=第1章=白黒ウサギ
霧を抜けた先に現れた世界は真っ白な街だった。
「ここにカオステラーがいるの?」
青髪の少年、エクスはその色のない街を眺めながら先頭を歩いていた金髪の少女レイナに尋ねた。
「ええ、その筈・・・なんだけど・・・」
レイナは綺麗な碧眼を不安げに泳がせながら答えた。
「おいおい、お嬢は確かにポンコツだがカオステラーの居場所だけは外したことなかっただろ?」
そんな不安そうなレイナを灰色の髪の青年タオが意地悪そうに笑いながら茶々を入れに入ってくる。
「なっ・・・それだとまるで私がそれ以外ポンコツみたいじゃない!!」
侵害だとばかりに頬を赤らめ怒るレイナ。
「まあまあ姉御落ち着いて、大丈夫、姉御は単独行動さえしなければそこまでポンコツじゃないですよ」
そんな様子を見て黒い髪を後ろで纏めた落ち着いた雰囲気の少女シェインが襲いかかりそうな勢いのレイナをどうどうと止めに入った。
「あははは・・・」
そんないつも通りのやり取りに新しい想区だからと緊張していた自分に若干のばかばかしさを感じつつエクスはもう一度色のない街を見る。
何度見てみても異様な光景である。
今までの想区は建物や木など色があった、しかしこの想区は建物、植物、全てが真っ白なのだ。
更に異様なのは人が一切存在していないという点である。
どこの想区にも大抵、主役の他にも脇役の役目を与えられた人達がいるはずなのだがここには一人もいなかった。
「新入りさん!伏せてください」
「へ?」
突然の忠告に声の方角を向くエクス、そんな彼の頬を魔法がかすめ後方に飛んでいく。
声の主はシェインの物であったはずなのだが目の前にいるのは先ほどまでいた黒髪の少女ではなく褐色の肌に金髪の少女だった。
これは空白の『運命の書』の真の力というべきだろうか、空白の『運命の書』に『導きの栞』を挟むことで『物語の
今のシェインは神官見習いの少女ラーラの姿に変わっている。
「シェインさん?」
「
先ほど後方に飛んで行った魔法は自分を狙った物ではないのは当然わかっていた。
爆発音とともに何かのうめき声が聞こえたことから
もし彼が声に反応して振り向かなかったら魔法は顔面に直撃していた。
それを思うと少し不満もあった。
「・・・構えて」
「はい・・・・」
何も言わせないという勢いでシェイン、今はラーラに気おされてしまい、黙ってエクスも『導きの栞』を自身の空白の『運命の書』に挟む。
そして彼の容姿も別人のものへと変わる。
青髪の温厚そうな印象だったエクスは茶髪に挑戦的な笑みを浮かべた少年の姿に変わっていた。彼は豆の木の英雄ジャックだ
「化け物でも巨人でも、かかってきやがれ!」
挑発的に叫ぶとともに
結構な数のブギーヴィランだがジャックが剣を大きく一振りすると簡単に消滅した。
「まあ、ざっとこんなもんさ!」
群れを一振りで一掃しラーラの方にピースをするジャック。
「まだ終わってません、後ろです!」
「え!!」
完全に勝ちを確信し油断していたため第二群が現れていた事に気づかなかった。
完全に数体のブギーヴィランに間合いに入られた、ブギーヴィランは鋭いかぎ爪で攻撃を放つ。
上空に2体、左右に1体ずつ、計4つの攻撃が同時にジャックに襲い掛かる。
「油断は禁物ですよ」
しかしその攻撃がジャックに当たることはなかった。
目の前では鎧を身にまとった青年が片手に持った盾でブギーヴィランの攻撃を防いでいた。
彼はとある国の王子の家来ハインリヒ、タオが『導きの栞』で変身した姿だ。
「けがはありませんか?」
「ありがとう」
盾を思いっきり振り4体のブギーヴィランを吹き飛ばす
「今です!」
「おーけー!」
「任せてください」
右の1体をジャックが剣で一閃、左の1体はハインリヒが片手の槍で貫く。
上に飛んだ2体をラーラが魔法で吹き飛ばす。
しかし2体のうち1体がもう1人の体を蹴って横に飛び空中で方向転換、ラーラの魔法を回避し建物の壁を上り逃げていこうとする。
「逃げられた!」
「わしに任せておけ」
後方から声がした。
黒いとんがり帽子にローブ姿の金髪の魔女の少女、シェリー・ワルムが大きな本を開き魔法を発動する、するとブギーヴィランの降れた壁が爆発し見事に排除に成功する。
「まだまだ衰えておらぬな」
標的の排除を確認すると満足そうにシェリーが言う。
こうして戦闘は終了した。
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「どうよ!ポンコツじゃなかったでしょ?」
戦闘が終わり第一声を発したのがレイナだった。
彼女は「どうだ!」と言わんばかりに勝ち誇った顔でタオとシェインを見ている。
「確かに、ヒーローの力を借りてるとお嬢はポンコツじゃなくなるよな。」
「はい、とても方向音痴で頻繁に迷子になっているとわ思えませんよ姉御、まるで別人です。」
「ふふん、そうでしょう?」
「あははは・・・」
