スクラップ(シーン切り抜き)

八木弾道 (Dan)

SuperSonicLady (「Girls Star」より)


『さあ今年もやって参りました、スーパーソニックレース!』

 航空戦闘母艦や戦艦が遠巻きに会場を取り囲み、現場は厳重警戒態勢。

 何せ、これは軍の公式レースだ。

『今日は中距離クラスです。解説のフィリップ・ドプリツキ(Filip Doplicki)氏です、よろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

 レース参加者達は既に最終点検中。観測点である装甲戦艦から、司会者と解説者の音声が無線で発信されている。レース区間のあちこちには定点観測カメラが配置されており、複数の審査員によって観察される。

 取り巻きの母艦は護衛のためにやってきているもの、レース出場者の母艦、観客だが、これが鉄壁の防御を成している。さらに、すこし離れた外周にも護衛艦隊が周回している。

『では今回のスーパソニックレース、中距離クラスのコース説明をさせて頂きます』

 司会者の声に合わせて放送される映像も切り替わる。

『途中までは直線、緩やかな右コーナーに入ったところから、A・Bコースに分かれます。Aコースは大きく外側へ曲がって、障害物デブリはできる限り撤去してあります。対してBコース、Bコースの内側を通ってゴールへの近道ですが、小惑星帯です。コース選択後の変更はできません。最後はそのままコーナー出口で両コースが合流、ゴール地点となります。艦首がゴールラインに到達した時点でゴールと見なします!』

 無論、レース参加者達はずっと前にレース概要は知っている。公式ルールがあり、チームで参加することは作戦でもあるのだ。

『一位が100ポイント、二位が80ポイント、三位が40ポイント、四位が20ポイント、五位が10ポイント、6位から9位が5ポイント獲得となります。チーム総合順位は総合獲得ポイント数、同ポイント数であれば上位獲得順位数で決まります!』

 聞こえはしないが、あちこち歓声が上がっている。

「チャネル確立。シャドウミラー、アークオレンジ、報告して下さい」

『こちらシャドウミラー。問題なしだ』

『こちらアークオレンジ。問題ないね』

「こちらハイパーフォーク。問題ありません。各自待機。機関の監視を続けて下さい」

 レース参加者は皆、静かに機関の監視を続けていることだろう。ただ、勝つのみ。

『それではドプリツキさん、今回のチームはどうでしょうか』

『そうですね、例年通りライナータイプが多いですが、改良が重ねられています。前回優勝のレオナルド・ブラウン氏もライナー787で参戦していますし、ライバルのヨドック・アヂッチ氏(Jodok Adzic)のルフトライナー2102PFも見逃せませんね。タイムが縮みそうです』

『個人的に興味のピックアップしたいチームなどはおありでしょうか?』

『そうですね・・・・・・実は極東第四艦隊の"AGs3"。今回初登場です。というのも、先月発足した艦隊からのチームなんです。極東は数十年前は優れたライナーを送り出して来ましたが、今やそれは他の艦隊のレース機体になり、当の極東チームはあまり成績は振るっていません。それがこのチーム・・・・・・機体が面白いでしょう?』

 映像放送に機体の画像が送られる。皆一転して興味深そうにそれを見ている。

『なんとMcNorton式の攻撃機型高速機。見たことがありません。次にフォーク17ベースの殆ど改造機体。さらに一昔前風の主力砲撃艦という組み合わせ。調べたら一艦目以外はほぼ新造艦でデータがありません。そして指揮系統乗員は全て女性。面白いでしょう? あと二艦目、フォーク17に前進翼を付けたという機体、スーパーフォーク17Cですが、これが旗艦です。私達はデータを貰っているので色々中身を知っているのですが、彼女たちがどんなレースを見せてくれるのか、個人的にはすごく期待していますよ』

