=第2章=白ウサギ
「あの子の家ってどこなのかしら?こっちの方角に飛んで行ったと思うのだけど」
「姉御、あれ見てください」
シェインの指さした方向を見るとブギーヴィランが1匹だけこちらの様子を窺うように見ていた。
「攻撃してくる気配はなさそうだね」
とりあえず近づいてみようとエクスが近づくとヴィランは遠くに行ってしまう。
しかし近づくのをやめるとヴィランも動きを止め再びエクス達を観察するように見てくる。
「ついて来いってことか?」
「みたいね」
あからさまに怪しい道案内に罠である可能性も当然考えたがほかに手掛かりもないため4人とも警戒しつつもヴィランについていくことにした。
=================
どれくらい歩いたであろうか。
時間にしておそらく1時間くらいだろう、ひたすらヴィランを追いかけていた。
その結果ようやく目的地らしい家についた。
他と変わらず相変わらず真っ白な建物であるのだがその建物の中に先ほどのヴィランが入っていったのだ。
「ここね・・・・」
「ここですね・・・」
「ここだな・・・」
「うん・・・」
全員視線を合わせ最大限に警戒する。
手には『運命の書』と『導きの栞』を持ち各々いつでも戦闘できるようにする。
「それじゃあ・・・開けるよ」
エクスの掛け声にみな頷きあいドアを開ける。
「おいおい、なんだこりゃ?」
タオが苦笑を漏らす。
室内では大量のヴィランが大きな机を囲みみな手には空っぽのティーカップを持っている。
机の上にはポットに大きなお皿が数枚、その光景はお茶会のようであった。
しかし本来お菓子が乗っているであろうお皿には何も乗っておらず、ティーカップに紅茶を注いでいるヴィランのポットからは何も出きていない。
それはまるでおままごとをしているようにも見える。
4人ともそれがなんとも奇妙に感じていた。
「ようこそ、シロのお茶会へ」
なんとも狂気的な光景に面食らっていると一番奥の席に目的の少女を見つけた。
ただ先ほどは黒かった髪の色が白くなっていた。
「クロは今眠ってもらっているから、シロとお話しましょ?」
白いウサギの少女は敵意のない笑みを見せるとそんな提案をしてきた。
だが少女がそう提案した時には既にエクス以外の3人は動いていた。
三人とも
レイナとシェイン、現在はシェリー・ワルムとラーラが法撃を放ちその法撃の後に続きタオが机の上を駆けハインリヒの槍による攻撃を放つ。
三人の息の合った同時攻撃がシロを襲う。
完璧なタイミング、確実に手ごたえはあった・・・・
しかし攻撃は失敗に終わった。
「本当に野蛮」
「「「!!」」」
三人の攻撃は先ほどシロが座っていた椅子を粉々に破壊していた。
しかしシロ自体にはかすり傷一つなく何事もなかったかのようにハインリヒの背後を取っていた。
「あなた遅いのね」
くすくすと笑いながら言うシロにめがけ、ハインリヒは槍を思いっきり横に振りそのまま背後にいるシロに攻撃を放つ。
その槍を起用に踏みつけシロはハインリヒを飛び越えるようにして攻撃を回避し再び自分が先ほどまで座っていた位置にもどる。
「みんな!この人たちと遊んであげて!」
シロがそういうと周りに座りお茶会の真似事をしていたヴィラン達が一斉に動きを止め戦闘モードに切り替わる。
単体で接近していたハインリヒは完全にヴィラン達に囲まれてしまっていた、そのため全員の攻撃が彼に集まる。
右側10左側10の合計20体のヴィランが襲い掛かる。
ハインリヒは冷静に現状を把握し槍を前方、シロのいる方角に向け構えなおし一気に突っ込む。
「無駄無駄、そんな遅くちゃ当たらないわ」
当然のように攻撃はあっさり回避されてしまう、だがそのおかげで逃走経路はできた。
そのまま前方に移動しヴィランの攻撃を避けることに成功する。
攻撃を失敗したヴィラン達は一か所に集まる形になった。
そこにすかさず後方支援に徹していた二人が魔法を撃ち込みヴィランを一掃、仕留め損ねたヴィランはハインリヒが槍で貫き排除する。
3人は20体もいたヴィランを一瞬で倒してしまった。
「すごい・・・一瞬で・・・」
1人取り残されたエクスは目の前で行われていた戦闘を見入ってしまっていた。
それゆえに完全に油断していた。
エクスが戦闘を終えた3人に近づこうとしたとき何者かに背中を引っ張られ家の外へと連れていかれてしまう。
「ちょっ!・・・え?」
====================
