?」
ギリギリのところでこれをかわすものの、先程のまでの余裕はもうない
そして、宙に跳んだ猿に最後の1本が襲いかかる
「ウギャ!?」
見事命中
猿はなんとか体勢を立て直し、枝に掴まったものの、荷物を庇う余裕まではなく、落としてしまう
それも予定通り
その荷物を俺が下で掴めばーーーーーーーーーーーーーーーーードボン!!
「ゴボボボ!?」
なんだ!?
水!?
「ぶはぁ!!」
なんとか水面を見つけて顔をだし、息を整える
なんでこんなところに水が・・・
近くに水があるところなんて、泉くらいし・・・か・・・
・・・泉?
冷や汗がダラダラと垂れ始める
思い違いであってくれ
そう思って恐る恐る・・・振り返る
俺の想いは儚くも消え去った
俺の後ろには、手拭いで体の前半分を隠し、顔を真っ赤に染めている咲耶が立っていた
「はあぅ・・・あぅぅ・・・」
ボロボロと・・・涙を流し始める
「い、いや違うんだ咲耶!!」
とりあえず弁明と誤解を解こうとした瞬間
「神威の色欲魔ぁぁぁぁぁ!!」
羞恥に身を任せた咲耶の渾身の術(水)が俺を襲った
火の強くなった焚き火を中心に、俺と咲耶は背中合わせに座っていた
結局咲耶の荷物は俺と一緒に泉へと落ちてしまったため、咲耶には俺の服を1着貸していた
事情を説明し、荷物を証拠として見せることでなんとか誤解を解くことはできたものの・・・
き、気まずい・・・
今までの中で最も辛い沈黙かもしれない・・・
「・・・」
「・・・」
このままじゃダメだ まずはちゃんと謝らなくては!
「「あの」さ」
被った・・・
このタイミングで・・・
「さ、咲耶からどうぞ」
「あ、あの・・・すいませんでした・・・理由(わけ)も聞かずに・・・しかも術まで使ってしまって・・・」
「い、いや、当然の反応だよ。術は予想外だったけども・・・猿に夢中になりすぎて泉に気づけなかった俺が悪いよ」
「・・・でも、神威は私のために必死になってくれたんですよね?」
「まぁ・・・」
「じゃあ私は謝るのではなく、お礼を言うべきですね。ありがとうございます神威。私のために」
「やめてくれ・・・結局咲耶の荷物はびしょびしょになっちゃったしさ・・・」
咲耶の荷物は中身も全てびしょびしょ
元々来ていた服も、おれが飛び込んだときの水飛沫でびしょびしょになっていた
「それでもです。私の荷物は持っていかれてしまっていたかもしれません。それに比べたら、濡れた程度ですんで良かったです!」
「そう言われると、ちょっと救われるよ・・・」
とりあえずは、一件落着かな?
なんて言うわけにはいかなかった
「そ、それでその・・・」
咲耶は口ごもったあと
「み、見ましたか?」
消えてしまいそうな小声で聞いてきた
「み、みてな・・・」
咄嗟に「見てない」と言いそうになったが、止めた
咲耶は俺を信じて誤解を解いてくれたし、その上お礼まで言ってくれた
ここで嘘をいうことは、それを裏切ることになると考えたからだ
ここは覚悟を決めて、素直に言おう
「すいません・・・見ました」
たぶん俺の顔は真っ赤になってるだろう
けれど咲耶はそれに負けないほど顔を赤くし、それでも僅かに笑いながら
「すいません・・・お見苦しいものをお見せしました」
なんてことを言った
「い、いや!そんなことないぞ!?
手足はスッとしていてキレイだったし、四肢や髪を滴る水が月夜に照らされてキラキラ輝いててほんとに・・・」
「そ、そんなことまで言わなくていいです!