『それだけ個性的な機体のチームということですね?』

『そうです』

『ありがとうございました! 間もなくレースが始まります! 今年の覇者は誰なのか? それは貴方の目で確かめて下さい!』




『全機位置についていますねー!』

 ワイヤーに安全帯をつけた宇宙服の職員が、ブロック毎にチェックをしている。

 旗信号あがった。

『レース準備良し、ですな』

 先列の男も足場に乗り移り、安全を確保する。進行チームの無線はやむことが無い。

 全てのチェックが終了、準備が終わり、最前列の信号が赤色になった。見ている方も呼吸を止めるほどの緊張感。

 黄。爆発寸前の何かが、もう迫ってきている。

 青。

 全機、スラスタが爆発のように発光し、全てを置き去りにしてレースへと身を投ずる。

 これは、ここで見ていたものだけにしか分からない感覚がある。真空であっても伝わる雰囲気、それが気迫というものだろうか。

 それぞれのディスプレイを見ていた観客は熱狂に包まれた。

『やはり加速はライナー陣です! 他の追従を許しません!』

 列車のような形状の高速直線飛行を得意とするライナータイプは、先頭で競り合っている。

『っとお!? しかし第二陣! 食いついているのは・・・・・・先頭、ええ、白のアークオレンジ! 加速している!? 後ろにスーパーフォークもいます!』

『ハッハッハ、すぐ後ろに同じチームのシャドウミラーもいます。迷彩色なので警告灯を焚いていますね』

 手元の資料と映像とを忙しなく見比べながら叫ぶ実況と、手を叩いて笑っている解説者。観客も興奮している。

『しかしライナーの第一陣速い! 間もなくAコースへ突入するでしょう! さてドプリツキ氏の予測というか何というか、チームAGs3、第二陣の先頭です! これは・・・・・・』

 フィリップ・ドプリツキは眼鏡のレンズをを拭いていた。

『アークオレンジはBコース。そのためのMcNorton式スラスタです。恐らくスーパーフォークもBコース。シャドウミラーは船体が大きいので分かりません。しかし、この二機に吊られて判断を渋った船がBコースに流れる可能性があります』

 Bコースはデブリを回避しながら進まなくてはならないため、ある程度の船体の小ささと、船体の全体的コントロールが求められる。アークオレンジは、横長い二等辺三角形、薄い船体、向きの変わるスラスタ、翼端バーニアスラスタと、この二つの条件をクリアするための機能を完全に揃えている。

 一方、スーパーフォークは突き出した二つの艦首を持ち、その艦尾が若干偏向するスラスタ、船体側面にいくつか姿勢制御バーニアスラスタを持っている。が、安定性のための前進翼とカナード翼がこの場合邪魔にもなる。

 最後に最も大きな船体のシャドウミラーは、Bコースのデブリの隙間を抜けることは難しい。姿勢制御バーニアスラスタは充実しており、三連装主砲が二基も載っている軍艦だ。エンジンのパワーはある。

『さあっ! ライナー第一陣はAコースへ突入して大きく迂回します! ここからは最高速度で、機体の安定、相手とのラインの取り合い勝負! 一方Bコースは・・・・・・アークオレンジが加速したまま入ったァーッ!! さらにスーパーフォークも続く!? でえ、え、クロスミラージュが続きました! 確認します! 何ということだ!』

『ハハハハハ!』

 観客は沸き立った。有り得ないことが起こったのだ。拳を振り上げて回す者もいる。肩を組んで飛び跳ねる者もいる。「ライナーをぶっ潰せ!」という声も聞こえる。



 一方、その注目を集める艦隊の艦橋内は静かだった。

「こちらスーパーフォーク。シャドウミラー、作戦経過報告を御願いします」

『こちらシャドウミラー。損害なし。後ろにはちょっと付いてきてるな。』

「分かりました。では予定通り作戦を続行します」

『了解』

「山田さん、エンジンの状態は?」

「許容120。あったまってる」

「緑さん、アークオレンジと同期してますね。・・・・・・エンジン出力109。後は任せます」

「アークオレンジとの同期、問題ありません」

「エンジン出力109」

 直後、スーパーフォークのメインスラスタと補助スラスタが大きな光を放ち、加速した。



「煌めいた、閃光が、乱れ飛ぶ~」

 艦橋というより運転席に三人。一人、船長はギターを弾きながら歌っている。

「エンジン出力120パーセント。許容140。損害なーし」

「スーパーフォーク、加速段階へ。本艦に接近しています」

「了解。主砲、シールド準備」

「自動追尾システム、対近接モード。エネルギー回路、繋ぎます。スラスタ最優先でエネルギー充填開始」

 船内にはギターの音が鳴り響いていた。



「やはり当たるか」

 警告灯を消したシャドウミラー。その船体は宇宙の色に溶け込んで視認が困難だ。

「やっぱり当たりますねぇ」

 シャドウミラーを追ってBコースに進入した船がいくつもいたが、ほとんどがデブリと衝突しレース続行不可能となった。だが、当のシャドウミラーはというと、全体の姿勢制御システムを使って、デブリをある程度避けつつ、かつ速度を保ったまま、曲芸のような航行をしていたのだ。

