情報と温泉

 新たにコリンを仲間に加え、一行は洞窟近くの街へ向かっていた。

「うぅ⋯⋯。寒いわね⋯⋯」

「さっきまで色々あって忘れてたけど、落ち着いたら急に寒さが戻ってきたね⋯⋯」

「私も、この姿だと寒いです」

「やっぱり猫の時は寒さに強くなるもんなのか?」

「はい」

「じゃあ猫の姿でいた方が良いんじゃねーの?」

「それはそうなんですが⋯⋯あの状態だと喋りにくくなりますし、尻尾が二本ある以外は普通の猫なので、あの姿で街に入ると子供達や動物なんかに追い掛け回されるんです⋯⋯」

「空白の書とは全然関係ねーとこで苦労してんな⋯⋯」

「そうですね⋯⋯」

 寒さに耐えながら歩いていると、ようやく街に着いた。

「やっと着いたね」

「皆さん、寒くない所に行きましょう!」

「そうですね。まずは行動の拠点になりそうな所を探しましょうか」

「温泉、だったっけ? 出来ればそれが有る所が良いよね?」

「そうですね。温泉が無理そうなら露天風呂でも良いです」

「だな! 第一希望は温泉付きの宿。第二希望は露天風呂付きの宿だ」

「それも無かったら?」

「出来ればお風呂がある所がいいです」

「じゃあお風呂があって寝泊り出来る所を探せば良いってことかな?」

「ええ、そうね。それと並行して出来る限りこの想区の情報も集めましょう」

「うん。じゃあそういうことで」

「五人で同じところを回るというのも効率が悪いですし、二手に分かれた方が良いんじゃないですか?」

「そうね」

「組み合わせはどうするの?」

「猫リンさんと姉御を分けるかどうかによりますね」

「猫リン⋯⋯?」

「私はどっちでもいいわ」

「あ、私もどっちでも大丈夫です」

「じゃあお二人は一緒に行動してもらって、そこにタオ兄に加わってもらいましょう」

「両手に花ってやつだな!」

「じゃあ僕とシェインが一緒の組ってことだね」

「はい。そうなります」

「んじゃ行きますか!」

「タオ兄、ちょっと待ってください。出発する前に合流する時間と場所を決めておきましょう」

「そうねぇ⋯⋯」

 シェインの言葉を受け、レイナは返事を呟きながら目印になりそうなものはないかと周囲を見回す。

「じゃあ、街の明かりが点き始める頃にあの一番高い建物の入口で合流しましょう」

 四人がレイナが指差した方向を見る。

 そこには何だか良く分からない塔のようなものが立っている。

「わかりました。では出発しましょうか」

 レイナ組とシェイン組に分かれ、今いる想区に関する情報と温泉宿を探す事になった一行。

 レイナ達と別れて歩き出したシェイン達は、早くも想区の情報を手に入れた。

「ねぇシェイン」

「はい、何ですか?」

「僕はいつまで新入りなのかな?」

「新入りさんはいつまでも新入りさんです」

「やっぱり⋯⋯」

「ねぇシェイン」

「今度は何ですか? 新入りさん」

「あそこの女の子なんだけど⋯⋯」

「新入りさん。シェインは気にしませんが、女の子が横にいる時に他の女の子の話をするのはあまり褒められた行為ではありませんよ?」

「あ、うん。いや、そういうことじゃなくてさ。あの女の子どこかで見たこと有るよね?」

「その口説き方は女の子に直接言わないと成立しませんよ?」

「いや、だからさ。そういうことじゃないんだけど⋯⋯」

「ま、冗談です。あれはどこからどう見てもゲルダちゃんですね」

「やっぱりそうだよね。それじゃここは前に来たことがある想区ってことかな?」

「そうとも限りません。同じ物語を元にした別の想区と言う可能性もありますから」

「主役は変わったりしないよね?」

「はい。同じ物語が元になっていればそれは無いと思います」

「じゃあ手掛かりは見つかったね。この後はどうするの? 宿を探しに行く?」

「いえ、出来ればカオステラーの手掛かりが欲しいのでゲルダちゃん達に雪の女王の話を聞きましょう」

「うん。じゃあ行こうか」

「はい」

 温泉宿を探したい所では有るが手掛かりを失うわけにはいかないので、シェイン達は話を聞くためにゲルダ達の許へと向かう。

