第六夜

 ……世界が壊れ始めて時が経った。世界のほとんどがその事実を知らずに、今を過ごす。

 誰かがその崩壊を食い止める為に、その生命を削っていたとしても、分からないだろう。……否、というのが正しいのかもしれない。


 ────────────────────────────────────────


「シグレ落ち着いたかいな〜?」

「……うっさい、入ってくんな……」

「わーぉいつもより毒に覇気があらへんなぁ?」

「うっせェよ……っとに何しに来たんだ……」

「そらシグレの容態見に来たに決まっとるやろ、何言うてんねん」

「……白竜、病室では静かに、な? 婦長に怒られるぞ……」


 真っ白な壁に囲まれた病室で、元から白い肌をさらに蒼白にさせて横になっているシグレが居た。その隣には輝沙羅キサラが座っており、シグレの話し相手になっている。


「シグレ……無理し過ぎだ」

柚崖ユズガキ……」

「耳に痛い忠告やね、シグレ?」

「確かに、無理、し過ぎだな……」

「アニオタは黙れ……キサラまでかよ…………」


 シグレは思いのほかキツいのか、罵倒する声にも覇気がない。たまに空気が抜けるような咳をしており、まだじゅうぶんに治ってない事が伺える。

 柚子色のショートヘアを揺らしながら、柚崖がシグレに重湯を渡しつつ、言う。


 そこにギィッと音を立てて入口の戸が開く。

 入ってきたのは三十路くらいの眼鏡をかけた男性で、口元にはイタズラっぽい笑みが浮かんでいる。

 ──誰であろう、この男性がここのトップ……なのである。出来ればそう思いたくないのだが。

 中身は単なるシスコン……妹絶対主義なのである。


「シグレ君、大丈夫かい? 君ここ最近まともに寝てなかったみたいじゃないか、婦長に聞いたよ?」

「……寝なかったんじゃなくて、寝れなかったんだっつーの……」

「尚更悪いよ。あんまり睡眠薬に頼り過ぎると、死んでしまう可能性も高くなるんだから」

「ンだよ……寝なかったら寝なかったで文句言うくせに……」

「団長として団員への気配りは当然だろう?」


 はぁ……っと面倒臭そうにシグレが髪の毛をぐしゃりと掻き回す。

 彼の顔に少し赤みが指しており、照れているのだと後々気付かされた。……輝沙羅は気づいていたようだが。


「それで? ツカサさんは何しに来たんや?」

「……任務仕事か」

「うん、白竜君と、輝沙羅君、シグレ君に、後凰嵐おうらん君の計四人で行ってもらいたいんだけど……」

「せやけどシグレ、こんなんやん?」

「危なく、ないのか……?」

「危ないんだけど、仕方ないんだよ。もしかしたらと戦闘になるかもしれないんだ」

「そういう事か……ノアと互角で戦えるの、俺らしか居らへんもんな、今の所」

「そういう事。ごめんね、連戦続きの所を……」

「……大丈夫だ、あと半日あれば動ける……」

「シグレ君は無理をしないように。輝沙羅君、しっかり見ててあげてね? 白竜君は凰嵐君を呼んできて、あんまり説明する暇がないから書類を渡すよ」


 シグレが「分かってるよ、シスコン」と軽口を叩きながら書類を受け取り、真っ黒なシャツとネクタイ、ズボンに着替える。

 輝沙羅はそれを手伝いつつ、大まかな内容をツカサから聞いていた。


「ねーむーいー……」

「ほらほら仕事なんやから起きぃや」

「皆揃ったみたいだし、気を付けてね? Good rack!」


 白竜が凰嵐を連れてきていよいよ仕事に行くことになった。

 もちろんシグレは移動中は休むよう厳命されたが。











「────────早くおいでよ、君の精神ココロ殺してあげるから壊してあげるから──────」


 闇の中で誰かがそう呟くが誰の耳にも届く事は無かった──……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

祓魔師《エクソシスト》と始まりの闇 幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕 @Kokurei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