 デブリはどうしても当たるが、実は全く問題無い。シャドウミラーは最新の戦艦であり、防御力面においてもその比類無き能力を発揮している。デブリが衝突した程度では、傷ひとつ付いていないのだ。

「このままだと予定コースはこんな感じかしら」

 3D投影機にデブリと先頭二機の進路コース、シャドウミラーのコースが描かれたものが映し出される。

「よし、このままレースは頂きだ!」



『今回のレースは誰も予測が付かない状態のまま後半へ! Aコースでは先頭、やはりレオナルド・ブラウンとヨドック・アヂッチが競り合っている! 他の選手はうまくラインが取れず徐々に安定性を失ってうまく最高のコーナーラインが取れない!』

『はいこちらはBコース。アークオレンジ、一切の減速を見せません。鳥のようですね。続くスーパーフォーク、船体を考えると凄い速さです。ギリギリの回避を見せますね。ヒヤヒヤします。えっと、赤外線カメラでもよく見えないんですが、モグラのようにシャドウミラーがすこし間を置いて付いてきています。凄い船、操縦能力ですね』

 もはや映像はAコース先頭、Bコース先頭、事故発生に限られてきていた。観客もすこし落ち着いているが、それはゴール前の静けさである。

『さあ、Aコースがスピードで先にゴールへ辿り着くか!? Bコースがロッククライミングのように上がってくるでしょうか!? さあ、どうなる!?』



「最終作戦エリアに入りました。こちらスーパーフォーク。最終作戦に入ります」

『こちらアークオレンジ。準備できています』

『こちらシャドウミラー、ここからなら無理も可能だ』

「・・・・・・山田さん、エンジン出力115。任せました」

「了解。エンジン出力115。・・・・・・ブーストファイア、オン」



「おいおい、Bコースカメラ被写体ロストしかけてるよ! 追従して!」

『えっ・・・・・・これは、BコースAGs3の機体が全て加速しています! スーパーフォークの速度がアークオレンジと同じ!? どういうことでしょう!? シャドウミラーは半ば強引にデブリを押しのけている! 大丈夫なのか!?』

 額から汗を垂らす実況。笑みを浮かべて見守る解説者。

『このままだとAコースとBコースはゴールまでほぼ同時間で到達できることになります・・・・・・!』

『しかしBコースはデブリを避けなければいけませんよね?』

 フィリップ・ドプリツキは笑みを浮かべたまま横目で実況に問いかけた。

『あっはい・・・・・・確かに、この速度でデブリを避け続けることは操舵手にとっては非常に強いストレスになっているはずです、いつ事故になってもおかしくありません』

『Aコースは事故なくゴールに到達するでしょう。では、彼女達がどこまでやれるか、見せて貰いましょうか』



「I want a motorcycle, Black 600~」

 ギターと歌はまだ続いている。

「バイク買えばいいじゃん。そろそろ位置に入るよ」

「了解。こちらアークオレンジ。位置につきます」



「了解。こちらスーパーフォーク、シャドウミラーへ。位置に付くと共に信号を送ります」

『了解。準備はできている』

「作戦、開始!」



 ギターが鳴った。

「銀行を襲うのさ~」



 会場は騒然となった。

『えっとこれは・・・・・・!』

『問題無いですよ。ルールに違反しないよう威力が意図的に抑えてあります。それより今からが見所です』

 シャドウミラーが主砲を放ったのだ。

 だが、その威力は砲門の大きさに比べ小さなもので、砲門と機関に抑制改造が施されていた。ルールでは、邪魔になるデブリを破壊しても問題無い。ただし、使用できる武器の種類や威力には様々な制約がある。シャドウミラーの砲撃はそれをパスしていた。