「あの、すいません」

「はい。何ですか?」

「ちょっと聞きたいことが有るんですが、いいでしょうか?」

「はい、いいですよ」

「この辺りに雪の女王と言う方がいるかと思うんですが、知りませんか?」

「? 雪の女王様ならこの先の塔に住んでますよ?」

「えっ?」

 エクスが驚く。

「えっ?」

 ゲルダが不思議がる。

「そうですか。ありがとうございました」

 そう言うと、シェインはエクスと共にその場を去る。

「もう少し話さなくていいの?」

「はい。大丈夫です」

「なら良いんだけど⋯⋯」

 全然納得していない様子のエクスだが、シェインが大丈夫だと言っているのでこれ以上は何も口にせず先に進む事にした。

「それじゃ手掛かりも見つかったことだし、温泉のある宿を探しつつ塔の入口に向かおうか」

「はい」

 シェイン組は情報を手に入れ、合流地点である雪の女王の住まう塔へと向かう。


 一方シェイン達と別れたレイナ組は、温泉らしき物を発見していた。

「あの、何か変な匂いがしませんか?」

「? いいえ、しないわよ?」

「猫の妖精だから普通の人間よりも鼻が利いたりするんじゃねーのか?」

「あ、はい」

「ちなみにどんな匂いだ?」

「なんて言えばいいんでしょうか? ⋯⋯卵の腐ったような感じ、でしょうか?」

「! その匂いの出てる方向とかは分かるか?」

 コリンは首を左右に振りながら匂いを嗅ぐ。

「匂いが出てる所かは分かりませんが、匂いの強くなる方向は分かります」

「おう! それじゃ今度はその匂いが強くなる方向の音を聞いてみてくれ!」

 そう言われ、匂いの強い方向の音を拾うために耳を澄ませる。

「そっちから水の音がすれば温泉の可能性がグッと上がるんだが⋯⋯」

「すみません。色々な音がしていて良くわかりません⋯⋯」

 自分の力不足に申し訳なさを感じ落ち込んだ様子のコリン。心なしか先程までよりも耳が少し垂れている。

「おう。まぁ、気にすんな! 匂いの強くなる方向が分かるだけでもかなり助かるぜ!」

 コリンの耳を見て、タオが労いの言葉を掛ける。

「ねぇタオ、温泉って卵の腐った匂いがするの?」

「おう!」

 実際には臭くないものや卵以外の匂いがするものもあるが、タオは知らない。

「そんなものに入るの?」

「? 風呂なんだから当たり前だろ?」

「私はいやよ」

「おいおい、ここまで来て我慢しろってのは無しだぜ?」

「あのぉ、私も出来れば入りたくないんですが⋯⋯」

「じゃあ多数決で決めようぜ。お嬢達は入りたくなくても、坊主とシェインは入りたいかもしれねーだろ?」

「それは、確かにそうだけど」

「とりあえず場所の把握だけして、あいつらと合流してから決めようぜ」

「仕方ないわね⋯⋯。まだ温泉が有ると決まったわけじゃ無いし、行ってみましょうか」

「頼むぜガキンチョ!」

「⋯⋯はい」

 コリンを先頭に、レイナ達は匂いの源へと向かう。

 当たり前の事だが、源へ近づくにつれて匂いが徐々にきつくなって行く。

「臭い⋯⋯」

「あぁ、くせーな」

「そうですか? 私はどんどん匂いが薄くなってる気がしますが」

「おいおい、大丈夫か?」

「あまり無理しないほうがいいわよ?」

「あ、はい。私はもう大丈夫です。鼻が麻痺してるので」

「いやいやいや、それ大丈夫じゃねーだろ⋯⋯」

「いえ、大丈夫です。それに、たぶんそろそろ⋯⋯」

 コリンがそう言いながら道を曲がると、視界に温泉宿が飛び込んできた。

 宿の前にお湯の流れる溝が有るおかげで道中のあちこちに積もっていた雪は溶けてなくなり、そこかしこで湯気が立ち昇っている。

 その中を街を歩いていた時の倍はいるのではないかと思うくらいの人が行き交い大変な賑わいを見せていた。

「すごい⋯⋯」

「だろ?」

「確かに凄いわね。臭いけど⋯⋯」

「それでもこれだけ人が来るんだぜ? それだけ温泉が良いもんだってことだな!」

「えぇ、そうね」

「もう匂いもしませんし、これを見たら入りたくなってしまいます」

「お嬢も入りたくなって来たんじゃねーか?」

「くっ⋯⋯。こんなの見たら入りたくなるに決まってるじゃない!」

「よし! それじゃ一旦引き返して、この想区の情報を集めつつ塔に向かいますか!」

「はい!」

 レイナ組は温泉宿を発見し、エクス達と合流するために塔へと向かう。


 レイナ達が塔へ近づくと、先に着いていたエクスとシェインがこちらに気付き歩いて来た。

「タオ兄、温泉は見つかったんですか?」

「おう! ばっちりだぜ!」

「そうなんだ。僕達の方は想区の情報とカオステラーかもしれない人のことが分かったよ」

「おぉ! 大収穫じゃねーか!」

「それじゃあ、まずは宿に行く? 何かタオたち臭うよ?」

「新入りさん、たぶんそれは温泉の匂いです。それと、女の子に臭うなんて言ってはいけません」

「あ、ごめん。そんなつもりじゃなかっ⋯⋯うっ⋯⋯たんだけど⋯⋯」

 エクスが弁解をしている途中で何かがエクスの腹に直撃する。

 レイナの拳に似ているが⋯⋯恐らく違うものだろう。

「これからどうしますか? カオステラーっぽい人はこの近くにいるんですが、一度宿に行って情報の整理をしますか?」

「その人は移動したりしそうなの?」

「いえ、そこに住んでいるらしいのでたぶん大丈夫かと」

「なら宿に行きましょう。今日はもう歩き疲れたわ」

「だな。居場所が分かってんなら温泉入って体力回復してから行こうぜ」

「そうですね。では行きましょうか」

 一行は温泉宿へと足を向ける。

 温泉宿に近づくにつれて、レイナは違和感を覚える。

「何か様子がおかしいわ」

「あぁ、人が少なすぎる」

「はい。音も少ないです」

 タオとコリンも違和感を感じていたようで、それぞれ気づいた事を口にする。

「なにか有るかもしれないから気をつけて進みましょう」

「だな」

 一行は周囲に気を配りながら少しずつ温泉へ近づく。

 そして最後の角を曲がり、宿を視界に入れられる所まで辿り着いた。

「おいおい、こりゃどういうことだ?」

「さっきはあんなに人がいたのに⋯⋯」

「皆さん! 宿の中で微かに音がします!」

「行きますか?」

「えぇ。行きましょう」

 一行は宿の中を進み音のする方へと向かう。

「皆さん、この中です」

「ここってお風呂だよね?」

「だな」

「ここから音がするって、普通に人が入ってるんじゃないの?」

「ちょっと見てくるわ」

 タオが様子を見に男湯へと入って行く。

「何だこりゃ⋯⋯!?」

「「!?」」

「中で何かあったみたいですね」

「行きましょう!」

 様子を見に行ったタオが叫ぶ。

 外で待っていた四人もその声を聞き男湯へ入る。

 そしてエクス達もその光景を目にして驚きの声を上げる。

「うそ⋯⋯!」

「何ですかこれは⋯⋯」

「これは凄いね⋯⋯」

「凄い数ですね⋯⋯」

 そこでは、夥しい数のヴィランがお湯に浸かっていた⋯⋯。

「⋯⋯ヴィランもお風呂に入ったりするのね」

「お嬢! 現実逃避してる場合じゃねーぞ! あいつらこっちに気づいたみてーだ!」

「それはタオが叫んだからじゃないかな?」

「気合い入れていきましょう」

「頑張ります!」

「絶対温泉に入ってやるんだから!」

 お湯に浸かっていたヴィランが続々とエクス達の方に向かってやってきた。


「くらえ!」

 エクス達は辛い戦いを制しヴィランを一掃した。

「ふぅ、やっと片付いたな」

「えぇ。疲れたわ」

「ですがおかげで貸し切りになりましたね」

 どうやら周辺にいた人間が全てヴィランになっていたようで、今はエクス達五人以外に人がいない。

「よっしゃ! 今のうちに入ろうぜ!」

「そうですね」

 エクス達は汗と疲れを流しに温泉へと向かう。

 もちろん男湯と女湯に分かれているためそれぞれの浴場へ向かった。

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