大学卒業を控えて一人旅に出た「ぼく」が北海道の奥尻島の海際で見付けたのは、楕円形をした真っ黒のオブジェ。その正体はUFOではなくて、鎮魂のシンボルだった。冒頭の語り口は受かれているけれど、「明日が来ないこと」への思いを経た彼は、いま生きている自分が為すべきことを自覚する。モラトリアムな大学生が、不意に抱いた真剣な決意。旅は非日常だからこそ、日常的な感情を強く揺さぶる。等身大なリアリティが感じられて、すごく好き。
時間を移動するために必ずしもTPDDは必要ではなくて、同一の情報が行き来できれば十分であるというのがUFOには乗っていない宇宙人の主張であるとするならば、同一の情報すらいらないですね、そこに「何か」、思い、心、気持ちみたいなものがあれば、というのがたぶん地球人類の強みであって、そういうことはあるんだなぁと思った次第です。悲しいことは無くならないし悲しくなくもならないけれど、悲しみが適切に伝播することはあって、きっとそれに意味はある。あって欲しいな、という話でした。