そ、そんなにジックリ見てたんですか!?」
しまった・・・なんだか否定しないといけない気がしてしたら、言わなくていいこと言った・・・
「うぅ・・・もうお嫁にいけません・・・」
咲耶は両足に顔を埋め、赤い顔を隠してしまう
なぜかそんな様子がとても愛しく感じてしまって、不思議と抱き締めてしまいたくなった
「くちゅん!!」
咲耶の可愛らしいクシャミでハッと我にかえる
なに考えてんだ俺は・・・
軽い自己嫌悪に陥りながらも、咲耶が寒そうに両手で体を抱き抱えていることに気付く
夕時まで心地よく吹いていた風も、夜になったことで冷え込み、冷えていた咲耶の体をより冷やしてしまったのだろう
「咲耶、寒いか?」
「い、いえ・・・はい、少し」
最初は否定したものの、そっちのほうが心配をかけると思い直したんだろう
咲耶は素直に頷いた
「ちょっと待ってな」
俺は自分の荷物からやや大きめのタオルを取り出し、火で温めてから咲耶の肩にかけた
「ありがとうございます。温かい・・・」
温まったタオルをギュッと抱き寄せ、ぬくもりを一心に感じている
「・・・スンスン」
ん?
今匂いを嗅がれた?
咲耶は(なぜか)匂いを嗅いだ後、こちらをチラチラみて
「あの、まだ少し寒いので・・・そちらに行ってもいいですか?」
「うん・・・うん?」
最初の「うん」のみが聞こえたのだろうか
咲耶は良いのだと判断して、俺の隣に寄って来た
肩が触れるほどの距離・・・に
いやいやいやいや
どうしたの咲耶さんは!?
顔を真っ赤にするほど恥ずかしいのならなんで寄ってきたのさ!?
それでも、咲耶は俺の側から離れなかった
俺は戸惑っていたものの、
「温かい・・・」
咲耶が小声でそう呟いていたのを聞いて、そのままでいることにした
とはいえそんな状態で会話が盛り上がるわけもなく・・・
「・・・」
「・・・」
再び気まずい沈黙が・・・
「あ、あの神威・・・今日のことなんですか」
沈黙を破ったのは咲耶だった
「今日出会ったあの鬼の妖怪・・・本当に生まれたばかりだったのでしょうか」
「どういうこと?」
知性も感じられなかったし、咲耶が切り落とした腕も灰になった
特徴からいって生まれたばかりの妖怪に間違いはないはず
少なくとも、牛鬼のような完成された妖怪ではないことは確かだ
「確かに特徴こそ そのものでしたが、途中からものすごい勢いで成長しているように感じたのです」
「成長・・・それって姉さんが言ってたことと・・・」
「はい。関係があると思います。本来はありえないことなのですが・・・」
妖怪は少しづつ成長し力を蓄えていく
妖怪の力の源がその妖怪への噂、畏怖によるものだからだ
長い間語り継がれた妖怪の噂は、人々に広まり根付いていく
それに比例して、妖怪の力は強く、強力になっていく
逆に言えば、余程生まれた時の力が強くない限り、妖怪が急激に成長することはないはずだ
「例えば、私が『天翔包外』を発動して最初に鬼を斬ったあと、鬼は明らかに警戒して近づかなくなりました」
確かに・・・
最初にあれだけ無造作に近づいてきておきながら、それ以降自分から距離を詰めようとはしなかった
まるで、咲耶の速さを学習したかのように
「更に、そのあと鬼は私の速さに追い付かないまでも、反応をすることができているようにみえました。自分に過信する訳ではありませんが、一度や二度見られただけで反応されるほど力不足ではないと思っています」
その場面は俺も見ていた
鬼は咲耶の『禊浄太刀』に怯えながらも、最後は確実に咲耶を捉えた反撃をしていた
これは鬼の成長だということにほかならないのだろうか・・・
「これがもし、神音(かぐね)様の仰っていたことと、関連していると・・・したら、事態は想像以上に・・・深刻か・・・も・・・しれま・・・」
「確かに、あれが成長なのだとしたら恐ろしいことに・・・咲耶?」
ふと、隣が静かになるとともに、咲耶が肩にもたれかかっていることに気付く
咲耶は静かな寝息をたてて眠りについていた
やっぱり疲れていたのかもしれない
半分くらいは俺のせいで心的苦労を与えてしまった気がするけど・・・
