クエストNo.U-03a

コケシK9

第1話 貴官は異世界転生を果たした。

『――――尉。U-03-a大尉』

「何だ、フィグリーフ……ん?おい、とはどういう意味だ?」


勝手に人を二階級特進させる相棒の人型機動兵器、フィグリーフのAIの言葉に

顔をしかめながら、俺は目を覚ました。

視界には見慣れたコックピット内の景色が広がっている。

コックピット内は待機状態でモニターには何も映っていない。

俺の質問を無視してフィグリーフは続ける。


『行動の判断を仰ぐ』

「なに?どういうことだ?」


俺が聞き返すと、今度は無視されず、機体のカメラが視神経とリンクされる。

カメラがとらえた視界の8割は緑色で埋め尽くされていた。


「これは……植物か?何故こんなに」

『現在、当機は未登録の居住可能惑星に存在している。

周囲の環境はデータに残されていた“森林”と推測。本部との通信途絶。ゆえに補給その他支援も望めない。大尉の指示を仰ぐ』


未登録の惑星。なぜそんなところにいるのか全く身に覚えがなかった。

任務で来たなら忘れるわけがない。

眠りにつく前、俺はどこで何をしていた……?

それともう一つ。さっきからフィグリーフがおかしなことを言っている。

視界の接続を切ってから訪ねてみる。


「おい、さっきも聞いたが、なぜ俺が大尉なんだ?勝手に人を二階級特進させるな」


俺のその言葉に、フィグリーフはとんでもない返答をしてきた。


「待て、お前は何を言っている!?」


俺が殉職しただと?ならなぜ俺は生きてコックピットに座っている?

訳が分からない。

まさかこいつ、AIが故障したのか?

だとしたらマズい。ここが未登録の惑星なら、何がいるか分からない。

こいつがまともに動いてくれなかったら

大型の原生生物に襲われた場合の対処に困る。


見知らぬ惑星の中、状況もわからず、そのうえ相棒は故障の疑いあり。

今の俺の状態をまとめるとこうなる。最悪に近い。


「どうすればいい……?何とかして本隊と連絡を取らないと……」

『当機に正体不明のアクセス履歴あり。何らかの情報のようである。』


俺が悩んでいると、フィグリーフがそう告げた。

正体不明と言うのが気にかかるが、

今はなんであろうと情報が欲しかった。


「分析しろ」

『了解』


フィグリーフが情報とやらを分析する。

そして十数秒後、分析完了と告げた。


『取得したデータにより状況を理解』

「本当か?説明しろ」

『了解。現在の状況を表す適切な単語を取得

……完了。状況説明、貴官は、“異世界転生”を果たした』

「……なんだって?」

『貴官は、“異世界転生”を果たした』

「……」


思わず聞き返した俺に懇切丁寧に繰り返してくるフィグリーフ。

聞こえなかったわけではないのだが。


『貴官は、“い』

「くそっ!このデータはウィルスだったか!」

『当機は正常に稼働中』

「黙れ」

『了解。次の指示、もしくは状況変化時まで待機する』


ダメだ。頼みの相棒は完全にイカれた。言うに事欠いて“転生”とは。


「人を勝手に殺すな……」


そこまで言ったところで不意に激しい頭痛に襲われ、

何かの光景がフラッシュバックのように頭に浮かんでくる。








―銀河帝国 元司令部スペースコロニー周辺―


『04-b機、並びに12-d機、反応ロスト。両名、殉職』

「くそっ!」


戦友たちの死を告げる機械的な宣告に思わず手が震える。

だが俺はそのままトリガーを引く。

ためらう暇などない。

動作が遅れれば……次は俺が死ぬ。


「砕けろ、害虫ども!」


俺の操作に応えて虚空に光の筋が走る。

フィグリーフに備え付けられた、照射した物体に思い通りの方向の力を加えられる重力波“トラクター・ウェイブ”だ。

それにより加速された金属片が近くに迫っていた6mほどの虫に衝突し、その甲殻を粉砕した。


だが数匹倒したところで意味など無いとあざ笑うかのように、

虫どもは際限なくコロニー内から湧いて出て来た。

宇宙空間で何の意味があるのか、羽を振動させながら押し寄せて来る。


俺は必死でトリガーを引き続ける。その度に虫が数匹ずつ砕け散る。

だが押し寄せて来る虫の数はそれよりも圧倒的に多く……


やがて俺の乗るフィグリーフの眼前に一匹の虫が到達した。

俺は全身に鳥肌が立つような感覚とともに叫ぶ。


「はじき返せ!」

『警告。残存エネルギー不足によりトラクター・ウェイブ使用不可』

「攻撃に使い過ぎたかっ……!」


眼前の虫が槍のように発達した尻尾をフィグリーフの胴に突き刺す。

その瞬間カメラとの接続が切れ、通常の視界に戻った俺の目に写った物は、

コックピットの内装を破壊しながら突っ込んでくる槍のような虫の尻尾だった。





「はっ!?」

『貴官の心拍数の上昇を確認』

「……フィグリーフ。俺は、本当に死んだのか?」

『先に報告した通りである。U-03-a

「……そうか。でも今は生きてるんだ。二階級特進はやめろ」

『了解。U-03-a


今の記憶が本当なら、フィグリーフはイカれたわけではないらしい。

イカれてるのは俺の体だ。なぜ生きてる?

最先端のナノマシン治療にしても限度があるだろう。


「おい、さっき言ってた異世界転生とかいうのはなんだ?」

『受信したデータによると貴官と当機は宇宙害虫からのコロニー奪還作戦の最中に撃墜され殉職。その残骸を回収、修復しこの未登録惑星に送り込んだ者が存在する。かつて人類が語り継いだという記録のある“神話”に登場する“神”に当たる存在である』

「そのデータも神とやらが送ってきたのか?」

『発信元は不明』

「そうか。フィグリーフ、とりあえずそのデータをもう少し……」

『警告。当機に接近する熱源複数。原生生物である。その一つは人類と推定』

「なんだと?」


先ほどと同じように視覚神経がカメラとリンクし、映像が送られてくる。見たことのない4足歩行の大型生物が確認できる。

その少し先を、フィグリーフの言うように人間の女が走っていた。

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