女子力大学院2

ロッキン神経痛

第2話 インテリアコーディネーター学科博士課程二年、藤沢美穂

第1話 ネイル学部修士一年 瓜生桜子

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881885342


⁽⁽◝( •௰• )◜⁾⁾ここまでのあらすじ₍₍◞( •௰• )◟₎₎


 ここは福岡県宗像市。2015年に宗像市都市再生プロジェクト専門家会議の提言によって設立された、日本で唯一の「女子力大学」を擁する、日本が誇る女子力の聖地である。大学設立以来、未だ三人のみしか排出されていない女子達が垂涎の的とする女子力最高峰の証、Ph.J.(ジョシリョク・オブ・フィロソファー)女子力博士を認定する博士号認定試験の季節が今年もやってきた。

 鹿児島からやって来た坪居佳奈は、そんな女子力の頂点を争う女子力大学校に単身乗り込み、無謀にも一発試験による女子力博士を目指すのだが……。


⁽⁽◝( •௰• )◜⁾⁾あらすじおわり₍₍◞( •௰• )◟₎₎



「インテリアコーディネーター学科博士課程二年、藤沢美穂よ。わたしも丁度、今から女子力博士認定試験に行くところだったの。せっかくだから一緒に参りましょう」


 そう言って微笑む美穂には、無論佳奈を試験会場へ無事に連れて行く気など毛頭無かった。通常、インテリアコーディネーターとは、インテリアや住宅や商品に関する幅広い知識・専門的な技術などを駆使して、家具やカーテン、照明等の商品をトータルにプロデュースする職業であると知られている。しかしここは、泣く子も黙ってパンケーキ屋で撮った自撮りをインスタに上げる女子力大学院。


ここでのインテリアコーディネーターとは、空間を完全に支配し、その限定的な空間において神のごとき力を振るう女子力の事を指す。そして何を隠そう佳奈の前に現れたこの女、藤沢美穂は、インテリアコーディネーター学科始まって以来の逸材と呼ばれる程の才能の持ち主である事を、鹿児島から出てきたばかりの佳奈は知る由もなかった。


地下への階段を駆け足で下り、徐々に人気のない方へと進んでいく美穂と、大きなリュックを左右に揺らしながらもそれに必死に付いていく佳奈。


「ほら、着いたわよ。ここが試験会場よ。」


「え、あの、ここって……。」


試験会場が地下階である事に疑問も持たない程に、人を疑う事を知らない世間知らずな佳奈が連れて行かれた先は、暗い地下室だった。何故か試験会場の鍵を自ら開けて、ニコリと笑顔で中へ入るよう促す美穂。暗い試験会場へと入った佳奈が、やっとその部屋中に漂う死臭に気づいた時には既に遅かった。


身体を強張らせた佳奈が思わず一歩二歩と後ずさりをするも、その背中は冷たい鉄のドアの感触に邪魔されてしまう。いつの間にか、入ってきたドアが固く閉まっているのである。


「これが私の自慢のインテリア屠殺場よ。」


パチンと指を鳴らす音がして、暗い部屋の電気が付く。入ってきたドアからは想像もつかない程に広い地下空間。そこには……


「マ、マリメッコ……!!」


まず視界を取り戻した佳奈の目に、彩度の強いビビットな色で描かれたあの不安定さが逆におしゃな感じを与えるぐにょぐにょの花の絵が飛び込んできた。壁一面にはカラフルな花柄、天井にはキノコだか果物だかよく分かんねぇとにかく可愛いって言っとけば可愛い感じの可愛い柄が可愛く描かれていてとても可愛い。床一面には白地に黒色で描かれた木の枝葉がびっしり描かれていてとても可愛い。ああ可愛い、なんて可愛いのだろう、そう、可愛いものの洪水の中に放り込まれた時、女子は思考を停止する事がままある。圧倒的な可愛いという情報を瞬時に脳内に叩き込むインテリア女子術。これが、大学内に108ある美穂がコーディネートした部屋の一つ、情報過多マリメッコ地獄部屋である。


「……か、可愛い。」


「そう、可愛いでしょ。ねえ佳奈さん、マリメッコは可愛いわ。そして北欧は尊い。少しでも女子力を持つ人間なら、分かるわよね。」


「可愛い可愛い可愛い可愛い、かわ……ハッ!」


バッコン!!


