53話「いつかまたどこかで」
「先ほどは助けてくれてありがとうだぎゃ!」
「いえいえ、無理にだぎゃ言わなくてもいいっすよ」
俺の言葉にゴブゴブは首を傾げ、らんらんとつぶらな瞳で俺を見つめる。
その仕草は乙女チックで俺のハートにずきゅんと……来る訳ねぇ……。
「さて、こいつらを起こすとするか……」
ゴブゴブも皆を起こすのを手伝ってくれた。
リシュア、マリリン、カッツ、アリスと順に目覚め大きな欠伸をする。
マリリンの魔法で一度眠ると寝起きぽくなって、誰もが一旦は気持ちが落ち付く。
それを見越して眠り魔法を使った訳じゃないだろうけど、まあ良しとしよう。
喧嘩が収まったのだから。
「お、おお! これはゴブゴブ殿ではありませぬか! 無事であられたか!」
リシュアが嬉々として喜び、ゴブゴブに駆け寄った。
マリリンは毎度のことながら申し訳なさそうだ。アリスは未だに寝ぼけている。
カッツは腕を組みうそぶくように口笛を吹いていた。
そして俺は脱力したかのように、はあと溜息をつく。
こいつらやる気あんのかな……? 本気でお姫様、救おうと考えているの?
とは思いつつも、俺も彼らにはある意味頭上がらないけどな。
実際なんだかんだ言ってもアリスの回復魔法に助けられているし、マリリンの眠り魔法にも幾度も救われている。リシュアにおいては、このパーティに良心、最後の砦とも言えよう。カッツは生意気なガキンチョだが、職業はシーフだしこれから何かと便利になるのかもしれないなぁ……。
「さて、いくかっ!」
俺の言葉に一同がきょとんとした。
「ハジメ、これから何するんだっけ?」
「はい?」
「我もこれから何をすべきかまったく思い出せないんですよ?」
アリスとマリリンの二人は何言ってるの?
こいつらマジで寝ぼけてしまってるのか? んなわけないよな……。
「ハジメ殿……何か様子が変ではないか?」
「ああ、俺もそう思った。何故かアリスとマリリンは目的を見失って……いや、寝ぼけているようだ」
「違うぞ……ハジメ氏……この周囲に異様な暗黒瘴気が漂っている。私は精霊魔法の加護でなんとか防げたが、他の者達は侵されてしまったようだ」
「マ、マジなのか? これから……どこ行くんだっけ?」
なんかやばい……俺も気をしっかり持っていないと、何か大切なものを失ってしまいそうだ。
「ハジメ……」
「ハジメ氏……」
「ハジメ殿!」
「あ、兄貴っ!」
「だぎゃ?」
得体のしれない瘴気が俺達の眼前で渦を巻き、皆が俺に縋るように寄り添ってきた。
「ふあははははっ!」
渦の中から、知ってる顔が二人現れた。
「おにぃちゃん!」
「な、なんだ? ユイじゃねぇか! そ、それに……ティモも! なんでお前達が急にここに現れたんだ?」
「訳あって、私ね。勇者を倒す魔王に選ばれちゃったのよ! だ、だから……」
「はい?」
「おにぃちゃんに死んで貰わないといけないのよ!」
いっ! 意味わかんねーぞ! どうして俺が妹に砕けたエロゲーのパッケージみたいに粉砕されねぇといけねぇんだ!!!
ユイが魔法を今から放ちますよ、的なポーズをする。
「さあ、おにいちゃん! 勇者と魔王で勝負よ!」
「意味わかんねーし、おいティモ! これどうなってるの?」
俺は魔城温泉のオーナーであるティモを問い詰める。すると、「すまぬのうハジメ。妾は止めたのじゃが、この娘っ子がどうしても魔王になりきりたいと申しての……」
なりきりってなんだよ!
これドッキリかよ!
「ごめんね、おにぃちゃんびっくりした? てへっ♡」
「テヘじゃねーだろ!」
「ほんとごめん。でもね……おにぃちゃん、ちょっと聞いてくれない?」
「な、なんだよ……?」
「私達の敵は勇者でも魔王でもなかったのよ。その全てはここにいるティモちゃんや、暗黒皇帝様が話してくれたわ。本当の敵は冥界竜なの!」
冥界冥界冥界……あれか! マリリンが死んだ時に見た夢の話。まぁ死んでいるから夢じゃないけど……。
「まぁ、ユイ、ティモ、お前らの言い分とクソつまんねぇジョーダンはわかった。それよりもこのリシュア以外の記憶がヘンになってしまったんだよ。これもお前らのジョークなのか?」
「それはジョークじゃないわよ。おんぃちゃん」
「はい?」
「だったらなんなのさ?」
「暗黒瘴気にその身が晒されると、一時的に誰でもそうなちゃうのよ。まあ、おにぃちゃんと、リシュアさんに効き目がなかったのは残念だけど、ね♡」
「バ、バカヤロー! 何が残念だけどね♡だよ!」
でも魔界の暗黒皇帝って本当に悪い奴じゃないのかもなぁ。その小間使いのティモをずっと見て来てた俺だが、本気で俺達を倒そうと思えば、こいつら見たいにここに突然現れれば良い訳だ。うん、一人納得。
そもそもゲームでも同様だ。魔王城に近づけば近づくほど、その街には高価な武具が売られており、その価格も初期の街の値段から考えると100倍以上に跳ね上がる。
しかもその街には凶悪な魔物がうようよ徘徊しているのだ。そんな中で、平然と暮らしている村人に俺は敢えて言いたい! 魔王が邪魔ならお前らが倒せよ!
きっと魔王に近い場所に住んでいて、ほんとは良い人ってことを村人たちは知っているのだろう。いやいや、そもそも俺の冒険ってなんだろう?
ある日、忽然と姿を現した駄目女神。
気がつけば、遙か遠い星。それってほぼ異世界。
元々、アリスは俺を勇者と勘違いして、契約を交わしたのだ。
「でも、勇者って悪くないな……」
アリスやマリリン、その他のメンバーもハッとしたように我に返った!
その姿がいかにもって感じで、俺はつい苦笑してしまったけど。
「ハジメ!」
「ハジメ氏!」
「あ、兄貴!」
「だぎゃ?」
全員が正気に戻ったので、俺達は当初の目的通り、囚われの身の魔術師ちゃん達を救いに行こうと思ったのだが……。
「おにぃちゃん達はどこに向おうとしているの?」
と、ユイに呼びとめられた。そしてティモが、
「そうじゃぞ、ハジメ。もう魔術師殿は救いだし、似非勇者達も倒してしまったぞ!」
「はい?」
そこでユイがにまーっと不敵な笑み、いや違うドヤ顔を俺達に向けた。
「私って……優秀すぎるわ……」
ユイの話によると、魔術師ドロシーが帰って来たことにより、白竜姫の氷の棺は溶け、みんな元気によろしくやってるそうな……?
ティモが空間移動の魔法を暗黒皇帝より期限付きで借りたらしい。
ちなみにその空間移動のレンタル料みたいな紙切れを俺達は見せられた。
「これ……なに? こんな金額返せるの?」
「おにぃちゃんの仕事の肩替りしたんだから、このティモちゃんの借用書はおにぃちゃんのパーティにつけとくことにするね♡」
「意味わかんないんですけど……」
「心配しなくてもいいわよ! 私も協力するから、皆で借金頑張って返しましょう!」
俺達はティモの空間魔法で、古代遺跡まで辿り着いた。
そこにはこの世のものとは思えない美少女、白竜姫が温かい笑みで俺達を迎え入れてくれた。
こうして俺の冒険は一つの幕を閉じた。
◆◇◆
俺、ヒキニートであった所沢一は、今日も部屋でゲームに没頭している。
「アリス殿! 次は我の順番でござらぬか! それなのにゲームパットを離さぬとはズルイではございませんか!」
「あーもううるさい! マリリン!」
「これこれ、たかがゲームで喧嘩をするでない!」
ティモの空間魔法は優秀で、何人でも瞬時に移動できるのだ。
今この俺の四畳半の狭い部屋に、アリス、マリリン、リシュア、ティモ、ンン、ニャム、カッツ、そして……白竜姫にフェリエル、ゴブゴブ、ライム、ガーゴ、ホネホネ、魔術師ドロシーと、妹のユイに……邪神メティローネまでいるという有様だ。
この先……マジで思いやられるわ……。そもそもここ地球だし、君達の星ちゃうねん……。
それでも俺は皆のことが大好きだ! そしてありがとう。
部屋にいることが億劫になった俺は、外出することも自然に増えてきた。
ああ、この解放感が素晴らしい。
「そうだな……今日は学校帰りに新作のRPGのあれ、あいつらの為に買って帰るとするか!」
こうして、俺はヒキニートを卒業することになるのであった。
女神の回復魔法が俺の攻撃魔法と比べたら全く役に立たない件について 暁える @Akatsuki-L
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