第2話 公園のおじさん
朝日が眩しい。
朝の空気って、どうしてこう、ノドに刺さるんだろう。
ヒリヒリする。
わ、陽の光が目に入る。痛い。
私は近所の公園通りを歩きつづけた。
コンビニはもう稼動していたし、
ランニングをする人や、会社に向かうサラリーマンが
朝のせかせかした空気に包まれて、
自分の行くべき場所に向かっていた。
チラ、と、私は自分の制服のブレザーの裾を
わざと視界に入れてみた。
「これじゃまるで、コスプレ?かなぁ」
他人事のようにぼんやり言うと、
その言葉は太陽の光に溶けていって、
「なんでもないよ~」と私に言うのであった。
「あーよかった」と、私は公園通りを進んだ。
公園で何をするワケでもない。
ただアリを観察したり、時計を眺めたりしているだけで、
特に何をしている、というものでもなかった。
でも、公園には色々な人が来るんだということは、
この数週間で学んだ。
お弁当を食べに来ているサラリーマン。
犬を遊ばせている人。
親子連れ、
怪しいオニイサン、
幼稚園の子達・・・
中には、ベンチに座ってうずくまったまま、夜まで
顔を上げなかったOLさんも居た。
皆色んな人生があるんだなあ・・・と ぼんやり考えていた。
このとき、私は俯瞰者だ。
私は俯瞰者、私は俯瞰者・・・。
そう念じることで、、少し楽になれる気がした。
私は「あちら側の世界」とは関係が無い。
「こちら側」には誰も居ない。
皆は「あちら側の世界」で頑張ってる。
それを私は俯瞰して見ているだけ。
―――『勝負していないヤツは、自分が勝ってると思ってる。
違うんだよ、勝負できてないヤツは、もう負けてるんだ』
ツイッターで見た誰かの名言が、頭の琴線に
ピン、とひっかかった。
―――痛い。
私は多分、勝負してない。
勝負できていない。
でも、じゃあどこで勝負したらいいんだろう。
学校にも行けない、
家にも帰りたくない。
こんな根無し草の自分が、どこで勝負したらいいんだろう。
ふと公園のベンチを見ると、
男が座っていた。
珍しいな、こんな時間にもう先客が来てたんだ。
・・・ちぇっ、今日は反対側の汚いベンチか。
男は30代くらいの、何というのだろう、灰色だかカーキだか
ハッキリしないもやもやした色の上着と、
ほこりっぽそうなダボダボのズボンを穿いて、
ぼやーーっと空を見ていた。
「どこまでも空が青いねぇーー」
とでも言いたげな表情だ。
でもよく見ると、その顔は、呆けたようでいて、
狂気もはらんでいた。
ぽかんと口を開けて、真っ白い顔をして、空を見つめ続ける。
―――どうしよう、近付かない方がいいかな。
私は男に気付かれないように後ろのベンチへ回り、
音を立てないように腰かけた。
―――――沈黙。
・・・って 別に喋ってるワケじゃないんだけど・・・。
男は動かない。
私はその背中を見つめ続けた。
よーくよーくじっと見た。
擦り切れた上着の背中。
ひたすら空を眺め続ける無言の背中。
ズリ、と、男が動いた。
・・・男の尻の下に、ダンボールが敷かれている。
「・・・あ。」
私はぼそっと口に出した。
―――ホームレス、か。
ホームレス。
ホーム=家。
レス=~が無い。
家が無い。
私は私の身のことを振り返った。
家ってどこにあるんだろうね?
ねえ、おじさん。
私は、そのおじさんの背中を、そのまましばらく、見つめ続けることにした。
真昼の公園 @la_vie_en_rose
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。真昼の公園の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます