NAGASAKI ~第二の故郷~

加藤ゆうき

第1話NAGASAKI

 十歳のとき、長崎県にやって来た。

 それ以来、県内を転々と移動した。


 最初に住んだのは松浦まつうら市。漁師と農家の町だ。

 それだけではない。ベトナムやカナダからやって来た人々もいる。

 岩肌の海、風の薫りがする草原、牛の鳴き声。

 異国の言葉に慣れ、自然に揉まれて逞しくなるころ、私は十五歳になった。


 お寺の鐘の音色とフェリーの汽笛に包まれ、小さな島と別れた。


 中学を卒業した私は、佐世保させぼ市のミッション系女子高に進学した。

 そこで何人ものオーストラリアからの留学生と出会った。

 街に出かければ、数多のアメリカ人で賑わっていた。

 アメリカ製のお菓子や調味料だって揃っている。


 教会の鐘の音色と讃美歌で祝福され、十八歳の私は高校を卒業した。


 それから私はいくつもの職場を経験した。

 その中で印象的だったのは、平戸ひらど市。


 かつて日本最古の海外貿易港として栄えたこの町は、歴史をしっかり刻み込んでいる。

 キリスト教徒への弾圧。

 鯨の別名、勇魚いさな漁の繁栄。

 異国の血を受け継ぐ故に日本から追放された「じゃがたら娘」の望郷を綴った手紙。

 潮風に誘われて、江戸時代にタイムスリップしてしまう。


 現代に戻ると、明治から昭和時代にかけて建てられた教会のおごそかな雰囲気に圧巻される。


 その町には、おもてなしの心で国内外のお客さまをお出迎えする一人のホテルマンがいた。


 長崎のどこに行っても、お寺と教会、国境を越えた人々がいる。


 方言、言語、文化の違い。

 さまざまな悩みを抱え広大な海を眺めると、すべてがちっぽけなことだと気付かされる。


 NAGASAKI 、心を洗ってくれる街。

 ここ日本に存在する。


 「いつでもおいで!」

 NAGASAKI の大地がそう言っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

NAGASAKI ~第二の故郷~ 加藤ゆうき @Yuki-Kato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