あっと驚くようなことも、ぎゅっと胸がつまるようなことも、かっと憤るようなことも起きません。それでも、読了後に「なにもない」わけじゃないんだろうなと思わされてしまうから不思議です。東京には「なんでもある」、青森には「なにもない」というのは浅はかな表現なんでしょうね。しかし、何があるのかと問われても明示しにくいのも本音でしょう。文章全体で、青森に何があるのか示唆してくれる作品です。
穏やかな風景、穏やかな文章・文体何もない田舎の風景を描くのに良い組み合わせ私はその町に行ったことがあるので、田んぼの中を一直線にどこまでも続く農道からの風景が思い出されましたけど、中里町を知らない人でも、なんとなく風景が目に浮かぶんじゃないでしょうか
田んぼばかりの津軽の夏が、端正な文章によって、色鮮やかに綴られる。蒲の穂、割れたコンクリートの道、お墓参り、橙色の火。祖父の猛烈な津軽弁が、不思議に魅力的だったこと。父の言うとおり、「なにもない」こと。少し寂しく、とても居心地のよい作風に、行ったことのない津軽へと旅してみたくなった。切なさのにじむ郷愁の物語、すごく好き。