第46話「放課後の戦記」
忍の性染色体に関する発言へ、頌子が突っ込みを入れる。
「その問題は妊娠する側の卵子をXだけにすれば解決するはずよ」
「まあ子宮移植する場合もXXにする手が使えるが、iPS細胞を使う場合はどうするんだ?」
「そこは何とかするしかないじゃないの?そもそも私達は専門家じゃないし」
「それをいったらお終いだな」
するとそこにかすみが入ってくる。
「本題から逸れているわよ。今はネオナチスの演説が本題だから」
そこで設定ミスだとばかり思っていたといった生徒はいう。
「まあ、これは私のせいね」
するとかすみがそれに答えるかのように生徒達へ向けた発言をする。
「とにかくネオナチスに備えてしっかり学んで、遊ぶ時はしっかり遊びましょう」
「はーい!」
生徒達が元気よく答えた。
「で、あなたはどうするの?」
そう忍に問いただしたのはかんなだった。
「別にどうってことはない。男だとバレた以外はいつも通り過ごせばいいわけだし」
女装姿ながら男声でそういう忍からはどことなくシュールさを感じさせる。
女装が似合っているのだからなおさらである。
「いつも通り、ね。実際バラしたのはここのクラスメイトだけだし」
「それがそうでもないのよ」
そういったのはかすみだった。
「校長から通達して、早速全校生徒に教室でバラすの」
「何だってー!?」
驚く忍に、かすみは冷淡に返した。
「クラスメイトがうっかり漏らすかもしれない以上、予めバラす方が余計な噂も流れないのよ」
「それはそうかもしれないが、いよいよ持って何やってんだか……」
さすがに、公にするわけではないといってもこれは恥ずかしい。
何せ忍が自分の意志でやってはいなかった女装を、こんな形で周知されてしまうのだから。
しかし当の本人は恥ずかしいというよりはただ単に驚きの方が多かったようであり、
こんなことを口走った。
「まあ遊びでやってたわけじゃないし、いいかな」
すると理香子が悪ノリする。
「『遊びでやっているんじゃないんだよー!』って奴?」
「あながち間違いじゃないのが何ともいえないが、何でそのネタを知っているんだ」
「ネットで見たのよ。結構有名な作品だし」
「まあ、国民的なシリーズの一つで主人公がいったセリフだからな。印象に残ったんだろう」
「その作品は昔の作品だったけど、10年以上前にリメイクされたらしいわ」
「リメイクも今となっては昔の話、っていうのがシリーズの長さを感じるな」
忍もそういいつつ、何故か灌漑深さを感じるのであった。
アニメの話をする忍達にかすみは突っ込む。
「遊んでいる場合じゃないわよ。授業は今までよりも模擬戦が増えるだけだから」
「でも、模擬戦中に襲われたらまずいんじゃないです?」
一回そういうことがあったので、それに慎重な対応をした忍だった。
「そういう時は私達が戦うから」
「そうですか」
まあ、それが妥当だろうと忍は思った。
魔力は無限でないため、使い切ると危ない。
よって模擬戦中に攻め込まれたら他人任せとならざるを得ないのだ。
「まあ、やるべきことが分かっているなら遠慮はいらないさ」
忍がそういうや否や、かすみがいう。
「忍くんのいう通りね。これから模擬戦を始めます!」
そして昼休みになり、忍は理香子や頌子と共に食事を取っていた。
「ネオナチスの連中はまだ来ないんだろうか?」
そんな忍に理香子は返す。
「私は、来ないなら来ないでいいと思うわ。正直、彼女達とやりあうとなると」
「怖いのか?」
「ニューワールドと違ってあくまでも普通の少女じゃない。それも私達と同じ年齢の」
すると頌子が突っ込む。
「マジカルロッドを持っている時点で普通じゃないけどね」
「そうかもしれないけど、だからといって割り切れないわよ」
忍は理香子の肩に手を乗せる。
「この年齢なんだ。『割り切らなきゃ死ぬ』といわれても割り切れないだろうな」
「まあ、死ぬことはないけど。それでも足を引っ張りかねないって自覚はしているわ」
「でも、『誰も傷つく必要のない世界』なんて結局のところ理想論でしかないんだ」
そんな忍に理香子は返す。
「ハッピーエンドは『ご都合主義』で手に入る世界じゃない、ってことね」
「ハッピーエンドもバッドエンドも、この世界はどちらにもなり得るふり幅を持っている」
だから、と忍は続ける。
