morning meeting

仙石勇人

morning meeting

    朝の集い

          フレドリクソン     


 明朝。外はまだ薄暗い。布団の中と外の寒暖差は大きいが、老体に鞭打って無理矢理に体を起こす。朝食を済ませ、バールをカバンに入れて公園に出向く。

 朝一番の公園に人影はなく、鳥がまばらに鳴くばかりであった。と、右の頬をなにか固いものがスッとかすめた。見れば、石が三メートルほど先で着地した。大きさから察するに、河原で調達してきたものだろう。どうやら一番乗りが他にいるらしい。素早く近くの塀に屈み込み、身を隠した。足音。砂利の上にそっと進める足取りが微かな音を響かせる。

 足場の砂利を拾って、足音のする方へ投げた。すぐさま塀を伝って登り、息を殺して待つ。間を置いて、駆け足。敵が見えた。腕を振り切って、バールを下に投げつけた。直撃。相手は伸びて動かない。傍らに座り、祈りを捧げる。

 朝の八時頃になると、通勤する人のラッシュで早朝の静寂がまるで嘘のように消えた。仕事へ急ぐスーツの群れの向かう方向に逆らいながら歩いた。今日の相手は遠距離戦できたか。さすがに知能テストもクリアし、ここまでの戦いをくぐり抜けてきただけのことはある。

 毎朝の緊張感には未だに慣れないが、これが生きる張り合いになっているとも思える。それに、朝の集いは我々、高齢者が自ら議論して決めたことだ。若者に対して足手まといになっている罪悪感を持ち合わせている老人は少なくない。数を減らしたほうが、生まれ育った我が国のためだ。

 少数精鋭の選りすぐりの高齢者は、もうそろそろ決定する頃だろう。社会に参加したい。置いてけぼりを食いたくはない。命ある限りは、隠居などせず、生き生きと活動し、自らを表現したいものだ。この選考期間は、ひと時も気が抜けない。

 しかし、改めて思うのは、命がけの戦いとはこうも精神を躍動させ、昂ぶらせるものなのか。青年時代にも味わったことがないほどの血がたぎる感覚。帰り道の途中、人通りの少ない路地で、ぶるぶると武者震いをしていた。すると、前を歩く若者と肩がぶつかった。謝罪の言葉がないことに憤りながらも、どうにかやり過ごそうとした。しかし、若者は捨て台詞に、なんとも自己中心的な罵声を吐いた。体中の血が頭部に上昇する感覚を覚え、私はカバンの中のバールに手を伸ばし、振り返った。

 若者の姿はもうそこになかった。我に返り、ビルの隙間の細い空を見上げる。そして思うのは、頑張れ若者。我々も負けていられない。

 家に帰り、ポストを開けると郵便が一通。差出人は国の政府からであった。ざわつく胸を制しながら封を破る。手紙にはこうあった。「あなたは長きにわたる選考を通過しました。おめでとうございます。下記からご職業をお選びください」やった、今まで頑張ってきた甲斐があった。これで私も社会の一員に恥じない高齢者だ…。

「下記からご職業をお選びください。①トイレの清掃員②靴磨き③焼売の上にグリンピースを置く仕事」

 


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