新たな仲間

「ふぅ、ようやく終わりましたね」

「良い腹ごなしになったな!」

「ちょっと数が多かったけど、あの子が手伝ってくれたおかげで結構楽になったね」

 最後のヴィランを倒し一息ついていた一行。

 乱れていた呼吸も整い余裕が出来たので、先程の戦闘で加勢してくれた少女の事を話し始める。

「で、あれは誰なんだ?」

「確証はないけど、さっきの猫じゃないかしら?」

「やっぱそうだよなぁ。でも何で人みたいになってんだ?」

「そんなの知らないわよ。本人、でいいのかしら? あの子に直接聞いてみるのが一番早いんじゃない?」

「それもそうだ」

 レイナは確証が無いと言ったが確信は有った。

 大まかな形こそ人間では有るが、頭には猫の耳が有り腰の辺りには二本の尻尾が生えている。

 確信はしていたが確証が欲しかったため四人は猫だった少女の許へ向かう。

「さっきはありがとう。おかげで楽に倒せたよ」

「い、いえ、皆さんお強いので足手まといにならないようにするので精一杯でした」

「いやー、それほどでもあるけどよ! お前もガキの割にはやると思うぜ!」

「あ、ありがとうございます!」

「ねぇ。ちょっとあなたに聞きたいことが有るんだけど、良いかしら?」

「あ、はい。大丈夫です」

「あなたは私たちが助けた猫なの?」

「あ、はい。あっ、すみませんっ。まだお礼を言ってませんでした!」

 そう言うと少女は姿勢を正し、お礼の言葉を述べた。

「先程は助けていただきありがとうございました! 食事もとてもおいしかったです!」

「どういたしまして」

「おう、気にすんな!」

「当然のことをしたまでです」

「困った時はお互い様よ」

 少女の礼に応え、レイナは質問の続ける。

「それでさっきの続きなのだけど、あなたは猫なのよね? どうして人の姿になってるの?」

「あ、私は、見た目は猫ですけど猫じゃなくて⋯⋯」

「猫じゃないの?」

「あ、はい。私は猫じゃなくて妖精です」

「妖精?」

「はい。妖精です」

「そう。今ここで猫の姿に戻ることは出来る?」

「はい。大丈夫です」

 そう答えてすぐに少女は猫の姿になった。

「ありがとう。もう大丈夫よ」

「分かりましたニャ」

 そう言うと猫が再び少女に戻る。

「猫の姿でも話せるのね」

「あ、はい。少し喋りにくいですが、一応話せます」

「僕も聞きたいことがるんだけど良いかな?」

「はい」

「君はどうしてあんな所に倒れてたの?」

「あ、それは⋯⋯」

「あ、答えづらかったら無理して答えなくても良いからね?」

「⋯⋯いえ、大丈夫です」

 そう返すと、少女は少し照れた様子で話し始めた。

「あの⋯⋯、私は故郷から一人で出てきたんですが聞いていたよりも距離が有ったみたいで⋯⋯。食料が底を突いてしまいまして⋯⋯。皆さんが通ってくれなかったらどうなっていたことか⋯⋯」