とはいえまだ道のりは半分くらいだ
明日のために俺も寝よう・・・
「・・・」
いやまって
ちょっとこの状況って結構やばいんじゃ・・・
俺のすぐ横には、無防備に眠っている咲耶がいるわけで・・・
さらには、咲耶からは女子特有の良い香りが俺の鼻孔をくすぐってくる
それがとても刺激的で、俺の思考を奪っていく
気付いたら俺の右腕は、ソっと咲耶の髪に触れていた
「(うわ・・・すごいサラサラしてる)」
咲耶は眠りながらもくすぐったそうにしているが、起きる気配はない
だからそのまま頬をさわろうとしてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「クチュン!!」
髪が鼻に触れていたのか、寒かったのか、咲耶は再びくしゃみをした
俺は起こさないように気を付けながらも大急ぎで手をどかした
「(お、俺はなにをしてるんだ!?さ、最近こんなことばっかり・・・)」
自分がしたことに自己嫌悪に陥りそうになったが、咲耶が再び寒そうにしている様子をみて、
なにも考えずそっと抱き寄せた
「(妖怪のことは結局分からずじまいだけど、それは今の俺らが考えても仕方ないよな。今は、自分がやるべきことに集中しよう)」
そう考え、俺はゆっくり瞼を閉じる
そのまま深い眠りにーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーつけるわけがなかった
だって、寒くなると体をさらに寄せて来たり、時々寝言で「んぅ・・・」と言うんですもん咲耶さん
ドキドキしっぱなしで・・・
今から寝ても遅くなっちゃうし・・・起きようかな
結局ずっと肩に寄りかかってた咲耶さんをソっと動かし、俺は泉へと向かった
眠気を飛ばすためだ
冷たい水がひんやりとしていて、俺の眠気を幾分か飛ばしてくれる
「(切り替え切り替え。まずはしっかりと山海(さんかい)の森に辿り着かなくちゃな)」
気持ちを引き締めなおし、咲耶のところまで戻る
いつもならきっちりと目が覚めているはずの咲耶は、まで眠っていた
「(めずらしいな。あの几帳面な咲耶がまだ起きないなんて。思ってる以上に疲れてるんだろうか)」
少し心配なものの、これ以上遅れると日が一日延びかねない
そう思って咲耶を優しくゆすって起こした
「・・・・・・ん」
反応が鈍い
どことなく気怠そうにもみえる
「あ、すいません私としたことが・・・」
それでも状況は理解できてるみたいだし、意識もしっかりしてる
「大丈夫か咲耶?」
「はい。少し疲れていたみたいです」
昨日は長距離の移動に加えて、戦闘もあったんだから、それも当然かもしれない
それでも心配なものは心配だったが、
「大丈夫です、行きましょう」
咲耶が力なく笑って立ち上がり歩き出したため、俺は着いていくしかなかった
本当に大丈夫なんだろうか
咲耶の足取りはやはり重そうだ
顔も俯きがちで、何より昨日のような笑顔が見えない
それでもペースは昨日と変わらない
むしろ、やや早いようにも思える
無理をしてないといいんだけど・・・
「神威・・・昨日のお話の続きなのですが・・・」
咲耶は顔をあげ、俺に話しかける
その顔にはうっすら汗をかいていた
昨日の戦闘でもかかなかったのに、だ
なので俺は
「昨日の、っていうと・・・い、泉の件でしょうか?」
わざと傷口を広げるような発言をした
「ち、違います!!怒りますよ!!」
「ごめんごめん冗談だよ」
効果はあったみたいだ
さっきより元気が戻った気がする
「妖怪の成長のことだよな?」
「はい。もし私の推測通りなのだとしたら、直に陰陽師では手に負えない事態にまで発展してしまうかもしれません。早急に対処法を考えた方が良いのでは・・・」
「けど、まだ推測の域をでないだろう?深刻に捉えすぎないほうがいいんじゃないか?」
「それは・・・そうなんですが・・・」
咲耶の考えは、現状推測の域をでない
咲耶もそれは理解している
けれどどうしても納得できないといった顔をしている
「ま、でもあの鬼の妖怪が急激に成長してたのも事実だし、警戒はしておかないといけないよな」
