遠き里の物語りせよ

たびー

第1話

 訛ってるのハゆるしてけでや。

 おめさまは、帝都からでやんすか。んで、朝になったら東京さ帰るってな。

 おれはこの村から出だごどもありやせんし……がら出だごどもあんまりねぇがら。何日なんぼかがる? こごから、汽車ぁ走る駅まで……ああ、障子閉めだまんまで、おもさげね。このじさまは病気してらがらさ。


 開けねんでけでや。

 みんなさ伝染うつっても駄目わがねがら、いつも常居じょういの奥さいる。飯食うのもてんでんこ。だども夜ばり、こっちの座敷さ出張ではるのさ。

 歳も歳だし、朝がはやぐてなあ。のもんが起きるまでだげな。


 おめはん、大学校でなに勉強してらのす?

 みんぞく、がく?

 むがしの語りっコ聞ぐのが、勉学になるのすか?

 んだがら、わざわざこったな山奥さ来たのっか。はあ、山口の佐々木の息子あんこから教わってきたと。

 ほお……。何がいい話かたり聞けたすか。

 河童、天狗、オシラサマ、座敷わらし、山男に山女……。


 おらたちには、聞きあきた話ばりだなあ。特に奇妙ひょんたな話でねえべ。まあ、神隠しは先日こねだもあったども。

 なぁに、ちょっくら迷子になってただけだった。

 このへんハ、冬が長げぇから囲炉裏端で法螺話するのよ。

 なんでもねぇようなことを、おっきぐしてな。そんで気がふさがねようにするのさ。


 まあ、山さおなごごどハある。そいつハほんとだ。

 なんもかんも嫌になるんだべな。旦那も舅や姑も、自分の子供わらしも。

 山の中、これで女の口一人ぐれえ養ってくれる。何年がして、ぼろきれ着た嫁っコが猟師てっぽうちきぎりに見つけられて戻ってくることもある。

 そったな時には「天狗のががになってだったんだ」なんて言ったりするもんだ。


 こったな山奥だもな。そったなこともあるんでねぇかって、皆で話ばこしぇるのサ。

 おめはん、動転どでしたべ、こったな町場がら離れたどごサ屋敷あって。


 マヨイガだと思った? んだべな。


 この辺は山の間サ隠れるみでぇに、ちっちゃけぇ里が多数いぐらもあるもんだぉン。


 座敷わらし、いるみでだ? いねぇよぉ。いるわげねえ。


 おめさん、こののトワコ見だえ? ああ、めんこい姉コだ。

 めんこい姉コは山男の嫁コさなるもんだ。


 ン? 河童のわらしば、ナシタ……産んだって話し、こごの大爺さまから聞いたべ? 

 ああ、河童の童はワガネ。あれハ殺さねばワガネのだ。

 だども、山男の童を腹に入れてきた姉コは、そいつ産ませで家の中さ隠すのサ。


 あだまつのある、山男の童は木の実だのきのごだの、山のごどだば何でも知ってるんだおん。

 ああ、金の粒あるどごろもナ。だがら、誰にも盗られねぇように座敷ざしぎの奥の奥さ隠す。


 次の鬼子が生まれたら、前の奴は死ぬ。


 ……ようやぐ、死ねるのサ。


 トワコ、早やぐ孕めばいい。


 じゃ! ……障子開けてしまったのすか……。

 開けたらわがねぇって、しゃべったの忘れたのすか?


 そったにおれの頭見ねんでけで。おしょすいから。


 ああ、のもんも起きてきたぁ。


 わりいなあ、今日帰れねえ……。

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遠き里の物語りせよ たびー @tabinyan0701

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