=第3章=小さな想区の中で
シロと別れた後、無事レイナ達と合流することができた。
エクスはシロから聞いたこの想区の事を伝え封筒を皆に渡した。
「そう・・・」
「あの、それでこの想区をそのままにしておく事ってできないかな?・・・そのそこまで大きな被害は出ないと思うし・・・」
「それは無理よ」
レイナは優しくしかしはっきりと言う。
「その話が本当だとしたらあの子が連れていたヴィランはこの想区の住人じゃないということになるわ」
本来ヴィランはカオステラーの手で狂わされてしまいあんな異形の姿になってしまったのであってもともとは想区の住人である。
だがこの想区にはカオステラーであるウサギの少女以外の住人が存在しないはずなのだ、にもかかわらずヴィランは大量に沸いている。
「でも、じゃああのヴィランは一体」
「他の想区の住人がこの想区に迷い込みカオステラーに書き換えられた、と考えるのが一番妥当だと思うわ。」
「そんな事が出来るの?」
エクスの疑問にレイナはわからないと首を横に降る。
もしそんな事が可能なカオステラーだとしたらそれはとても危険な存在である。
放置してしまえば最悪全ての想区の住人がヴィランになってしまう。
「戦うしかないのか・・・・」
これ程までにストーリーテラーに腹が立った事はあっただろうか?
エクスはやり場の無い怒りをどうしていいかわからず血が出んばかりに拳を握り締めた。
「まあ、何時までもここにいても仕方ねえ、そろそろ敵陣に乗り込もうぜ」
話が一段落付いた所を見計らって会話に入ってくるタオ。
「坊主、戦いたくないなら無理に戦わなくていい、今回は休むか?」
いつになく真剣な表情でエクスの目を見ながら訪ねてくるタオにエクスはしばし沈黙し、しかし強い意思を瞳に宿し答える。
「いや、僕も戦うよ」
まだ心の整理は出来ていないしきっと迷っている、でも自分だけ見ているだけなんてきっと出来ない。
だから戦う事を選ぶ。
そんなエクスを見てタオは静かに頷いた。
「じゃあ行くぞ!」
4人は駆け出す。
今度こそ決着を付けようと。
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道中何度か戦闘する事にはなったが特に大きな被害は無く目的の家につくことが出来た。
そこには真っ白な街とは対照的な黒いお城が建っていた。
「真っ黒ですね。」
目の前の城を眺めながら率直な感想を述べるシェイン。
「ヴィランの気配は特にないわね・・・・」
入口付近に見張り役がいるかもと索敵するも特にそんな事もないようだ。
「んじゃ開けるぞ、全員警戒しろ。」
いよいよこの想区での最終決戦である。
全員気を引き締め城内に入って行く。
「何だ?こりゃあ」
タオが城内の構造を見て声を上げる。
というのも城内はただだだっ広い空間になっていた。
他には何も無い・・・・
それを見てエクスはシロに聞いた話を思い出していた。
そして理解する・・・・
この何も無い空間があの少女に与えられた想区なのだと。
「ようこそ私達の想区へ」
奥の方からこの想区のカオステラーであるウサギの少女がやって来る。
現在彼女の色は白く片手に持ち手が白く刀身の黒いエストックを持っている。
以前は持っていなかった武器を手に持っている事から向こうもこちらを本気で殺そうとしている事がわかる。
それを理解しレイナ、タオ、シェインの3人も既に英雄の姿への返信を済ませていた。
もういつ戦闘が開始されてもおかしくはない・・・・
「「「!!」」」
「お兄ちゃん・・・・?」
そん中エクスだけが英雄の姿にもならず武器も構えずに前に出た。
当然その場にいた全員が驚いていた。
だがエクスは前へ前へと歩いていく、そして丁度レイナ達とシロが対峙している中間辺りで立ち止まる。
「今の想区は楽しい?」
「え?」
これから戦うとは思えない程優しい声音だった。
だからシロは一瞬何を聞かれたのか理解出来なかった、少し考えてみてもその質問の真意はわからなかった。
でもシロは素直に・・・
「うん」
と答えた。
それを見てエクスは「そっか」と呟き自身の『 運命の書』と『 導きの栞』を取り出す。
「僕にも、僕達にも負けられない理由がある・・・・だから本気で行くよ。」
ジャックの姿に変身し剣を構えるエクス。
それとは真逆にエストックを構えるのではなく指揮棒に用に降るシロ。
指揮棒のような刀身の動きに反応し大量のヴィランも沸いてくる。
「それじゃあ行くよ!」
「ええ、遊びましょう」
ぶつかり合う2人を合図にレイナ達3人と沸き出したヴィラン達も動き出した。
こうして最後の戦闘が開始された。
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戦闘は二手に分かれる形となった。