咲耶がこちらをみつめる
「それにもし、このまま進んでまた妖怪と出会ったら、それが正しいかどうかも分かってくるよな」
咲耶の顔がパッと明るくなる
そして嬉しそうに笑って「はい!」と頷いた
俺の妥協案的意見はどうやら通ったようだ
気持ちの切り替えにもなったみたいだ
そのお陰もあってか、そのあとはスムーズだった
妖怪に出くわすわけでもなく、問題が起きることもなく
「(このペースなら、もしかしたら今日か明日にはつけるかも知れない)」
そう思えてしまえるほど順調だった
ここまではーーーーーーーーーーーーーーーーードサッ
前を歩いていた咲耶が突然倒れた
「咲耶!?大丈夫か!!」
すぐに近寄り、抱き起こす
呼吸が荒く顔が真っ赤だ
汗もたくさんかいている
すぐに咲耶の額に手をあてる
熱い・・・すごい高熱だ
「咲耶、ずっと黙ってたのか!?」
「す、すいません・・・ご迷惑を・・・」
「そんなことで怒ってるんじゃない!!なんで黙ってたんだ!!」
いや違うだろ・・・なんで気付いてあげられなかったんだ俺は!!
少し考えれば分かったことだろ!!
「迷惑を・・・心配をかけたく・・・ありませんでした
神威と・・・楽しいまま、旅をしたかったんです」
咲耶はボロボロと泣き出す
咲耶が、どれだけこの旅を楽しみ、俺のことを思っていたかが伝わってきた
だけど、
「迷惑なんて、いくらでもかけろよ!心配なんて、いくらでもさせろよ!家族だろう!!」
気付かなかった俺も悪い
けれど、心配をかけまいと無理をした咲耶も悪い
家族なんだから、もっと頼ってくれてもいいだろ・・・
どうする?
どこかで体を休めるか?
いやダメだ
近くに木陰も何もないし・・・
何より休んだところで、咲耶の体調が回復するとは限らない
「(・・・進もう)」
ここまできたのなら戻るより進んだ方がいい
そう決めた俺は、咲耶を荷物ごと背負う
「か、神威!?なにを!!」
「このまま山海の森まで歩く」
「む、無茶です!ゲホッゲホッ!まだ山海の森まで距離があります!私を背負いながらなんて!」
「じゃあどうしろって?」
「決まってます!このままここに私を置いて・・・」
「次そんなこと提案したら怒るからな咲耶」
咲耶は黙る
俺から有無を言わせない圧力が放たれていたんだろう
「俺は家族を守れる力が欲しいんだ!!そのために
俺は歩きだす
家族の命を背負って
何時間くらい歩いただろうか
平坦な道であることが幸いだった
ここまでペースを落とすことなく進めてる
咲耶はやはり相当体調が悪かったのだろう
途中で気絶するように眠りに落ちた
首もとには水で濡れた手拭いをかけてある
昨日の事件(?)で濡れた咲耶のものだ
怪我の功名、かな
太陽は真上にまで登った
気温が上昇し、流石に体に疲労が溜まっていく
「(でも、もうここまできた。もうそんなに距離はないはずだ。山海の森まで行けば、咲耶を休ませてあげられる!)」
目的地に着くことよりも、咲耶を休ませたいという考えが、俺の思考を埋め尽くしていた
あと少し、あと少しなんだ・・・
「なのに・・・どうしてまた出てくるんだよ!!」
目の前には妖怪がたっている
それも一体じゃない、三体だ
目の前以外にも数体隠れているのも分かる
咲耶は妖怪の成長について問題視していたけど、俺はもう一つ気になっていることがあった
それは時間帯だ
妖怪の基本的な活動は夜だ
人は闇を恐れ、妖怪は畏れを力にするからだ
けれど、今は真っ昼間だ
それなのに、これだけの妖怪が活動している
なにか本当に、妖怪側に大きな動きが・・・
いや、今はそんなことどうでもいい
「
俺の言葉が引き金となり、妖怪達は一斉に襲いかかる
「『
術で
俺の初実戦はこの間の牛鬼だったんだ
それに比べれば遅いし弱い
避けるだけでなく、その気になれば数を減らすこともできるかもしれない
けれど、今はそうすることができない
背中の咲耶に負担がかかるからだ
反撃よりも目的地を目指すことが先だ
だから状況はあのときと同じだ
恥も誇りも捨てて走れ!!逃げろ!!