本人が満足そうなので突っ込みはしないが、遠回しにバカにしているような気がしてならないなとエクスは苦笑いを浮かべるのだった。
「まあまあ、怖いねシロ」
「怖いわクロ」
「誰?」
突然、誰もいなかったはずの場所から声がした。
そこには小さな女の子がいた。
「私はシロ」
「僕はクロ」
「えーと・・・」
シロとクロと名乗った少女はどこからどう見ても1人だった。
長い髪にフリルの付いたワンピース、頭に生えた大きなうさぎ耳は垂れている、なんとも愛らしい見た目の少女、ただ異様なことに少女は左右で色が違っていた。右半分は黒く左半分は白い眼の色も右は赤く、左は黄色い。
着ているワンピースも右半分は黒髪と対照的に白くなっていて、左側は黒い。
なんとも不思議な女の子である。
「えーと・・・君は?」
「シロ、シロ、このお兄さん見た目通り間抜けみたいだよ?」
「クロ、クロ、このお兄さん言語が通じないみたいだわ」
「あ、いや、えーとシロちゃんと、クロくん?」
「シロ、シロ、このお兄さん僕が男に見えるみたいだよ?」
「クロ、クロ、このお兄さんクロの事おとこの娘だと思ってるみたいよ」
「あー・・・ごめんね、クロちゃん」
なぜだろう話しているだけで頭が痛くなってくるのをエクスは感じていた。
おそらくこの少女がこの想区の主役なのだろう思うのだが少しキャラが独特すぎる。
というかなぜレイナ達は気づかないのだろうと3人の方を見てみるといつの間にかなにやら言い合いになっているためこちらに気づいてないようだった。
「はははは・・・・はぁー・・・・」
もうなんか色々疲れてしまい苦笑いとため息が漏れた。
「シロ、シロ、お兄さんなんだか疲れてるみたいだよ?」
「クロ、クロ、お兄さんが疲労困憊よ」
「あー、うん、ごめん、大丈夫だよ」
「無理はよくないよ、お兄さん」
「無理はよくないわ、お兄さん」
「「大丈夫?」」
シロとクロと名乗る少女はエクスのおでこに向かって手を当てようと背伸びをして手を伸ばしてくる。
その一生懸命な様子がなんとも微笑ましく思えた。
(少し変わってるけど、優しい子なんだな・・・)
「シロ、シロ、お兄さんがシロを見て笑っているよ、きっとシロでよからぬ妄想してるんだ」
「クロ、クロ、お兄さんがクロを見てにやにやしてるわ、きっと脳内でクロにあんなことやこんなことしてるんだわ」
(やっぱり変な子だな・・・・)
「そういえばお兄さん、クロ達に名前を訪ねておいて自分は名乗らないのはどうなのさ?」
「そういえばお兄さんの名前まだシロ達は聞いてなかったわ」
「「教えてくれる?」」
少女は小首をかしげ訪ねてくる、そういえば名乗っていなかったとエクスは腰を低くし少女と同じ目線になる。
「僕の名前はエクス、改めてよろしくね、シロちゃん、クロちゃん」
少女の頭に手を置き優しくなでてあげる。
と少女は少し頬を赤らめながら・・・
「エクスお兄さん」
「エクスお兄ちゃん」
「「うん・・・よろしく・・・」」
照れくさそうに返してきた。
それにしても不思議な少女だ、喋り方が独特なせいもあってかシロとクロと名乗った少女は一人である筈なのに二人いるように感じた。
もしかして多重人格という奴なのだろうかとも思った、しかし明らかに二人で会話しているところを見ると少し違うようにも感じる。
「エクス!その子から離れて!」
「レイナ?どうしたの?」
言い合いに一段落ついたのだろう、レイナがこちらに来てエクスの体を引っ張り少女から引き離される。
明らかに異常なレイナの表情を見ると敵意のこもった視線を先ほどエクスが話していたうさぎの少女に向けている。
「レイナ?」
「あの子、カオステラーよ」
「・・・・え?」
予想外の返答に脳が追い付かない。
(この子がカオステラー?)
「おいおい、さっそく親玉のおでましか?」
「今回は早めに片が付きそうですね」
タオとシェインの二人もこちらに来ていた。
二人ともいつでも戦えるように『運命の書』と『導きの栞』を手に持っている。
「名前も聞かずにすぐ暴力で訴えようとしてくる、野蛮だね君たちは」
目の前の少女の様子が先ほどまでと一変する。
あからさまな敵意、明確な殺気を白黒ウサギの少女はこちらに向けてきている。
「僕の名前はクロ、君の言う通りカオステラーだよ」
名乗った瞬間先ほどまで白と黒だった少女は全てが黒に変わる。
「お客様は低調にもてなさないと、僕等のお家までおいでよ、準備して待っているからさ」
言い終えるや否や少女、クロは後方に跳躍しその場から離脱する。
「また会おうね、エクスお兄さん、シロも待ってるよ」
誰もいなくなった街にクロのそんな声が響き渡った。
「エクス、大丈夫?なにもされてない?」
呆けているエクスの顔を心配するようにのぞき込むレイナに大丈夫と微笑み返す。
「とりあえずあのウサギを追おうぜ」
タオの言葉に頷きクロの飛んで行った方向へ走り出す。
目指すはシロとクロの家だ。
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