猫⋯⋯?

 ヴィランを倒し洞窟に辿り着いた一行は、猫の回復を行う。

「レイナ、回復を!」

「ええ!」

「よし、俺達は火を起こすぞ!」

 レイナに猫の回復を任せ、三人は焚き火のための火を起こす。

「おし、出来たぜお嬢!」

 タオの合図を聞きレイナが猫を運んで来る。

「様子はどうだ?」

「呼吸も整ってるし、たぶん体温も平常に戻ってるんじゃないかしら?」

「後は目を覚ますのを待つだけですね」

 シェインの言葉に安堵した様子のエクスが気の抜けた息を漏らす。

「⋯⋯ふぅ。なんとかなったみたいだね」

「みてーだな」

「ついでだから、この子が起きるまで私たちも休みましょう」

「うん。そうしよう」

 雪の中を走り気力も体力も使った四人は、猫が目覚めるまでここで休む事にする。


 エクス達が猫の様子を窺いながら休んでいると、不意に猫の目が開く。

「あ、起きたみたいです」

「っ!?」

 目を覚ました猫は、四人を見ると身体を起こそうとする。

「あ、まだ動いちゃダメよ!」

 それをレイナが止めようとするが聞くわけもなく、猫は体を起こし警戒した様子で周囲を見る。

「⋯⋯何か凄い警戒されてるね」

「まぁ、気が付いたら知らない人に囲まれてました、って状況になったら誰だって警戒するだろ」

「そうね」

「このままだと回復させたのが無駄になっちゃいそうだし、とりあえずこの猫に何か温かい食べ物でもあげて僕たちは少し離れない?」

「そうですね」

「そうするか」

「そうね。そうしましょう」

 一同はエクスの意見に同意し、その場に温かい食べ物と飲み物を残して少し離れた所へ移動する。

 四人は移動した先で腰を下ろし、そこから猫の様子を窺う。

「⋯⋯なかなか食べないね」

「匂いは嗅んでますし、そろそろ食べるんじゃないですか?」

「だな」

「もう少し様子を見ましょう」

 四人に見守られる中、猫は出された物の匂いを嗅いでは動きを止め、また嗅いでは止めると言う謎の行動を繰り返していた。

 それを何度か繰り返し、安全だと判断したのか空腹に負けたのかは定かではないが出された物を食べ始める。

「おっ! 食べ始めたぜ!」

「タオ兄、声が大きいです」

 言葉を発したタオに驚き再び動きを止めてしまった猫を見てシェインがタオを諫める。

「おっと、悪い」

「じっと見られてると食べ辛いだろうし、僕達も何か食べない?」

「そうだな。この後も雪の上を歩かなきゃならねーし、腹拵えして体力付けとくか」

「そうですね」

「そうね。それじゃあ私たちも食事にしましょうか」

 エクス達が食事の準備を終えて食べ始める。

 そしてそれを見た猫も、自分の食事を食べ始めた。


「ふぅ。食った食った」

「ごちそうさまでした」

 食事を終えて後片付けをしていると、先に食事を終えていた様子の猫がエクス達の傍に来て座る。

「私たちが食べ終わるのを待ってたみたいね」

「賢い猫さんです」

「あのさ、さっきから気になってることが有るんだけど⋯⋯」

「何ですか?」

 シェインの続きを促す言葉を聞き、エクスは助けた猫を指で差しながら言った。

「これって猫なの?」

「何を言ってるんですか新入りさん。どこからどう見ても猫じゃないですか」

「あぁ、うん、そうだよね。僕は尻尾が一本の猫しか見たことがないから、何か別の生き物かもしれないと思ってさ」

「何を言ってるの? 猫の尻尾は一本よ?」

「え?」

「だな。尻尾が何本も生えてる猫なんて見たことも聞いたこともねーぞ?」

「どうやら新入りさんは寒さで頭が働かなくなってしまったみたいですね。猫の尻尾は一本に決まってるじゃ⋯⋯」

 話しながら猫の尻尾を確認したシェインが言葉を詰まらせる。

 先程までは一本に見えていた猫の尻尾が、二本に増えていた。

 言葉を詰まらせたシェインを見て、レイナとタオもその視線の先に眼をやり尻尾が二本有る事を確認し、驚きの声を上げる。

「⋯⋯二本有りますね」

「さっきまで一本じゃなかったか?」

「何か変なものでも食べさせたかしら?」

「皆気づいてなかったの?」

「さて、腹拵えも済みましたし猫さんも元気になったことですし、カオステラーを探しに行きましょうか」

「あれ? 僕の話が無かったことになってる?」

「そうね! こんなところでグズグズしてる場合じゃないわ! 一刻も早く調律を済ませて次の想区に向かいましょう!」

「善は急げってやつだな!」

「まぁ、いいけどさ⋯⋯この猫はこの後どうするの?」

「近くの街まで連れて行ってあげたいところだけど、連れていくための道具がないのよね⋯⋯」

「元気になったみてーだし、後は自分の好きなようにさせればいいんじゃねーか?」

「タオ兄の言う通りです。この猫さんは賢いようですし、入り口まで連れて行けばその後は自力でなんとかするでしょう」

「そうね。私たちといる方が危険なこともあるでしょうし、ここで別れましょうか」

「そうだね⋯⋯。じゃあ行こうか」

「ええ。行きましょう」

 後片付けも終わり洞窟にいる理由もなくなったエクス達は、本来の目的であるカオステラー探しに戻るため洞窟の入口へ向かう。

「ちゃんと猫も付いてきてる?」

「うん。大丈夫だよ」

「それにしても、ずいぶん人に慣れてるみてーだな」

「餌を与えたせいで懐かれてしまったのでは?」

「それはそれで面倒ね⋯⋯」

「そうなったらカオステラーと一緒に飼い主も探さないといけないね」

 そんな事を話していると洞窟の入口が見えてきた。

「ねぇ、あれって⋯⋯」

「きやがりましたね!」

 ついでに違うものも見えてきた。

「また出たわね!」

「腹ごなしに丁度良いぜ!」

 ヴィランを確認し戦闘態勢に移行すると、後ろから助太刀を申し出る声が届く。

「わ、私もお手伝いします!」

「えっ!?」

「いつの間に後ろに⋯⋯」

「あれ? 君って⋯⋯」

「話は後だ! 先にこいつらを片付けるぞ!」

 ヴィランが洞窟の入り口に立ちはだかった。

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