真の姿
温泉で汗を流し疲れを癒したエクス達は、自分達で受け付けを済ませて空いていた部屋を借りた。もちろん男女別に二部屋。
部屋に荷物を置いた後、情報の整理をするべくエクス達の部屋に五人は集まっていた。
「まずはレイナ達の集めた情報から聞く?」
「私達はここのこと以外に情報は無いわ。でもエクス達は情報を掴んだのよね?」
「うん。もうカオステラーも分かったようなものだと思うよ?」
「じゃあそれを話して」
「うん。わかった」
エクスはゲルダに会った事、そしてそこで知った事を話した。
話を聞いた後、コリンが疑問を投げかける。
「皆さんは一度ここに来たことが有るんですか?」
「うーん⋯⋯。似てるけど違うところかもしれないわね」
「似てるけど違うところですか?」
「ええ。私達が前に行ったところでは雪の女王は氷の城に住んでたし、女王様なんて呼ばれていなかったわ」
「? どういうことですか?」
「想区というのは何かしらの物語を元に造られているんです」
「そうなんですか?」
「はい。シェイン達が前に行った想区と今いる想区は、その元となった物語が同じだということです」
「私がいた想区も物語が元になってるってことですか?」
「えぇ。私達の故郷の想区にも元となった物語が有るはずよ」
「そういえばカイがいなかったような気がするんだけど、シェインは見た?」
「いえ、見ていません。また雪の女王の所にでも行ってるんじゃないですか?」
「そうかな? その割にはゲルダが普通にしてた気がするけど⋯⋯」
「女王様と呼ぶくらいですし、この想区ではそれなりに慕われているんじゃないですか?」
「まぁそんなこと今考えても仕方ねーさ。話が終わったらさっさと寝ようぜ」
「そうね。明日はカオステラーと戦う可能性が高そうだし、そろそろ寝ましょうか」
レイナがそう言うと三人は立ち上がり部屋を出ていった。
「んじゃ俺たちも寝るか」
「うん。そうだね」
五人は明日に備え床に就いた。
日が昇り部屋に日差しが差し込むようになった。
そろそろ起床する時間だが、誰も起きてこない。
そんな中コリンが目を覚まし、慌ててレイナ達を起こす。
「レイナさん、シェインさん! 起きる時間ですよ!」
「ん⋯⋯。おはよ⋯⋯うっ!?」
「おはようございます、猫リンさん」
レイナはその異様さに驚き一瞬で目を覚ましたが、シェインはいつも通りのテンションでコリンに挨拶をした。
「え? コリンなの?」
「はい、そうですよ?」
「何だか昨日とはだいぶ雰囲気が違うわね」
「あ、それは今が本来の姿だからだと思います」
コリンは今、服を着て二足歩行をしている。
外見も、手足が短くなり胴も普通の猫より短くなっている。
「昨日の猫が本来の姿では?」
「いえ、あれは猫の姿です」
「じゃあコリンはその姿と、猫の姿と、人の姿になれるの?」
「はい。そうです」
「その服はどうしたんですか?」
「あ、これは自分で出しました」
「出したって?」
「人に変化する感じで、服の部分だけ変化させたんです」
「へぇ、そんなことが出来るんですか」
「昨日はやってなかったわよね?」
「はい。皆さんに助けて頂いたときは余裕がありませんでしたから⋯⋯。それに、猫が服を着てたら変じゃないですか?」
「今も結構おかしなことになっている気がしますが⋯⋯?」
「え、そうですか?」
「ううん、大丈夫よ。私達は二足歩行の猫に馴染みがないから違和感を感じてるだけで、慣れれば普通に感じるはずよ」
どんなものでも慣れれば普通だと感じるので全くフォローになっていないがレイナは気づいてない。
そして幸いな事に、コリンも気づいていなかった。
「そうですか? ならいいんですが⋯⋯。この姿を人に見せるのは初めてなので、ちょっと緊張してたんです」
「え、そうなの?」
「はい。私の故郷の森では信用できる人間以外には本来の姿を見せたらいけないことになっているので、お二人が初めてです」
「そんなに信用してもらえてるなんて思ってなかったわ」
「シェイン達には荷が重すぎる気がします⋯⋯」
「私はもう皆さんに隠し事はしないって決めましたから」
コリンが笑顔で決意表明をしているとドアがノックされる。
「おーい! 起きてるかー?」
どうやらなかなか出てこないレイナ達に痺れを切らしてタオが呼びに来たようだ。
「起きてます!」
「もう少ししたら行くので新入りさんと待っててください!」
ある程度の身支度を済ませ、タオ達が待つ食堂へ向かうために部屋を出る。
コリンは食堂への道で人に会う可能性を考えて人の姿になっている。
「それじゃ行きましょうか」
「はい!」
エクス達と合流し朝食を済ませると、部屋に戻り旅の支度をする。
支度をする間、コリンはまた本来の不思議な猫の姿に戻る。
コリンが言うには、本来の姿である不思議猫の状態が一番リラックス出来るらしい。
「それじゃ行こうか」
支度が終わると、一行はカオステラーだと思しき雪の女王の許へと向かうべく宿を出た。
もちろんコリンは人の姿になっている。
塔へ向かう途中、レイナが何かを思い出しコリンに話しかける。
「あ、そうだ。コリンには必要ないかもしれないけど、一応これを渡しておくわね」
そういってレイナは導きの栞をコリンに渡す。
「あ⋯⋯、これって、いつも皆さんが使ってるやつですか?」
「えぇ。コリンの場合はそのままの方が強いかもしれないけど⋯⋯」
「いえ、ありがとうございます! 大切にします!」
「それを空白の書に挟むとヒーローの力を借りられるようになるから、困った時に使ってみて」
「はい!」
塔に辿り着いた一行は、塔の入り口にある扉を叩く。
「すみませーん! 誰かいませんかー?」
エクスの問いに沈黙が返ってくる。
「留守のようね」
「どこに行ったんでしょうか?」
「さぁ? カイの所に行ってんじゃねーか?」
「そろそろ戻ってくるかな?」
「どうだろう?」
「これからどうします?」
一行が扉の前で話していると、後ろから何かが近づいてくる音が耳に入る。
「また後ろから何か来ますね」
「エクスかしら?」
「僕はここにいるよ!?」
「猫リンかもしれません」
「私もここにいますよ!?」
「妾の家に何か用か?」
その声を聞き一斉に振り返る。
「!?」
そこには、雪の女王が立っていた。
「えっ⋯⋯?」
「どうしたのレイナ?」
「カオステラーの気配がしないわ⋯⋯」
「えっ!?」
「どういうことですか?」
「あ、正確に言うわね。この人からは、カオステラーの気配がしないわ」
「じゃあどこからするの?」
「少し後ろの方だと思うわ」
カオステラーだと思っていた雪の女王がカオステラーでは無かった事に動揺しつつ、その後方から迫ってきている気配を感じ取ったレイナが言う。
そのレイナが示した方向へ一同は視線を飛ばし、その人物を確認した。
「あいつは!」
「あれは、カイさんですか⋯⋯?」
「そうみたいだね⋯⋯」
「あの、どういうことですか?」
状況を飲み込めないコリンが聞く。
「シェインたちがカオステラーだと思っていた人物がカオステラーではなく、シェイン達の知り合いがカオステラーだったようです」
「なるほど⋯⋯」
「お主ら、聞こえておるか?」
「あ、すいません。僕たちは後ろにいる人に用があって来たんですが⋯⋯」
「カイの知り合いか?」
「はい、そんなところです」
エクスが雪の女王と話をしていると、後ろからカイがやってきた。
「女王様、どうかされましたか?」
「おぉ、カイか。お前の知り合いが来ておるぞ」
「僕の知り合いですか?」
「お嬢⋯⋯」
カイが姿を現しエクス達の近くまで来たので、タオがレイナに最終確認をする。
「ええ、あいつがカオステラーよ」
「あれ? 運命が書き換えられない⋯⋯。君たち誰?」
「出会ってすぐに運命を書き換えようとするなんて⋯⋯!」
カイの発言にレイナが驚く。
「名乗るほどのものでもないよ。通りすがりのただのモブさ」
「そうね、これから倒す相手に名乗る名前なんて持ち合わせていないわ」
「ですね」
「そういうわけで、さっさと終わらせてやるぜ!」
「まぁ良いや。僕の筋書きに従わないならいらない」
「来ます!」
カオステラーが襲ってきた。
「はぁ!」
見事カオステラーを倒した一行は、レイナに調律するように促す。
「お嬢!」
「姉御!」
「レイナ!」
「ええ! まかせて!」
『混沌の渦に呑まれし語り部よ』
『我の言の葉によりて、ここに調律を開始せし⋯⋯』
レイナの身体から調律の光が溢れ、想区が元の姿を取り戻した⋯⋯。
「今のは⋯⋯?」
「あれは調律の巫女であるお嬢の能力です。あの能力でカオステラーを元の状態に戻すことができるんです」
「これが調律っていうやつですか?」
「うん。そうだよ」
「綺麗な光でした」
「そうだね」
「調律が終わった後はどうするんですか?」
「基本的には次の想区でカオステラーの調律ね」
「たまに浄化の手伝いをすることもあるけどね」
「浄化ですか?」
「うん。浄化の女神って人に頼まれるんだけど、まぁそれはその時になったら分かるよ」
「じゃあ行きましょうか」
カオステラーを倒し調律を済ませた一行は、また新たな想区へ向けて旅に出た⋯⋯。
雪の積もる想区にて @_sai_
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