妖怪の間を駆け抜ける
が、流石に多勢に無勢
隠れていた妖怪の攻撃にまで対応しきれず、身に受ける
「かっ!?これ、は?酸!?」
酸は服を溶かし肌をも溶かしにかかる
「(牛鬼や
酸を振り払い、再び走り出す
しかし、術を行使しているにも関わらず、俺と並走する妖怪がいた
人型じゃない、犬のような動物型だ
「(それでも、俺に追い付けるのか!?)」
咲耶を背負っているとはいえ、術を行使しての移動にも関わらず、まったく振りきれる様子がない
偽鎌鼬は妖力で風を操り、代名詞カマイタチを起こす
回避できないと即座に判断し、術を『天翔包外』から『
牛鬼の攻撃こそ防げなかったが、この程度の攻撃なら受けきることができた
しかし、
「うっ・・・」
咲耶が衝撃で苦しそうな呻き声をだす
「(ダメだ。攻めの反動だけじゃなく、受けの反動でも咲耶の負担になる。受けるな、触れるな!全て避けろ!!)」
妖怪に再び背を向け走り出す
術を最大に行使し、駆け抜ける
恐らく、山海の森はもう目と鼻の先のはずだ
が、見えたのは森ではなく
「は?」
大岩が降り注いでくる景色だった
唖然としたものの、なんとか大岩を避けきる
「ぐぁ!!」
が、当然衝撃までは避けきれない
「しまっ!?咲耶!!」
その衝撃に耐えきれず、咲耶を手放してしまう
宙に浮いた咲耶を掴んだのは鬼だった
と言っても、昨日の鬼とは比べ物のにならない
背丈は二倍以上あり、より強い妖力と肉体を備えている鬼だ
恐らく、先程の岩はこの鬼が投げつけたものだろう
「この、咲耶を離せ!!」
鬼を睨み付け言葉をかけるも、鬼は見向きもしない
ジッと咲耶を見つめ、只でさえ余裕のない俺をさらに追い詰める言葉を口にした
鬼はニンマリ笑い、こう言った
『コイツ・・・ウマソウ』
プツッ
俺の中で、何かが切れる音がする
「汚い手で咲耶に触れるんじゃねぇ!!」
無我夢中で何かを掴み、鬼目掛けて投げつける
恐らく砕けた岩の石だったのだろう
石は真っ直ぐ鬼へと飛んでいきーーーーーーーーーーーボッ!!
突如強力な火を纏い、鬼の顔面を焼いた
『ゴアァァァァァァァァァァァァ!?』
鬼は堪らず咲耶を手放す
何から何まで牛鬼の時と同じだ
地面に落ちる前に咲耶を抱き抱え走り出す
「(何だ今の!!突然石が燃え出した!?)」
走りながらも俺の頭は混乱していた
「もしかして、いまのが」
俺の言葉はこれ以上続かなかった
何故なら
「なっ!!?崖!?」
目の前は断崖絶壁のがけだったからだ
「(しまった・・・焦って道を外れたのか!?)」
既に退路は絶たれている
背後には更に数を増やした妖怪が待ち構えているからだ
山海の森は妖怪が多い
そうは聞いてはいたが、この数は異常だ
妖怪の数は、今や50はいるだろう
一体、なにが起きてるんだ
考えをまとめる時間はなかった
妖怪達の一斉攻撃に対し、俺は背を向ける
咲耶を胸に抱き抱え、守るために
一瞬の衝撃のあと、俺達は吹き飛ばされ崖から墜落する
僅な浮遊感と共に、俺は意識を手放した
魑魅魍魎ースダミミズハー 神威冒険譚 黒白ーコクハクー @xwdsa3za
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