「都合のいいハッピーエンドも、都合のいいバッドエンドもこの世界には存在しない」
すると、頌子がそれに頷く。
「この世界にあるのは唯一無二の『トゥルーエンド』だけ、ってことね」
「ああ。その『トゥルーエンド』がいい終わり方になるか悪い終わり方になるかは結局僕達次第だ」
たとえ、と忍が続ける。
「僕達が小説の登場人物だったとしても、アニメの登場人物だったとしても」
「結局、『作者』が『キャラクターの動き』を起こす時はその『キャラクター』に縛られるんだから」
それに、近くに座っていたかんなも同意する。
「そうね。結局は私達の頑張り次第で、『筋書き』があったとしても全力を尽くさないといけない」
「かんなもそう思っているのか。そう神様が居たとしても、それがすべてを決めれるわけじゃないんだ」
昼休み、忍達は食事を取っていた。
「あなたも放課後に戦えば『放課後のメイザード』と呼ばれるのかしら」
そんな頌子に忍は返す。
「それは無いだろうな。『放課後のメイザード』といえば神奈の二つ名だ」
ちなみに、と忍は続ける。
「アイヌと戦った奴は『対話のメイザード』と呼ばれているらしい」
「そういえば、その人物を見ないわね」
そういったのは理香子だった。
「当然だ。彼はマジカルロッドを使い無理矢理戦った」
そんな忍の返しに理香子は疑問を投げかける。
「あれ、以前『魔法を想像できない男性にはマジカルロッドでも魔法は使えない』といってたわよね?」
「実際にその通りなんだが、彼は『想像をアシストする』マジカルロッドで足りないイメージを補った」
「つまり、足りない分を機械的に補完したってこと?」
その理香子の疑問に忍は答える。
「その通りだ。だがそれはマジカルロッドに負担を強い、最後は負荷に耐えきれずぶっ壊れたという」
「使った本人は無事だったの?」
「むろん彼が地上に降りてから役目を終えるような感じで、バラバラに分解したらしい」
そんな忍に頌子は返す。
「まるで機械が彼の戦いが終わるまで耐えたみたいね」
「元々安全装置があったから、それが働いたんだろうというのが政府の見識だ」
だが、と忍は続ける。
「彼の思いが奇跡を起こしたんじゃないかって僕は思うよ」
「奇跡って……いくら魔法があるからといって、それでも科学で説明の付く現象しか起こらないはず」
「魔力が元々何から得られるか忘れたのか?」
その問いに頌子は答える。
「体力と精神力だったよね」
「体力はともかく、精神力は科学で解明しきれていない。機械を持たせるくらいはできると思う」
「それが正しかったとしてもうオカルトの部類だけどね」
理香子があきれるように返した。
「まあ何でも科学で分かることばかりじゃない。だからこそ世の中面白いんじゃないか?」
そんな忍に理香子が突っ込む。
「でも魔法は一応科学で分かることだけど」
「それはいいっこなしだって」
忍の返しに頌子が追い打ちをかける。
「科学で魔法が分かるなら、いつかすべての現象は科学で説明できるはずよ」
それこそ、と頌子は続けた。
「幽霊とかUFOとかもね」
「幽霊はともかく、UFOは大概作りものらしいぞ」
でも、と理香子は返す。
「UFOは未確認飛行物体のことだから、UFOは案外魔法で放たれた光だったりするかもしれないわ」
「まあ宇宙人が居ないって保証もないが、そっちの可能性の方が高いだろうな」
「ともかく、今はUFOよりもネオナチスだな」
そんな忍に理香子は応えた。
「そうね。でも気を張り詰めすぎても魔力は上手く使えない。こういうのも大事よ」
「ネオナチスの連中はこういう会話はしてないんだろうか?」
すると頌子がそれに答える。
「年相応の少女だし、やっては居るんじゃないの?訓練は私達以上にやっていると思うけど」
「そりゃ、本気で世界征服しようって連中だしな。相応の訓練はしているはずだ」
「それでも訓練が長ければ勝てるわけじゃない、そうよね?」
頌子は冷静だが、これは事実に即している。
魔法は精神力が元なので、精神の状態にも左右されるのだ。
よって訓練による力量差も場合によっては覆されることがあるからだ。
「だが、彼らもヒトラーへの忠誠心が厚い。一昔前の北朝鮮の人民解放軍のようにな」
そんな忍に理香子が返す。
「実際彼はドイツ国民の支持を集めて独裁を行ったんだし、カリスマは高い」
