カミオロシ

@ash-dispenser

第1話

本当の事を言えば彼女はきっと他人に興味などないのかもしれない。

少し年上に見える場違いな道着姿の彼女を遠目に眺めて思った。


都会に育った少女、流唯は勿論この暮れかけた山間を産まれた故郷とは思えない。何しろ育ての親は僅かには所縁ある廃村の話を頑なに口にしなかった。

あの「事件」を思えば、当たり前だったのかもしれないが。

原因不明の流行り病で壊滅したなんて何時代だよ。そんなツッコミをできるくらいには他人事に思えてしまっている。


「あなたも、生き残ってたの?」

「・・・さぁな」

「なんでお前は今頃になって戻ってきた?」


戻ってきたって事がわかって少しは会話をする気になってくれたらしい。歓迎はされてないご様子だが。

「あんま覚えてないけどね、母さんと約束したんだ。

10年後にもう一回来よう、ってさ。」


「母親も出てってたクチかよ」

「もう居ねえなら尚更来る理由にゃならねえ。」


つっけんどんに言い放つが、夜の帳が下りた土地勘もない記憶も曖昧な場所で一人にするほど冷酷ではないらしい。

「ここを進めばおれの寝ぐらに着く。」

「寝心地は保証しねえが、獣に襲われる心配はねえと思う。」

「まあ、朝には必ず帰って貰うがな。」


10年前、事件の発端となったという社。母はその宮司の娘であったが、父と一緒になる為に東京へ出てしまった。だから流唯の記憶にあるのはこの社と、その裏手に植わっていた天を突くほど高く岩と一体化した黒々とした大木、お囃子の音と巫女装束で舞っていた同い年という少女の姿。

鮮烈な印象だったから、一目見てそれが成長した彼女だと確信できた。

「まさかあの美幼女がこんな風に育つとは思わなかったわー。」

ぼやいた声が聞こえてたかは定かじゃないが。

「好きでこんなナリしてる訳じゃねえよ。おれにはお前と会った記憶も無いしな。」


「10年も経って変わらない訳ないじゃない?覚えてないのも仕方ないしさ。」

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