僕はそこで空を見た
「次は県庁前、終点です」
暖房が暖かい。明希の白い頬が温度差で紅潮していた。僕は慌てて明希から目を逸らした。
「なんというか、高校時代の悲願を達成してしまったのかな」
図らずも県庁前駅に送り込まれることになってしまった明希は、そう言って笑った。なんで、乗ってしまったのだろう。吸い込まれるように、というのは表現として適切でないかもしれない。だが、どうにも僕はこのモノレールに乗らなければならない、と思ってしまった。
「県庁前から引き返すモノレールは……まだあるみたいね」
スマホの画面を操作していた明希が顔を上げながら言った。僕はなんとなく、その顔を見ることができず、生返事をして窓の外を覗き込んだ。
ビルの4〜5階だろうか。千葉らしく、23時にもなると外のビル群はほとんど真っ暗に電気が消えていた。千葉中央駅に続く道を彩るネオンサインと自動車のヘッドライトだけが、対照的に明るい。
高校の時、毎日のように歩いた街。そんな街も、こういう風に、少し高いところから見ると不思議と違って見える。淀んだ黒い底に沈んだ都川も、目の先にそびえ立つ千葉県庁のビルも、目の下を走る小湊鐵道バスのヘッドライトも、モノレールから見下ろすと、いつもとは違う、何か不思議と特別なものに見える。
モノレールの中には僕と明希だけ。やけに明るい車内はガランとしていた。途端に気恥ずかしくなって来る。何をしているんだ、俺は。ふと前を見ると、僕の前に立つ明希も、僕と同じように外の風景に見入っている。白い横顔にボブの黒髪が少しかかっていた。
すっ、と明希が顔を上げた。何気無しに明希の横顔を見ていた僕と目が合う。僕のほうが大分背が高い。その僕を見上げるように、大きな明希の目が開かれていた。
さっき、モノレールに吸い込まれたように、僕は一歩、明希に近づいた。
あの時、僕が吸い込まれたのは、モノレールではなかったのだろうか。そんなことを考えながら白い明希の頬に温度差とは違う赤みが差した。止まれない。僕はそのまま、明希の手を握った。
「坂田ってなんでも知ってるんだな!」
高校2年の時、千葉城について語った僕に、明希はそう言って笑った。5年経っても、明希も、この街も、このモノレールも、そして僕も、何も変わっていなかった。
モノレール p @Aien_Kin-en
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