「逃げられてしまいましたね」
気が付けばシロの姿はなくなっていた。
室内にあるのは戦闘で壊れてしまった食器と机の破片だけだった。
「振り出しに戻っちゃったわね・・・」
再び行く当てがなくなりため息をつく一同。
「まあ、でもみんな無事そうでよかったわ」
「そうですね。」
あれだけの量のヴィランを数に無傷で済んだのだから良しとしようと笑顔を作るレイナとシェイン、しかしタオは何かに気づいたように辺りを見渡す。
「どうしたの?タオ」
「いや、坊主の姿が見当たんねーなと思ってよ」
=============================
「んーお茶会はお気に召さなかったのかしら?楽しいって聞いたのにな・・・」
「えーと・・・・」
現状を把握しよう、レイナ、シェイン、タオが戦闘に集中している間にシロにさらわれたエクス。
この想区を狂わせた元凶に捕まってしまったのだ、どんな酷い目に合うのかとビクビクしていたのだが彼が連れてこられたのは先ほどの家から少し離れた位置にあるベンチだった。
いや場所だけならまあさほど問題ではない、この場で戦うことになるのかもしれないと一応警戒はしていたのだ、だがやらされたことといえば座らせられ更に膝の上にシロが座り先ほどから何やらブツブツぼやいていてエクスは放置状態である。
(どうしよ・・・・この状況・・・)
「うーん、嘘つかれたのかな・・・うーん」
依然として放置されるエクス、どうしたらいいものかと困っていると、シロがこちらに顔を向けて来た。
「エクスお兄ちゃん達は私達をやっつけに来たの?」
なんてことをまったく敵意のない笑顔を向けながら聞いてきた。
正直その質問には困った、事実この想区を調律するにはカオステラーすなわちシロとクロを倒さなければならない、だがここまで無邪気に聞かれてはいそうですと返すことはエクスにはできなかった。
そんなエクスを見てシロは少し申し訳なさそうな顔になる。
「エクスお兄ちゃん、少しお話しよ」
「え?あ、うん、いいよ」
突然の話題提供に少々面食らいつつも笑顔で返す。
「エクスお兄ちゃんの運命の書って白紙だよね?」
「へ?ああ、うん、僕の運命の書は白紙なんだ」
「私の運命の書はね、導入部分しか書かれてないんだ・・・・」
シロは少し悲しそうにそう告げた。
「導入しか書かれていない?」
「そう、だから私本当は名前はないの、私に与えられたのは自分がウサギだということと真っ暗な狭い想区だけだった・・・」
「そんな・・・・・」
今までカオステラーによってこの街はおかしくされてしまったのだと思っていた。
だからこの想区のすべての者が真っ白なのだと思っていた、本来は普通の街並みが広がっていて、白く塗り替えられてしまったのだと思っていたのだ・・・
だが現実は違った。
本来この想区はただ真っ暗な狭い空間でしかないのだと少女は言った。
「でも、ある時、私が寂しいと泣いていたらもう一人の私が目の前に現れたの、それで私の想区をどんどん広くしてくれた」
僕等からしたらカオステラーは危険な存在であり明確な悪である。
故に倒さねばならない。
しかしこの名前すらないウサギの少女にとっては唯一の救いだった。
そして今からそれを奪わなければならない。
それを知ってしまいエクスの表情がより一層暗いものにかわる。
「やっぱり、お兄ちゃんは優しいのね」
そんなエクスの表情に気づきシロはエクスの頭をそっと撫でた。
「ごめんね、悲しませるつもりはなかったの、ただ誰かに知っておいて欲しかったの。」
言ってシロはエクスの膝から降りた。
エクスはシロを直視することが出来ずただただうつむく。
「これ、あげる」
そんなエクスにシロは何かを渡す。
「これは?」
貰った物を見るとそれは4つの封筒だった。宛先はエクス、レイナ、タオ、シェインの4人宛ての物だった。
どの封筒にも平仮名で『しょうたいじょう』と書かれていた。
「その中に私のお家までの地図が入ってるの。」
瞬間目の前の少女の色が再び変わる。
初めて会った時と同じ半分黒く半分白色の少女になる。
「待っているねお兄さん」
「待っているわお兄ちゃん」
一礼すると白黒ウサギの少女は再び高く跳躍しその場を後にする。
「・・・・どうにか出来ないのか・・・?」
残されたのは暗い顔でうつむくエクス一人だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます