第22話 飛鷹
「お疲れ」と俺は言って、羽黒の拘束を外した。「もう大丈夫だ」
「え……?」
「お前はお前を受け入れた。ジキルとハイドの両方を。お前がずーっと抱え込んでいた恐怖は、きっとお前が『ジキルのように綺麗で正しくありたい』と思っていたからだろ。お前はハイドのように汚れたけれど、同時に別の道が開けたんだよ」
「別の道って……」
「可能性、と言っても良いかな。別の視点って言っても外れじゃないと思う。お前の背中にのし掛かるものは重たいけれど、今のお前なら必死こいて歩けると信じている」
「清……」羽黒は少し黙っていたけれど、「ありがとう」と俺の目を見て、言った。
「気にすんなって」
「おうち帰りたい」
瑞鶴先輩はぐったりとベッドの中に倒れ込んで言った。
「なあ清……おうち帰りたいよー」
「先輩すみません、健さん曰く『根性が足りねえ』そうで」
「美味いのは飯だけで後は地獄じゃねえか。俺、もう壊れそうだよー」
「『壊さないように気を使っているから気にすんな』だそうで」
「……ひっく、うえええええ――ん」
ついに瑞鶴先輩が泣き出した。子供みたいに。
「俺が何したって言うんだよーお母さーんお父さーん帰りたいよー」
「あちゃー……」
俺は先輩が泣き疲れて眠るまでヨシヨシしてから、部屋を出る。
虎弥さんが、控えていた。
「清様。隼鷹がついに動き出しました」
「……何が、あった?」
「全ての魔術組織に、司鬼でない全人類に、有無を言わさぬ宣戦布告を。……護法機関もその中に含まれております」
「――勝算は?」
「アイゼン様亡き今、皆無でございます」
「護法機関が単独降伏あるいは講和した場合は?」
「最善最良で、この国の司鬼でない全人類が虐殺されます」
「……。対策は?」
「那由多記室委員会主導で全ての魔術組織に緊急召集がかかりました。ネットを介して対策会議を開きたい、との事です」
「……隼鷹は、今、どこにいる?」
「月かと。隼鷹を封じ込めていた方舟『飛鷹』も消え失せたと初春より報告がございました。――あれは元々、カグヤ姫の乗り物でございましたから」
「まずはネット会議に出る。月を常時観測し、些細な事でも異変があったら即知らせるように」
「はっ」
「ったく俺のジジイ」俺は虎弥さんがいなくなってから呟く。「年甲斐も無く暴れやがって。重度の認知症入ってんだな。さっさと死ねよ、老いぼれ」
「俺は生粋の差別主義者でな」「下等人間ごときがこの美しい地球にのさばるのが許せんのだ」「故に運命を書き換え」「白劫を生成し」「下等人類を虐殺しようとしてやった」「だのに俺の息子が俺の力を無力化し俺の体を封じ魂を氷結させ」「ああ憎い、憎い!!!!」「だがもうその息子も死んだ」「皮肉にも俺と同じように我が子に殺されて、な」「――さて」
「
YUKIKAZE 5th END
YUKIKAZE ――白劫―― 2626 @evi2016
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