タオ、シェインは周りに沸いたヴイランと戦い、エクス、レイナはシロと戦っている。
「なかなか・・・・道を開けてくれませんね!!」
タオの変身した姿である鎧を着込んだ青年はヴィランの群れを少しずつ減らしながら後方で支援してくれているシェイン、現在は金髪、褐色の神官見習いの少女、ラーラに問いかける。
「ええ、仕方ありません、あちらはあの2人に頑張ってもらいましょう。」
その代わりこちらからあちらに邪魔は入らせないと決意しハインリヒの倒しそこねたヴィランに的確に魔法を撃ち込む。
ヴィランは一向に減る様子を見せず2人は長期戦を覚悟した。
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「ハァァァァア!!」
「遅い、遅い」
ジャックの一撃を身軽に避けカウンターの一突きを放つシロ、しかし少々無理な体勢からその突きを剣の腹で打ち上げられ互いの攻撃は失敗。
同タイミングで次の攻撃に移る。
しかし先程からお互い何度も攻撃しているがどちらの攻撃も決まってはいなかった。
シロは恐ろしく早くジャックの攻撃を避けてしまう、攻撃も恐ろしく早く回避が難しい、しかしジャックも負けていない。
回避が難しいならとシロの攻撃を全て剣で弾いているため無傷である。
故に互いに決め手がなく膠着状態が続いている。
レイナも魔法による援護をしようと隙を伺っているがなかなか手を出せずにいた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「もう疲れちゃったの?」
無邪気にほとんど殺気のないまま聞いてくる少女は、しかし休ませる暇など与えず攻撃を放ってくる。
その攻撃も何とか弾き距離をとる。
「大丈夫?顔色が悪いわよ?」
「くっそ!」
距離をとっても一瞬で詰められエストックによる攻撃が飛んでくる。
徐々に疲労が溜まり明らかにジャックの動きが鈍くなってくる。
「もう限界みたいね」
「そうでも・・ないさ!」
残った力で全力の一撃を放つがそれもあっさり回避され地面を破壊し粉塵が舞う。
「げほっ、げほっ、ちょっと!人の家壊さないでよ!」
攻撃は外したが目くらましにはなった。
粉塵が消えるまでに一度距離を取ろうと移動しようとした。
「逃がさないわ」
「・・・なっ!」
自分で起こした粉塵が仇となってしまった。
視界を奪えば逃げることが可能だと完全に思っていた。
だがそんな簡単にはいかなかったようだ。
逃げようと動かした右足の太もも辺りをシロのエストックが貫いていた。
「がっ・・・・あああああ!!」
想像以上の激痛が右足に走る。
これはまずい、完全に機動力を奪われてしまった。
ジャックは完全にその場に座り込む。
「あら?諦めたの?」
「うん、どうやらもう無理そうだ」
「もっと諦めが悪いと思ってたんだけどな」
「いや、まいったよ、まさかここまで早いとは・・・・僕だけじゃとても勝てないってことがわかったよ」
「・・・・そう」
シロは少しがっかりしたようにジャックを見下ろし
「それじゃあさよならね」
エストックを振り下ろそうと持ち上げる・・・
その時だった。
「わしがいることを忘れておらぬか?」
「しまった!!」
突如シロのいた地面が爆発を起こしそれに巻き込まれてしまう、シェリー・ワルムの魔法攻撃だ。
この粉塵の中では魔法など当てられないだろうと完全に油断していた。
故に不意打ちは成功した。
「くっ・・・・」
「形勢逆転じゃな」
ほぼ直撃だったため体のいたるところが酷い火傷を負っている。
この火傷でこれ以上戦うのは難しいだろう。
「立てるか?」
「なんとか・・・終わったの?」
「ああ、あの傷でわ動けぬよ」
ジャックを立たせ一息つく、しかしまだ戦いは終わっていなかった。
「クロが起きたわ・・・」
誰に告げるでもなくシロは呟く。
瞬間その場の空気が変わった事にジャックとシェリーは気付きシロの方を見る。
すると少女の色が変わっていく、シロからクロへと変化する。
「まだ終わってないみたいだ。」
「そう、まだ終わりじゃない、シロが負けても僕はまだ負けてないからね。」
完全にクロに変わり終えると立ち上がる、体の傷は当然なくなってはいない。
故にダメージは残っているはず、なのにクロは何でもないかのように武器を構える。
「第2ラウンドといこうよ、お兄さん」
そのまま地を蹴り突っ込んでくるクロ。
迎え撃つべく剣を構えるジャック。
彼も足の傷は健在である、動かすたびに激痛が走る足を無理やり動かしこちらも突っ込んでいく。
戦闘は終盤戦へと突入する。
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