非日常奇談録 ~ぼくがたいけんしたこわいこと~
一致
第1話 覗く
学生時代、夜 突然目が覚めては「誰かが頭元に立って見下ろしている」感覚にさいなまれ……やがて眠りに落ちる、という状況が続いたことがあった。
目もロクに開かず、誰が立っているのかは分からない…しかし、確かに何かが俺の顔を覗き込んでいる…そんな得体の知れない感覚に悩みながら1ヵ月が過ぎた。
最近暑くなってきたし、寝苦しいせいでそんな夢も見るんだと思い、扇風機を付けて寝ることにした。
中古で購入した扇風機が微風を送りながら首を振っている。俺は頬に風の当たる心地良さを感じながら眠りに落ちた。
ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ
奇妙な音で目が覚めた。
ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ
まただ。また目が覚めた。うっすら開けた視界には、黒い何かが俺の顔を覗き込んでいるような…ああ、また妙な夢を見ている。
ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ
しかし、この音は初めてだ。なんだろう、この、何かが、機械が…
扇風機だ。
扇風機が何かに引っ掛かって、首を振れずに異音を発しているのだ。
ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ
何に引っ掛かっているというのだ。
……こいつだ。俺の顔を覗き込んでいるこいつだ。
毎晩の悪夢は、夢ではなかった。
確かにこいつはここにいるのだ。
俺は全身が粟立つのを感じた。
ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ
俺は必死で目を閉じ続けた。
鼻先にソレの存在を感じながら、体の震えを必死に抑えて夜が明けるのを待った。
空が白み始め、朝鳥が鳴き始めるころ、不意に異音が止んだ。
恐る恐る目を開けると、そいつは消えていた。
俺は即日荷物をまとめて友人の家へ泊まらせてくれと頼み込み、数日内に部屋を引き払った。
あれは夢だったのか、幻覚だったのか、未だにはっきりとはしない。
しかしあの日以来、扇風機の端にこびりついた黒い染みは今も取れないでいる。
非日常奇談録 ~ぼくがたいけんしたこわいこと~ 一致 @itaru_ninomae
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