とらトラ! 清く正しく虎退治
楠樹 暖
わが赴くは虎の群
名古屋駅新幹線太閤口に二人の男が降り立った。一人は切れ長の目を鋭い眼光を眼鏡で隠し、もう一人はガタイのいい身体に円筒形の図面ケースを肩にかけていた。
「ここからはタクシーを使うぞ、虎之助」
「はいよ、センセイ」
二人を乗せたタクシーは南へと進み、丁字路を右折した。
「名古屋の中心街
「太閤って、太閤豊臣秀吉の太閤か?」
「その通り。この辺りには豊臣秀吉ゆかりの名前がたくさんあるぞ。幼稚園でも『とよとみ幼稚園』とかな」
「運転手さん、この辺で降ろしてくれ」
「うぉ! デケー!」
隣のビルと並び立つ大きさの赤い鳥居がそこにあった。鳥居の下は片側一車線の道路になっている。
「中村公園の大鳥居だ。赤鳥居とも呼ばれている」
「まんまじゃねぇか」
「まんまだな。そして、太閤通はここまでだ」
「道路はまだ続いてるじゃねぇか」
「鳥居の西から先は名前が替わって鳥居西通になる」
「まんまじゃねぇか」
「まんまだな」
鳥居から北上し中村公園の前に立つ二人。
「こっちの鳥居は普通の大きさだな」
「東の方に加藤清正が生まれた場所があって、名古屋城築城の余材を使って
鳥居をくぐり、公園の敷地内を進むと神社が出てきた。
「ここが豊臣秀吉を祀った『
「『ほうこく』じゃないんか」
「大阪の
豊国神社の脇を通り、奥へと進むともう一つ神社が出てきた。
「ここが今日の目的地、
「じゃあ俺らも必勝祈願をしたところで……。さっきから〝虎〟の匂いがプンプンしてるんだが、あいつぁお前の知り合いか?」
「元同僚だ」
「なんでお前の研究が認められて、お前より優秀な俺の研究が認められないんだ……。お前さえいなければ俺が恥をかかされることもなかったんだ。お前さえいなければ……」
怒りに震える男の顔に黒い稲妻のような模様が浮かび上がってくる。それと同時に筋肉が盛り上がりだし、最初に姿を現した時よりも一回り大きくなった。
「おい虎之助、出番だぞ」
「俺に命令するな」
虎之助の顔にも黒い稲妻の模様が浮かび上がり、元同僚の前に立ちはだかる。互いに手を掴んで手四つになり、力比べをしている。
「〝虎〟の力に頼りすぎるな。戻れなくなるぞ」
「分かってることをイチイチ説明するな」
押していた腕から力を抜き、相手が伸し掛かってきた力を利用し、手を引っ張りそのまま押し倒した。倒れている隙に製図ケースの蓋を開け、中から鉄製の刃物を取り出した。刀よりは短いそれは、槍の穂先だった。
起き上がった元同僚は右手の爪を虎之助に向けて振り下ろす。槍の穂先でそれを受け止める虎之助。
両手で槍の穂先を支える虎之助だが、元同僚の方の力が上だ。槍の穂先はポキリと折れてしまった。
「ひゅー、馬鹿力なこって」
使い物にならなくなった槍の穂先を投げ捨てる虎之助。
センセイは神社の敷地内に生えている楠の枝を折り、虎之助へと投げつけた。
「これを使え」
楠の枝を手にすると、枝先から光の筋が伸び、二尺ほどの長さとなった。
「よっと」
虎之助が振り下ろす光の刀を左右の爪で受け取る元同僚。
「さぁ、こっから加速していくぜ。いつまで受け止められるかな」
虎之助の動きが元同僚を凌駕し、振り上げた刀によって元同僚の両腕が跳ね上げられ、胸元が開いた。
虎之助は光の刀を元同僚の心の臓を目指して突き刺した。元同僚の身体を突き抜ける光の刀。元同僚の顔から模様が消え、光の刀も消え、楠の枝が胸に当たっているだけとなった。気を失った元同僚はばたりと地面へ倒れ込んだ。
「これで、こいつも大丈夫だろう。自尊心が強すぎて〝虎〟になってしまったんだな。熊本城の封印が弱まったせいで、解放された〝虎〟に付け込まれたんだろう」
「この木の枝はいったい?」
「ここで育った楠は特別なんだ。なにせ、加藤清正が名古屋城を作るときにここの楠を選んだんだからな」
「おいおい、保存樹って書いてあるぞ。折ってよかったのか」
「他の奴なら駄目だろうな。だが僕なら許される」
「ふっ、まぁいいや。……なぁ、一体いつまでこういったことを続けるんだ?」
「〝虎〟を絶滅させるまでだな。理論上は日本だけでも一億三千万ほどだ」
「ひゅうー、そうつぁしばらく退屈しなくてすみそうだぜ。ちなみに、その一億三千万の中にはお前も居るんだよな?」
「僕は〝虎〟にはならないよ。僕は特別な人間なんだ。その辺の人間と一緒にしないでくれ」
「はは、お前は〝虎〟にはならないよ。お前がなるのは〝虎〟の中の〝虎〟、〝大虎〟だよ」
「人を酔っぱらいみたいに言うな」
一仕事終えた二人は、手羽先を求めて名古屋駅の駅西へと消えていった。
(了)
とらトラ! 清く正しく虎退治 楠樹 暖 @kusunokidan
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