第47話「結実の剣」
生きて帰ると約束した忍。そして十分が経ち、ついにネオナチスが現れた。
その魔法少女の数は大量であり、学園の生徒より少し少ないくらいだった。
「マジカルロッド、コネクション!」
生徒達がそういうと、正面に構えた杖から桃色の魔法陣が展開される。
当然その中には忍や理香子、頌子にかんな。そして美夢も居た。
「マジカルロッド、ゲートイン!」
すると彼らがそれぞれ魔法少女の衣装に包まれ、杖も形状変化する。
美夢の杖がモーニングスターに変わったのを見て、忍は突っ込む。
「杖は杖でも打撲用の杖なの!?」
「私は杖を振り回すほうが性に合っているの」
「だからその形状なんだろうが、さすがに魔法少女としてどうなのかな……」
すると頌子がこう突っ込む。
「いや、剣や槍も何かおかしい気がするけど」
「一応剣や槍で戦っている魔法少女は居たわよ?」
そんな理香子に忍は首をかしげる。
「ビームで戦うのは知っているが、なんだっけ?」
「あなた、まさかあの作品を知らないの?」
「あんな鬱なだけの作品、魔法少女物として認めたくないんだよ」
「まああなたはそういう作品苦手だからね。その割にはあの二匹目のドジョウ狙いのロボアニメは平気だったけど」
理香子の指摘に忍は返す。
「あれはまだ救いがあるからいいんだよ。あんなのが本当に救いなのか分からないよ……」
「たしかに、神様になっちゃった主人公を強引に堕天させるってのは賛否両論ありそうね」
「そんなのは二者択一のエロゲーくらいでいいんだよ」
すると理香子が突っ込む。
「何でエロゲーなんか知っているの?」
「お父さんがいっていただけだが、選ばなかったほうが消えるとかヤバいだろ」
「私もエロゲーっていうのは18禁なギャルゲーだってことしか知らないけど、まじめにヤバくない?」
「ああ、だから結構賛否両論が巻き起こったらしいぞ。さすがにエロシーンについては触れなかったが」
理香子は安堵しつつ忍に突っ込む。
「そりゃあなたが未成年だからね。触れれるわけないよ」
「そうでなくても、触れていたら母親に殴られていただろうぜ」
そんな忍に、理香子はあきれるように返した。
「それ、殴るだけで済むかしら……」
「どういうことだ?」
「私もそういうのはよく分からないけど、何となく殴られるだけで済む気がしなかったのよ」
「そういうものなんだね。まあ僕らの年齢でそういうのが詳細に分かっちゃいけなさそうなのは分かった」
そんな会話をしながらも、ネオナチスの軍勢を倒していく忍達。
かんなは詠唱しなければならないが、後のメンツは詠唱せずとも戦えるのだ。
まあ武器が形成されているので当然の帰結かもしれないが。
「しかし、数はほぼ互角か。連携は相手の方が上だな」
雷やら水流やらが飛び交う光景はまさに魔法使い同士の戦いといえるだろう。
銃弾のみならず、爆弾やタライまで飛び交っているので何かおかしいのだが。
もう飛び交っている物が可笑しい気がする状況で、
毒使いが忍に向かってやってくる。
「飛ばしていた物を見るに、毒使いか……さすがに面倒だな。相性が悪い」
そんな忍に敵方の毒使いへ立ちふさがったかんながいう。
「ここは私に任せて」
「ほう、忍の居るクラスで最強と呼ばれた魔法少女か。だが所詮模擬戦ばかりしていた人間」
「確かに私は忍に負けた。けど!ミラージュシューター!」
「その攻撃は既に調べが付いている」
「甘いわね。それは牽制よ。ミラージュオールレンジ!」
すると四方からビームが毒使いを襲おうとする。
「ベノムフィード!」
毒の結界が毒使いを守る。
「甘いな。私にはこの奥の手がある」
「でも、それは自分が毒を食らわないようにするなら連発はできないはず」
「それはお前のオールレンジ攻撃も同じことだろう。そしてお前は私に近づいて杖で殴ることもできん」
「そうね。近づいた瞬間、あなたは私を毒の結界で包む」
「まあ、私の毒は科学的に合成された物。周囲の硫黄とかを混ぜた物だから受けても助かるとは思うが」
「でも、戦線離脱する羽目になる。だから食らうわけにいかないのよ」
もっとも、といったのは毒使いだった。
「私がお前に近づかない道理はないがな」
そういって近づいてくる毒使いにかんなはいう。
「あなたが私に近づいたら、この戦いは終わるわね」
「ああ、お前の負けだ」
そして毒使いが近づくが、そこにビームが撃ち込まれる。
「な、全てのビームを私に撃っていたわけではなかったのか!」
「あなたの背面に撃ったビームはそのままあなたの頭上で滞留させていたのよ」
「そこでお前に私が近づけば、ちょうどいい位置にビームが打ち込めるというわけか」
そういいつつ、毒使いは地上に落ちていった。
「やったな、かんな」
「だけど、さすがに今ので魔力を使いきったわ。あの毒使い、名前は名乗らなかったけど強力だった」
「次は私に任せて」
そういった理香子が向かったのは、斧使いだった。
「ほう、私に槍で立ち向かってくるか。おもしろい!」
「さあ、行くよ!」
そういって理香子が槍を構える。
一方、相対する斧使いも斧を構えた。
「ランスブレイカー!」
理香子は槍を振り回すように突き出したが、斧に防がれる。
「斧は面積が広いからな」
「ちいっ、中々やるわね」
「これでもくらえ、アックスブレイク!」
斧使いが斧を振り下ろすが、理香子はそれを難なくかわす。
「レンジは相手の方が短いけど、近づけなきゃ攻撃を防がれる……」
「ほう、冷静だな」
「なら、あれを使うしかないわね」
理香子が槍を投げる構えを見せる。
「呼び戻し機能で槍を戻ってこさせるつもりか?その前に叩き伏せてやる!」
だが、理香子はそのまま突っ込んでくる。
「ランスブリンガー!」
それを見た斧使いはいう。
「なっ!?まさか上手に持った槍で、そのまま突っ込んで来るというのか!?」
斧使いは予想と違う攻撃をされ、慌ててしまったようだ。
投げると見せかけて突っ込まれたんだからそれも仕方ないかもしれないが、
斧使いはそのまま貫かれた。
「ふう、今のはある種のかけだったけどね。見事に引っかかったわね」
だが、そこで銃弾が飛んでくる。腹を撃たれた理香子はたまらずいう。
「うっ!今のは流れ弾?」
「いいや、私だ」
そこに現れたのはピストルを構えた少女だった。
「理香子は下がって。ここは私がやる!」
そこに頌子が割って入る。
「ここは私に任せて。ウインドネスクルセイド!」
「弓矢がピストルに勝てる道理はない。ましてや私の弾丸は魔法。あなたのように曲げることもできる」
そういってピストル使いは弾丸を撃つが、それは弓矢に相殺された。
「たしかに構えてすぐ撃てるのはピストルの売りだけど、弓矢と違って音が出る」
「魔法の場合いわなきゃ曲げられないから、むしろピストルの方が優位よ」
「そうかもしれないけど、あなたのピストルは引き金を引くことが曲げるトリガーのはず」
「何がいいたいの?」
「私の弓矢が一本だと誰がいったの?」
「さっきかんなとやらが毒使いを倒した要領で頭上で滞留などできまい」
だが、その弓矢は下からピストルを射抜く。
「だから、私が持っておいたのよ。銃弾を掴むよりは、弓矢を掴む方が簡単だから」
そういったのは美夢だった。
「ちいっ!降りなければ墜落するか」
そういってピストルを持っていた少女は下に降りていった。
「さて、後はボクがどうにかしないといけないね」
そんな彼の前に現れたのは、悪堕ちしたかのような衣装の彼の姉らしき存在だった。
「見た目には騙されないよ。大方姉さんのクローンだよね?」
「バレては仕方ない。私はダークメイザード。いかにも、お前の姉のクローンだ」
ダークメイザードという名乗りを聞いた忍は彼女にこう指摘する。
「姉さんの遺伝子を採取するのは容易だろうけど、その名前は自分が悪役だといっているような物だよ」
「クローンは本来闇の存在、だから『闇のメイザード』を名乗った」
「なるほど、一応理由は考えてはいるんだね。色々センスが悪いけど」
「総統閣下のセンスなど、下等な民族に分かりはしない」
それを聞いた忍は、あることを思い出したのでそれをぶっちゃけた。
「そういやヒトラーは画家を志望していたけど全く売れなかったんだっけ?」
「ふん。高名な画家といえど本当の美術は分からんということだ」
「彼の絵は今見たらどう評価されるのか……画家としての彼の評価は見直すべきかもしれないけど」
「今では悪名高い独裁者だ。何しろ負ければ賊軍の世界だ。お前たちとてそれは同じだろう」
「ナチスはユダヤ人を弾圧したけど、日本人にはそれを救った人も居る。一緒にしないでよ」
そんな忍にダークメイザードは返す。
「イスラム国にその理屈が通じなかったのはお前も知っているだろう?」
「元より日本的な宗教観はイスラム教と水と油だ。マヨネーズのようにはなれても、基本は相いれない」
「それも所詮は理屈の話だ。現に彼らは日本人を『十字軍』と見なした」
それには忍も呆れたような反応をした。
「そこはもう、いい迷惑としかいえないよ。日本でキリスト教徒は少数派なんだから」
「ふん。そういい返すしかない辺り、そのことはやはり知っていたようだな」
「知っていてとぼけるよりはましだと思うけど?」
ちなみにこの間も忍とダークメイザードは戦っていた。
ダークメイザードは杖で戦っていた。
マジカルロッドは形状変化が可能といえどオリジナルたる神奈がマジカルロッドを使っておらず、
どんな武器が適正か分からないのでやむをえない措置だろう。
また彼女は魔法全般の扱いに長け、決まった属性は持たなかった。
ゆえに杖が妥当だと思われた部分もあるだろう。
「行くよ、メイザードブレイク!」
忍は上空から剣を振り下ろす。だがそれはロッドで受け止められる。
ロッドは剣の力で切られたが、ダークメイザードは意に即さない。
「食らえ、ダークネスサンダー!」
切れた杖、ちょうど切れ目の部分から雷が放たれる。
そのまま忍は吹っ飛んでいくが、杖は火花を散らし完全に破損した。
「やむをえない。ここは撤退する」
そういってダークメイザードはいずこかへと飛び立っていった。
それを見た理香子は呟いた。
「忍は無事なのかな……」
一方忍は雷を受けて加速し、船着き場へたどり着いていた。
(ダークメイザード……彼女は姉さんのクローンだから僕と魔力の波長は似てる)
(あの距離で炎だと自分も焼ける、魔力弾だとかわされると思い雷にしたんだろうが)
(あいにく、雷は電気。強力ではあるが、エネルギー源にもできなくはない)
そういえば、と忍は思う。
(昔の映画でも雷をエネルギーにして動くタイムマシンがあったな)
(今回の僕もその要領で飛んできたといえなくもないのかな)
しかし忍はすぐに思い直す。
(考え込んでいる場合じゃないな。とりあえず今の内に船内に潜入しよう)
そして忍が入り込むが、ネオナチスの兵士は警戒もしていない。
どうやらここに敵が来ないはずと、調子に乗っているようだ。
と忍は一瞬感じたが、警戒している魔法少女達も一応いた。
どうやら、単なる人材不足だったらしいと忍は思い直した。
ともあれ警戒しているのが魔法少女くらいしかいないのは、
それ以外のメンツは報告する前に倒されると予測したからだろうか?
(だがヒトラーの脳があるところは特に警戒しているはずだ)
そう思い油断せずヒトラーの脳があるところを探す忍、
だが彼が向かった先にあったのはマジカルガイストだった。
(なぜこんなところに『ハーケンクロイツ』が?警報装置と連動しているかもしれないが)
しかし忍は持っていた剣でマジカルガイストを切り裂こうとする。
「メイザードストラッシュ!」
マジカルガイストはあっさり切られたが、やはり警報装置が作動した。
(予想通りだ。警報を知った船員はヒトラーの脳を運ぼうとするはず)
そう、忍はそれを狙っていたのだ。
マジカルガイストでさえ警備が薄く警報装置と繋がっているだけなら、
逆説的にヒトラーの脳は重点的に防衛されている。
さすがにそんなところへ一人で飛び込むのは無謀なだけなので、
忍は運搬中のところを狙ってヒトラーの脳を破壊するつもりだったのだ。
そしてその場で待っていると、警備兵がこう叫んでいるのが聞こえてくる
「侵入者だ!総統閣下が危ない、運び出すんだ!」
「しかし奴がその場から動いてなかったらどうします?」
「まさか……警報装置を鳴らしてその場から動かない奴などいない」
「居たとしたら?」
「そいつは馬鹿か、あるいはとんでもない切れ者のどちらかだ」
するとそこに忍がやってくる。
「僕は智略を巡らすのは得意じゃないが、こういう時の判断は当たるらしい」
「なっ、だが!」
警備兵はネットを撃ち出す。
「馬鹿なら避けるだけだろうが、これならどうだ!」
すると警備兵が微動だにしない忍を見てあざける。
「ネットに捕まった!馬鹿め、このネットは電流を流す。勝負あったな」
「それはどうかな」
忍はネットに剣を突き立てる。
「電流が剣に集まって、弾けただと?しまった!」
警備兵は逆に感電してしまい、その隙を突いて忍はネットから脱出する。
そして警備兵の落とした容器に脳が入っているのを確認し、
それを破壊するのだった。
(みんな、終わったよ……)
その後ネオナチスはヒトラー死亡の報せを受け散り散りになり、
魔法少女同士の戦いにようやく幕が降りたのだった。
放課後のメイザード 月天下の旅人 @gettenka
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