『さあ、見て下さい、あれがアークオレンジとスーパーフォークです』

 スクリーンに映ったのは、オレンジ色に発光する機体。アークオレンジの名前の由来、オレンジ色のシールドだ。そしてその真下にぴったりとスーパーフォークがつけている。デブリの破片から機体を守るためだ。

 そして二機は最高速度にある。そしてその後を、シャドウミラーが全速力で追いかけていく。

『ぜっ・・・・・・前代未聞!! 前代未聞のチームプレイだッ!!』

 実況は言葉を失っている。フィリップ・ドプリツキは腹の底から、声は出さずに笑い、少し咳き込んだ。眼鏡をかけ直し、咳払いをする。

『えー、これでAチームとBチームは互角になってしまいました。これが本当の『軍艦レース』ですね!』

 歓声が沸き起こった。



「何がどうなってんだっ・・・・・・!」

 レオナルド・ブラウンは舌打ちした。

「こっちはアヂッチの相手で手一杯だってのに、Bから滅茶苦茶速いのが来てんじゃねーか!」

「落ち着けよレオ。このコーナー曲がりきってアヂッチを押さえて、全開でいけば一着でゴールを切れる」

「そうあって欲しいもんだぜ!」



「ちっ、レオの野郎がアウトにいるせいで舵が切れねえ」

 アヂッチもまたぼやいていた。

「立ち上がりのタイミングが重要だな。Bからの奴の高度を見ておく。クラッシュでオダブツは御免だからな」

「ああ、頼む」



『これは・・・・・・AB合流地点に第一陣がほとんど同時に到着します!』

『何ということでしょうねえ』

『一体どうなるのでしょうか・・・・・・』

 汗を拭う実況と対照的に、フィリップ・ドプリツキは楽しそうに微笑んでいた。



「こちらスーパーフォーク。間もなく合流地点です。作戦に変更はありません。ライナーが左舷から二機来ます。アークオレンジは逃げ切り、シャドウミラーは抑えを御願いします」

『了解しました』

『了解』

「では、ゴールへ全速前進!」



『第一陣が合流します! おっとアークオレンジ、シールドを切り急旋回してゴールへ向きを決めた! ライナー787とスーパーフォークが来ます! っとこれは!? スーパーフォーク曲がりきってライナー787と並んだ! すぐさまルフトライナーも来ますが・・・・・・これは!? ああっ!! 斜めの状態で割り込んだシャドウミラーに進路を遮られた!! シャドウミラーそのまま姿勢を変えて恐ろしい加速力を見せます!! 今やっと警告灯を焚きました!』

 観客のテンションは最高潮に達していた。少し遅れてきている第二陣のことなど誰も見てはいない。

『アークオレンジ、まだ速度が上がります! スーパーフォークも徐々にだが伸びている!? シャドウミラーもライナー787に追いついていきます!! ルフトライナー食いついて意地を見せている!!』

 実況のテンションも最後の絶頂期だ。

 ゴールはもう目前。

『スーパーフォークまだ伸びる!! シャドウミラー787に並んだ!! ルフトライナー最後の加速!! どうだ!! どうだ!! どうなる!!』

 五回のラッパの音が響き渡り、観客の歓声の渦で何も聞こえなくなる。全ての観客がこのレースに衝撃を受け、何かしら心を動かされていた。

 実況は息切れしながら、次々と来る第二陣を紹介し、フィリップは拍手をしている。

 ゴールに関しては、八方向からの超高性能カメラでのビデオ判定が行われた。



『それでは、スーパーソニックレース、表彰式を行います』

 表彰式は大型輸送戦艦『リッケンバッカー』内で行われた。

「レース第一位、『アークオレンジRC70』! 操舵手、Ms.エルッカ・敷 (Erkka Shiki)!」

 レース参加者や関係者達から拍手が沸き起こる中、小柄な少女が登壇し、大会代表と握手すると、盛大にカメラのフラッシュが焚かれた。そしてメダルを授与され、トロフィーも手渡された。トロフィーは一旦関係者に渡されると、エルッカがマイクを握った。