「ネオナチスの精神力はそこから来ている可能性が大いにあるわ」
それに頌子も同意する。
「そうね。それに彼らは統率されている。こっちは個人がバラバラで動いていて纏まりがない」
だが、そこに忍は反論する。
「マニュアル通りの動きしかできないなら、付け入る隙はある。現に頌子もそれを突いたはず」
それに頌子はいい返す。
「確かにそうだけど、あの時は一対一だった。恐らく多対多の戦いは相手の方が上よ」
忍はそれに頷く。
「その点は同意だ。こっちとしては引き離しての各個撃破を狙いたいとこだな」
「まあ、集団は引き離されたら脆くなる。単独でも強くない限りはね」
「単独でも強かったのはレジストールくらいだが、そいつもバリアーを割られて敗れた」
確かに、と頌子は返す。
「彼の魔力は強大だった。マジカルロッドがあったとしても、一対一では勝てなかったかもしれないわ」
「まあそんな前提はどうでもいいだろ。あいつはもうこの世に居ないんだしな」
「ええ。神奈の攻撃でバリアが割れてそのまま道路に追突して死亡。遺体も残ったから間違いない」
無論、と頌子は続ける。
「心臓を打ち抜いただろうヒトラーはともかく、彼はショック死だから脳も無事ではないはずだしね」
「仮に脳が無事だったとしてもあの後放置されて、その後荼毘に付されたからな」
忍も彼が生きていないことについては同意した。
「けど彼の意志は生きているかもしれない。ニューデイズはバラバラになったけどね」
「混乱したところを魔法使いに倒されて捕縛されたり、戦闘機に撃たれて死んだ奴がほとんどだがな」
そして昼休みも終わり、放課後となる。
「まだ奴らは来ないんだね」
すると頌子がそれに突っ込む。
「そりゃこことドイツじゃ時差もあるし、今頃船の中で昼寝でもしているんじゃない?」
「彼らの拠点はパレスチナだから、時差はドイツより少ないだろうが」
それを聞いた理香子がスマホで調べる。
「そうね。サマータイム込みで6時間みたいだし。朝早起きしたのかな」
「早起きなんてレベルじゃないぞ。あの演説は8時半。つまり向こうは二時半だ」
「むしろ寝るのを遅くしたってこと?」
そんな理香子に忍は答える。
「そっちの方がありえるだろうな。準備とかを考えれば充分可能性は高いから」
「ってことは、徹夜であれを組み立てているかもってこと?」
「魔法少女に徹夜はさせれないが、その可能性はあるだろうな」
それに頌子が返す。
「もっとも、徹夜しているといってもこっちは6時間進んでいて今こっちだと午後5時ころだから」
「大体十一時で、お昼前ってことか。もっとも、さすがにブランチを食べてから攻めるだろうが」
「あれから『徹夜』したとしてつまり十五時間。それでマジカルガイストを完成できるかしら」
「できないんじゃないか?脳を接続するなんて簡単なことじゃない」
「じゃあ、消耗させて翌日まで持ち越させる可能性があるってこと?」
そんな頌子の疑問に忍は頷く。
「ああ、だから奴らの本拠たる船を叩く」
「船ね……でもそこまで行けるかしら」
そういった理香子に忍は断言する。
「はっきりいおう。それは可能だ。僕には作戦がある」
「作戦?」
「それはいえないな。口裏合わせるのも難しいだろうし」
「そんなこというくらいだから、とんでもない作戦なんでしょうね」
「ああ、この作戦は一歩間違えれば君たちに見限られるかもしれない」
すると頌子が冷静に分析する。
「逃げるふりでもするつもり?」
「まあ、想像に任せる」
そこに理香子が突っ込む。
「そんなこといったら、そうしますっていっているような物だけど」
「ぼかしたほうが本当にやるのか分からない感じにできると思ったんだが」
「まあどっかの漫画でも逃げるふりして捨て石になった人がいるからね」
それに忍も同意する。
「ああ。全員がここに来るとも限らない。下手すりゃ玉砕しかねないかもしれない」
「そんな!危険よ。どうしてあなたがそんなこと」
「誰かがやらなきゃいけないことなんだ。誰かがやらなきゃいけないなら、僕がやる」
すると頌子がそれを皮肉る。
「まるで特攻隊みたいね。でも、絶対生きて帰りなさい」
「ああ、それは約束する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます