下校
「遅いよー」
加奈が笑う。どうやら私を待っていてくれたらしい。私は今日は掃除当番だった。待たせてしまったのなら申し訳ない。
「帰っててよかったのに」
「だって一人で帰んのやだもん」
黄緑色のリュックは重そうに膨れている。私のリュックもあんなかんじ。前になんとなく体重計に乗せてみたことがあった。11kgだった。お米以上だなんて。ものすごい猛者。
猛者を背負いながら私と加奈は黙々と歩く。私も加奈も無言を苦に感じるタイプではないので、一緒に帰るときはいつもこんな感じだ。
加奈には、話しておきたい。
昨日のこと。
「昨日さ」
「うん」
校門から出て少ししてから、私は口を開いた。少し入りがたどたどしくなってしまったのは気にしない。他人と話すのは好きだけど、会話を切り出すのは苦手だ。加奈は平淡に相槌を返す。
「羽根がある人に会ったんだ」
「え?羽根って翔子についてるアレ?えっ?えっまじ?」
「まじまじ」
私より戸惑う加奈。軽く挙動不審だった。
まあ普通そうだよね。
私に羽根があるとカミングアウトした時もこんな反応だったっけ。
昨日大和さんにあった私もこんな感じだったりしてないかな。大丈夫かな。もし変な子だと思われてたらどうしよう。
「だれだれ、どんな人?」
「20代くらいの男の人」
「イケメン?」
なんでみんなそこを気にするんだ。
頷くと、「すごー!見たい!」という。女子って男たらしとかそういうの関係なく、みんなイケメン好きだよね。
「その人のほかにも、羽根ある人三人いるんだって。インド人と音楽家と若い女の人」
「なんていうか…にぎやかだね。その三人とはまだ会ってないの?」
「うん。でも多分今週会える」
「約束してきたの?」
「いや、えっとね」
あれは約束した、というのだろうか。
教会に行けば会える、ということを加奈に伝える。加奈も無宗教だったはずだ。やはり教会に馴染みはないらしく、どこか面白がるような顔で聞いていた。
「教会って私全然知らない。どんなことするの?お祈り?」
「私も知らない」
「なのに行くの?」
「うん」
「ほー…翔子ってやっぱアクティブだよね」
加奈は感心したように私を見る。
そうだろうか。アクティブだとは時々言われる。自分ではそうではないと思う。ただ、興味があることに人より突っ込んでいきやすいだけだ。
でも一つのことに熱中することは少なくて、だからちょっと加奈が眩しく見えたりする。
加奈は吹奏楽部でサックスを吹いている。今日は火曜日だから部活はオフの日らしいけど、普段は毎日遅くまで部室で練習している。もうすぐ最後のコンクールなんだと、この間楽しそうに、でもちょっと寂しそうに話してくれた。
「いいなー、私にもそんな出会いないかなー」
加奈はリュックの重みなんてないが如く軽々と足を進める。
それこそ飛べそうなくらい。
日差しがまぶしい。加奈を見ながら、私は少しだけ目を細めて笑った。
少女の刹那 ごぼう @gobou-w
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