「こうして公式大会の場で長年乗ってきた機体で活躍ができたことは、多くの人の支えがあったからです。その感謝を伝えたいと思います。レースでは、もはや見なくなったあのような攻撃機が、どれだけの性能を持っているかということが多くの人に伝えられたかと思います。ありがとうございます」

 エルッカは場に気圧されることなく言葉を終え、降壇した。また拍手が起こった。

「では続いて二位! 『スーパーフォーク17C』! 司令官、Ms.みやこ・白水!」

 今度はすこしどよめきが起こり、拍手が続いた。また少女が登壇し、大会代表と握手し、フラッシュが焚かれる。記者の間では会話が飛び交っていた。メダルを授与され、マイクを握る。

「チームAGs3の代表でもあります、みやこ・白水です。私の素晴らしいクルー達が最高の仕事をしてくれたので、この結果があります。私は指示の確認をしたに過ぎません。応援して下さった皆様、チームを代表してお礼を申し上げます」

 そう言って頭を下げ、降壇した。拍手の間に、会話が飛び交う。

「三位! 僅差で『シャドウミラーX4(クロスフォー)』! 操舵手、Ms.ライラ・リー!」

 今度は大きくどよめきが起こり、拍手が続いた。長い銀髪に黒いコート、眼帯をした長身の女性が登壇した。大会代表は一際強く握手し、メダルを授与した。

「どうも。乗って一ヶ月の船だったんだけど、すごく性能がよかったし、作戦もよかったし、クルーも昔と変わらなかったから上手くやれた。他の艦隊には悪いけど、うちにスゲえ艦長が二人もいたんじゃ、勝ち目無いね。まあ、チームで上位独占できてサイコーって感じ」

 前の二人とは違ってペラペラと喋ると、さっさと降壇した。拍手よりも、会話が多くなってきていた。

「アレ・・・・・・もしかして『不死身のライラ』か・・・・・・?」

 どこからも小さくそんな声が聞こえていた。

 今度は壇上に解説をやっていたフィリップ・ドプリツキが登壇し、マイクを握った。

「皆さん、今日はここでもう一人、我々技術班からの表彰枠を頂きました。お呼びします。『スーパーフォーク17C』操舵手、Ms.瞳・山田!」

 一転して会場の空気が代わり、盛大な拍手が起こった。当の山田は下であまりいい顔をしておらず、白水が何か耳打ちしている。そして渋々登壇した。フィリップの方は笑顔である。

「簡単に説明させて頂きますと、スーパーフォーク17Cは決して安定性や機動性に優れた機体ではありませんでした。さらに、短時間高速飛行能力を使うことによってそれらはさらに失われ、あのBコースを突破できたのは操舵手の技術によるものなのです。また最後の合流地点での急旋回、あれも高速飛行状態のまま行えたのは、ライナー787が起こした衝撃を利用したものです。どれをとっても素晴らしい。その技術を讃えて、この賞を贈ります」

 フィリップはメダルを授与すると、金のニケ像を手渡した。

「SuperSonicLady賞です。おめでとうございます」

 今日一番の拍手が会場で起こった。山田はニケ像を受け取り、礼をした。フィリップは和やかな表情のまま、慣れない礼を返して見せた。フィリップが山田の手を握ると、フラッシュの洪水が二人を襲う。

「それでは一言」

 山田はぎこちなくマイクを握った。

「あ、えと、私はスーパーフォークはいい機体だと思います。私と相性が良くて性能を引き出すことができてほっとしています。頑張りました。チームの期待に応えられて良かったです。ありがとうございました」

 またフラッシュが焚かれる。山田はマイクを返すと、そそくさと逃げるように降壇した。

『次は完走機体の着順とタイム、獲得ポイント数、チーム別総獲得ポイント数発表に移ります』



「こんなの聞いてない・・・・・・」

 カーペットの敷かれた大広間。吊られたシャンデリア。大きなテーブルに数々の料理。

 スーツに蝶ネクタイ。パーティードレス。

「パーティあるって言ったじゃないですか」

「こんなのだと思ってなかった」

 山田はみやこの後ろに隠れて周囲を警戒している。みやこは既にワインを飲んでいた。

(続く)

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スクラップ(シーン切り抜き) 八木弾道 (Dan) @Dan_aka_R

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