普通、県庁前行き

 23時の葭川公園駅は案の定、下界の繁栄から切り離す結界が張られているかの如く無人で、静かだった。吹きっ晒しのホームを吹き抜ける風が酔っ払いの火照った体に心地よい。明希の首に巻かれた白いマフラーが風に靡いていた。

「16分に県庁前行き、22分に千葉みなと行きか」

 明希が時刻表を見ていった。僕の腕時計は23時12分を指している。後10分もあるのか。今は酔っ払って火照っているが、この吹きっ晒しに10分だと流石に寒い。

「寒くないか」

 僕は明希に問いかけた。しかし、明希は意にも介さずニコリと笑って言った。

「あたし、モノレールに乗ってみたかったのよ。高校の時からさ。実家大網だし、遊ぶって言っても千葉まで歩くしさ」

「あれ、野球の応援に行かなかったっけ?」

 僕は天台のスポーツセンターを思い出しながら言った。県野球場に野球部を見に行った時にモノレールに乗った。僕の唯一の千葉都市モノレール体験である。

「行かなかったな、丁度模試だか、勉強だかがあった気がする」


 明希の話に被さるように、不意にアナウンスがなった。僕と明希がふと顔を上げると、シャーッというゴムタイヤの音を立てて銀色の車体が駅に滑り込んで来た。


 「県庁前」と電光掲示板に書かれたモノレールのドアが開く。黄色い光が、僕と明希の間に零れて広がった。

 そして光とともに、暖かく暖房された空気が広がった。僕と明希は少し顔を合わせた。そのまま、二人同時にモノレールに目を移す。

 

 不意にベルが鳴った。警笛が吹かれる。

 明希がモノレールに向かって歩き出した。僕もつられて歩き出す。

 眩しい空間と暖かい空気が僕たちを包む。背中の後ろでドアが閉まった。

「あっ」

 僕と明希は同時に声をあげた。23時16分発、県庁前行きのモノレールは、僕と明希を乗せて、僕たちが目指す方向と逆方向に走り始めた。

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