言ノ葉神社の 蛇とハト
宮本 ニゲル
序章 風光る
神社は雨上がりが一番美しい。
と、私は信じて疑わない。
出来れば早起きして行くのがいい。
濡れてしまって構わないのなら、雨の日に
恋しき日本の景色である。
神様に愛された
降りしきる雨の
子供の頃、そう信じて疑わなかった。
そして、実は今でも信じている。
「小説家になるのが夢だったんです。けれどもなれなかった」
溜息が白く
「頭の中はいつでも物語で一杯なのに、書こうと思えばたちまち消えていくのです。書けたら面白いと思うんだよなぁ。きっと世の中が驚くような作品が出来上がる」
「そうですか。偉大な作家になるのだろうな。世間の称賛。富豪のような暮らし」
「お金はまぁまぁ有ればいい。それよりも褒められたい」
若い男が、仄暗い社殿の奥を見つめながら他愛のない話をしている。
恨み節ということもない。男は明らかに自嘲していた。
「褒められたい…」
天空めがけた杉の木立が揺れている。なんて暗いのだろう。
「とりあえず、中へお入んなさい」
白い
若い男は頭からずぶぬれになって、今朝より鳥居の横に突っ立っていたのだった。
「いえ、大丈夫です。やぁ、急に恥ずかしくなりました。自分語りなどね。昔から頭が悪いもんでね。どうもありがとうございました」
若い男は目を伏せて去ろうとした。しかし。
帰路を振り返って、狛犬と目が合った。
狛犬はもといた台座を
「そう言うな。ゆっくりしていけ」
口をきいた。
嗚呼、俺はとうとう壊れたらしい。と、男は思った。そして不思議と、清々しい風が心に吹いた気がした。
そしてもう一度、神主の方を振り返り、呆けた声で
「僕は死ねるのですか」
とだけ呟いた。
神主はさすがに驚いた顔をし、やがて鼻を鳴らして笑った。
「死んだりするものかよ。話を聞こうと言っているんだ」
「そのあと狛犬に喰われたりはしないのですか」
「神社をなんだと思っているんだ。無事に帰れるから安心しなさい」
「…帰るとこ無いんです」
「無いはず在るものかよ」
男は逃げてきたのだから。人生のあらゆるものから。
それに神主の方は、どこか分かって言っているような気配があった。急にこそこそとし出した男に向かって優しく尋ねる。
「統合失調だな。治りかけだろうが」
「そうです。それと生まれつきの注意欠陥障害。よくわかりましたね」
「目を見て話せばだいたいわかる」
そう言ってまた笑った。
この
「さ、そろそろ中へ行こう。寒い」
気付けば雨は上がり始めていた。
神主は白地に白の紋の
先を歩く神主が名乗る。
「俺は
応えようとしたが、
5年ほど前。
ヘビとハトが最初に出会った時の話である。
言ノ葉神社の 蛇とハト 宮本 ニゲル @hajimeno02
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