雪の積もる想区にて
@_sai_
雪の積もる想区
沈黙の霧。
想区と想区の間に存在する空間の事で、その内部ではあらゆる言葉や概念を飲み込まれてしまうと言われている。
その霧の中を進みカオステラーの気配を感じる想区に辿り着いた主人公一行は、その寒さに衝撃を受けていた。
「さむっ!」
「うぅ⋯⋯また随分と寒い所に出たわね⋯⋯」
青い空に白い雲。
それだけ聞けば気持ちのいい陽気なのだが、そこから視線を少し下げると辺り一面が白に覆われている。
「だな。前にもこんな感じの所に行ったよな?」
「はい。ゲルダちゃんのいた想区ですね」
二人は以前行った想区の事を思い出す。
「あぁ、あいつらのいた想区か」
「あれからまだそんなに時間が経っていないのに、ずいぶん前のことのような気がします」
「最近休まず動き回ってるからな。そのせいじゃねーか?」
「そういえば、ここのところあまり休んでいませんでしたね」
「ここいらで温泉にでも浸かれるといいんだけどな」
「いいですね、温泉。丁度雪が降った後のようですし、この辺りの街に温泉宿が有れば雪景色を楽しみながら温泉に浸かれますね」
二人が温泉について話していると、その話を聞いていたシンデレラの想区出身のエクスが温泉について尋ねた。
「温泉って何?」
「地中から湧いてきたお湯を使ったお風呂のことです」
「地面の中にお湯が有るの?」
「はい。入ると疲れが取れたりお肌がすべすべになったりします」
「泥だらけになるんじゃないの?」
「そういう温泉も有るみたいですが、シェインは見たことありません」
「シンデレラの想区には無かったのか?」
「うーん⋯⋯。聞いたことないなぁ」
「そりゃ残念だな」
「温泉のある想区に行くこともあるでしょうから、その時にでも入ってみると良いです」
「うん。楽しみに⋯⋯」
「ねえ。話しているところ悪いんだけど、どこか温かいところに向かわない?」
エクスが喋っている最中だったが、寒さに耐えられなくなったレイナが割り込み移動を提案した。
「あ、うん、そうだね」
「おし! それじゃ温泉宿探しに出発だな!」
「そうですね。宿は温かいですし、温泉に入れば疲労回復もできます。カオステラーを探す間の拠点に最適です」
「おふざけの割にはまともな案ね」
「だろ?」
「シェインのおかげです」
「じゃあ今回はタオたちのおふざけに乗ってあげましょうか」
「うん。じゃあ行こうか」
エクスの言葉を機に温泉を求めて歩き出した一行だったが、足元に積もった雪のおかげで思ったより距離を稼げずにいた。
疲労と寒さにより口数が減る中、先頭を歩いていたタオが何かを見つけて走り出す。
「おいっ! あんなところに毛皮が落ちてるぜ!」
タオが走り出した先に有る物を確認し、レイナもそこへ向けて走り出した。
「あっ、待ちなさい! 私が先に見つけたんだから!」
「二人とも走ると危ないよ!」
「きゃっ!」
タオとレイナの行動を見てエクスは注意をするが、その甲斐もなくレイナが足を滑らせ転んだ。
「転びましたね」
「転んだね」
「なかなか起きませんね」
「そうだね」
「あ、動き出しましたよ」
レイナは立ち上がり、再び走り出す。
「あ、走ってっちゃった」
「また転ぶんじゃないでしょうか?」
「流石にそれはないでしょ」
「転びませんね」
「転ばないね」
「シェイン達も行きしょうか」
「うん。そうだね」
エクスとシェインが転んだレイナを見守りつつ移動を始めると、先に走っていたタオが毛皮の許に辿り着き、少し焦った様子で声を上げる。
「おい! こりゃ毛皮じゃねーぞ!」
タオの後ろを走っていたレイナも到着し、その状態を告げる。
「これはまずいわね⋯⋯。早く暖の取れるところに移動して回復魔法を掛けないと⋯⋯」
このレイナの声はエクス達には届かなかったが、タオの声からただならぬ気配を感じた二人は急いでタオ達の許へ向かう。
「何かあったみたいですね」
「そうみたいだね。僕達も急ごうか!」
「あ、新入りさん! 足元に注意しないと転びますよ!」
走り出したエクスに向けシェインが注意を促す。
その甲斐あってか転ぶ事なく二人はレイナ達の許に辿り着き、毛皮だと思っていた物の正体を確認する。
「二人とも何が有ったの!?」
「遠くから見た時は毛皮だと思ったんだけど、猫だったみたい。それにだいぶ弱ってるみたいで⋯⋯」
「早くどっか暖の取れる所で回復しねーと⋯⋯このままだとやべーぞ」
「ここからだと、街よりも洞窟の方が近そうですね」
「街に行きたいところだけど仕方ないわね⋯⋯その洞窟に行きましょう!」
タオが猫を抱え移動を始める四人。
焦りが募る中、積もった雪が進むのを妨げる。
そんな中、新たなる障害が姿を現わす。
「最悪のタイミングね⋯⋯!」
「さっさと片づけるぞ!」
ヴィランが現れ一行の行く手を阻んだ。
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