「え? 空腹で倒れてたってこと?」

 エクスの更なる質問に少女は顔を俯かせる。

 心なしか顔が赤くなっているようにも見える。

「新入りさん、そこは突っ込んではいけない所です」

「そうね。女の子にそれを聞くのは少し無神経だわ」

「あ、ごめん」

 シェインとレイナに非難されエクスは少女に軽く謝罪をする。

 それでエクスの質問は終了し、次にシェインが気になっていた事を少女に尋ねた。

「あの、シェインも質問して良いですか?」

「あ、はい!」

 フォローをしてくれたシェインの言葉に、まだ赤みを帯びたままの顔に笑顔を浮かべ少女は答えた。

「倒れる前は雪が降っていたりしたんでしょうか?」

「? いえ、雪は降ってなかったと思います」

「貴女は空を飛ぶことが出来ますか?」

「? いえ、飛べません」

 質問の意図が分からず、少女は首を少し傾け返事を返す。

「そうですか。では最後に、貴女が倒れていた場所の近くにシェイン達四人の足跡しか無かったんですが、何故だか分かりますか?」

「あ、えっと⋯⋯それは⋯⋯」

 シェインの問いに少女は言葉を詰まらせる。

 否定せずに言葉を詰まらせた少女の反応から何かを隠していると判断したシェインは質問を続ける。

「何か言いづらいことなんですか?」

「あ、はい⋯⋯」

「出来れば話して欲しいんですが?」

「はい⋯⋯」

 その言葉を機に少女は黙り込んでしまう。

 すると気を遣ったタオが少女に言葉を掛ける。

「まぁ、誰にだって言いたくねーことの一つや二つはあるさ。そんなに気にすることねーよ」

「はい⋯⋯。すいません⋯⋯」

「それじゃ聞きたいことは聞けましたし、そろそろ行きましょうか」

「え?」

「そうね。行きましょうエクス」

「え、うん。それじゃあ、またどこかで会ったらよろしく!」

「またな!」

「はい、またどこかで⋯⋯」

 エクス達は少女を残して歩き出す。

「まずはあの街に行って手掛かりを探しましょう」

「だな」

「ねぇ、あの子は連れて行かないの?」

「新入りさんは誰にでも心を許し過ぎです」

「そうかな? そんなに悪そうな子には見えなかったけど⋯⋯」

「まぁ、悪いやつではないのかもな」

「じゃあ何で?」

「シェインが最後にした質問に答えなかっただろ?」

「うん」

「命の恩人に隠す程のことよ? どんな秘密が有るのか想像もつかないわ」

「まっ、そういうこった」

 四人が話していると、後ろから何かが聞こえてくる。

「まっ⋯⋯⋯⋯⋯⋯さ⋯⋯!」

 その音を聞き四人が振り返ると、先程の少女が一行へ向けて走りながら何かを叫んでいるのが確認出来た。

「前にも同じようなことが有ったような気がします⋯⋯」

「確かシンデレラの想区を出る時だったかしら?」

「あぁ、あれな」

「それって僕のこと?」

 三人がエクスを見ながら過去の経験を思い出していると少女が一行の許に辿り着き、息を切らせたまま話し始めた。

「あ、あの! 皆さんにお話ししたいことが有ります!」

「何かしら?」

「あの、さっきの質問のことなんですが⋯⋯!」

「別に無理して言わなくても良いのよ?」

「いえ、皆さんには聞いてもらいたいんです!」

「まぁ、話したいなら止めないけど⋯⋯」

「あの⋯⋯、頭がおかしい人だと思わないで欲しいんですが⋯⋯」

「うん。大丈夫だよ」

「内容によります」

 エクスは少女に気を使ってそう言ったが、シェインのおかげで台無しになった。

「実は私⋯⋯」

 そこまで言うと、少女は少し躊躇いを見せる。

 エクス達は先を促すことも急かすこともせず、その少女の言葉を待った。

「こことは別の世界から来たんです!」

「「「えっ!?」」」

「なるほど、それで足跡がなかった訳ですか」

 何かを納得した様子のシェインは、三人とは異なり全く驚いた素振りも見せずいつも通りのテンションで応じた。

「えっ、信じてくれるんですか!?」

「信じるも何も、シェイン達も別の世界から来てますから」

「えーっと、運命の書にそういったことが書いてあるんですか?」

「いいえ、違うわ。あなたは?」

「あ、私の運命の書には何も書いてないので⋯⋯」

「じゃあ俺たちと一緒だな!」

「え!? 皆さんもそうなんですか!?」

「おう!」

「じゃあ君は一人で沈黙の霧の中を抜けて来たってこと?」

「沈黙の霧? あの世界の間に有る霧のことですか?」

「うん。そうだよ」

「はい。一人で故郷から歩いてきて霧を抜けたところで力尽きてしまったんです⋯⋯」

「まじか! あの中を一人で抜けたのかよ!」

「あ、いえ。結局力尽きちゃいましたし⋯⋯」

「それでも凄いですよ」

「そうね。あの中を一人で⋯⋯」

「あの、皆さんにお願いが有るんですが⋯⋯」

 少女が話しているとヴィランが現れた。

「また!?」

「私もまたお手伝いします!」

 ヴィランに横槍を入れられた。


「これで終わりです!」

 最後のヴィランを少女が倒し、戦闘が終了した。

「やっぱり一人増えるだけでだいぶ戦いが楽になるね」

「そうね」

「栞も使わずにあそこまで戦えるのは驚きです」

「お前の想区の妖精は皆そんなに強いのか?」

「あ、はい。私の故郷では戦えるようになるための訓練を必ず受けることになっていて、訓練が終わる最低のラインが普通の人より強いことなので、個人差はありますが皆強いと思います」

「ほぉ。一度その訓練を受けてみたいですね」

「だな!」

「そういえば、さっき何か言いかけてなかった?」

「あ、はい。あの、皆さんにお願いが有るんですが⋯⋯」

「おう、言ってみろ」

 何かを察している様子のタオが少女に言う。

「私も、皆さんと一緒に旅をさせて貰えないでしょうか!」

「まぁそうなるよな」

「えぇ。前にも似たようなことが有ったから、そう来るだろうと思ってたわ」

「新入りさんが新入りさんではなくなる⋯⋯?」

「僕は大歓迎だよ!」

「俺も構わねーぜ」

「シェインもです」

「戦力が増えるのは大歓迎だけど、貴女は私達が何を目指して旅をしているのか知らないわよね?」

「あ、はい。さっき話しているのを聞いたくらいなので、かおすてらーを探してちょーりつすると言うくらいしか⋯⋯」

「まぁ簡単に言うと、さっき出てきた奴らの親玉をぶっ倒しに行くってことだな」

「そういうことね。それなりに危険な旅だけど、それでも付いてくる?」

「はい! お願いします!」

「そう。それじゃあ、これからよろしくね」

「はい! よろしくお願いします!」

「じゃあ一緒に旅をすることが決まったところで、君の名前を教えてもらってもいいかな?」

「あ、はい! 私はコリンと言います! あ、よければ皆さんのお名前を教えて下さい!」

「僕の名前はエクス。空白の運命を持って生まれたただのモブさ!」

「俺はタオ! 坊主と同じく空白の書の持ち主で、タオ・ファミリーのリーダーだ!」

「シェインはシェインです。タオ兄の義妹で、空白の書を持っています」

「私はレイナ。調律の巫女よ。もちろん私も空白の書を持ってるわ」

「エクスさんに、タオさんに、シェインさんにレイナさんですね! これからよろしくお願いします!」

「おう! よろしくな!」

「よろしくお願いします」

「よろしくね」

「よろしく!」

「じゃあ、とりあえず街で情報収集をしましょうか」

 新たな仲間を加えた一行は、カオステラーの手掛かりを求めて街へ向かった。

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