マリメッコタイフーンに巻き込まれ、虚ろな目でつぶやき続けていた佳奈が、危険を感じて咄嗟に側転をする。バランスを崩して擦りむいた膝にも目を向けず、肩で息をしながら自分の元居た場所を見つめる佳奈。そこには、さっきまでは無かったはずの何かが映っていた。


「これは、アイアンメイデン……!?」


それは、青色ベースにオレンジ色の花が大きめに描かれた、マリメッコ柄のアイアンメイデンだった。マリメッコ柄にカモフラージュされて見えにくいが、目を凝らすと部屋のあちこちに同じ形の拷問器具が可愛く鎮座されているのが見えて、とても可愛い。北欧柄の可愛いアイアンメイデン。愛され拷問ガールのモテカワアイアンメイデンだ。


「今の初撃を避けるなんて……あなたも意外と女子力、高いのね。」

「ここで、一体何人を殺してきたの!」

「今まで食べたコストコのディナーロールの数を、あなたは覚えていて?」

「この外道……!」


佳奈は、それでも思わず可愛い物を愛でたくなる狂おしい程の愛の洪水の中で、何とか正気を保とうと努力した。そんな佳奈の気持ちなど無視するかのように可愛いノルディックアイアン・メイデンは、空間の支配者である美穂の強い殺意を反映して、するどい北欧アンティークの棘を鈍く光らせ、佳奈の生き血を啜ろうと扉をバッコンバッコンと開閉させる。可愛い、可愛いアイアンメイデン。佳奈は、そのアイアンメイデンの甘い誘いに必死に耐える。赤茶けた血のこびりついたアイアンメイデンの中に飛び込みたくなる狂おしい衝動を必死に抑えながら、佳奈は何やら指先で何かを手繰るような仕草をしてみせた。


「あなたの女子力も、この部屋の中に入った以上意味を持たないわ!さあッ!愛されなさい!」


そう叫ぶと同時、部屋中のアイアンメイデンが佳奈に向かって踊りかかった。バッコンバッコンと開閉するアイアンメイデンの群れ。既に勝利を確信した美穂は、後ろを振り向いてビーズでデコったiphoneを取り出すと、インカメラにして自撮りを始めた。愛されガール死体と化した佳奈をバックに、今日の着回しコーデをフェイスブックにアップするつもりなのだ。


カシャ!カシャ!


「…そんな…あり……えない……わ……」


シャッター音と同時にiphoneは地面に落下した。それに続くように地面に倒れたのは、勝利の自撮りを美肌補正アプリで撮影しようとしていたはずの美穂の方だった。


「なぜ……この部屋の……コーディネーターは……あたしのはず……」

「模様替え、させてもらいました。」

「嘘……こんな短時間に……。」


無様に這いつくばった美穂が見たのは、佳奈の足元だった。そこには、ビビットなマリメッコではなく、落ち着いた風合いを持った白い幾何学模様が広がっている。驚愕の表情でその地面の模様を見て、その次に少し小さくなったリュックに目をやった美穂は、完敗とばかりに弱々しい笑顔を浮かべた。


「どこで、そんな女子力を……」


その質問に答える事無く、佳奈は美穂のポケットから鍵を探り、冷たい鉄のドアを押し開けて外に出ていった。後に残されたのは、悪趣味な程のマリメッコに囲まれた部屋の中央で、顔をぐしゃぐしゃにして、つけまが剥がれ落ちるまで哀れな敗北の慟哭を上げる一人の女子の姿だった。



To be continued...

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