=第4章=黒ウサギ
再び戦闘が開始された。
クロは全身火傷により動きが目で追える程度まで減速してしまっている。
ジャックは片足に殆ど力が入れることが出来ずほぼ移動できない、更に踏ん張ることが出来ないため攻撃も軽い。
1対1ならば勝敗はわからなかっただろう、しかし2対1なら話は別である。
故に戦闘は一方的なものになるだろうと思っていた。
「・・・・くっ!」
ジャックの攻撃は殆ど防げている、しかしシェリーの魔法攻撃は流石に防ぐことが出来ない。
故に直撃とは行かずとも少しずつダメージ与えられて行く。
にも関わらずクロは依然として戦闘を辞めようとはしない。
動くだけでも体に激痛が走るだろう。
剣を打ち合う度に血が飛び散っている事をジャックは当然気付いていた。
「降参・・・・する気は・・・ないんだね!!」
「当然・・・・でしょ!!」
まだクロの戦意はなくなっていない事を確認すると先程貫かれた足で無理矢理踏ん張る。
当然激痛が走るがそんなものは無視する、傷口からは血が滲んできている。
しかし目の前の少女は本気で勝とうと戦っている、そして自分は先程全力で戦うと告げた。
なら自分だけ仲間に任せっきりなのは失礼というものだ。
故にー
「くっ・・・・はぁあ!!」
「ゲホッ・・・・ふっ!!」
互いに剣をぶつけ合う。
傷口から血を流し、新しい傷も増えて行く。
だが2人のスピードは上がって行く。
一撃一撃に全てを込め剣を降る。
その度に互いに意識が飛びそうになる、もはや立っているだけでも辛いはずなのに2人共もう意地だけで立っている。
「・・・・・・・ふう」
そんな2人を見てレイナは変身を解く。
時期に決着がつくだろうと思ったしなんとなく邪魔をするのは悪い気がしたのだ。
それにー
「これじゃまるで喧嘩ね」
それが率直な感想だった。
とても命懸けの殺し合いという雰囲気ではなく悪友同士の殴り合いと言ったふうに見えた。
故に傍観に徹する事にした。
「そろそろ・・・限界なんじゃ・・・・ない・・の?」
「そっちこそ!・・・・フラフラに見えるよ!」
視線が交差し次の一撃を放つ。
そして遂に互いの武器の方に限界が来てしまったようだ。
2人の剣は刀身が砕け散った。
突然剣が軽くなった事で盛大に二人共すっ転ぶ。
「・・・・これは」
「引き分け・・・・?」
こうして戦闘は武器の破損により引き分けとなった。
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エクス達が戦っている場所から少し離れた位置にて、タオとシェインも戦闘が終わった事に気付きその場に座り込んでいた。
「終わったみたいだな。」
「ですね。」
2人の周りには大量のヴィランの亡骸が転がっている。
その事からこちらも激しい戦闘を繰り広げていたということがわかる。
座り込んでいる2人も所々傷を負っている、流石に無傷という訳には行かなかったようだ。
「お疲れ」
「タオ兄も」
2人はハイタッチすると地面に大の字になって倒れ込んだ。
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さて勝敗は引き分けになってしまった訳だがもはやエクスもクロも完全に行動不能状態となっていた。
「これで、良し!」
レイナはもはやボロ雑巾のようになってしまっている2人の応急処置を終える。
治癒魔法による手当てだったため傷口は殆ど塞がっていた。
「とりあえず傷口は塞いだけど安静にしてて、無理に動くとまた開いちゃうから」
「ありがとう、レイナ」
「じゃあ、私はタオとシェインを呼んでくるから」
「うん」
レイナが去りその場に2人だけが残された。
エクスはウサギの少女の方を向く。
いつの間にかまた色が半分白色に変わっていた。
「負けちゃったね、シロ」
「負けちゃったね、クロ」
「お別れだね」
「お別れね」
「え?お別れって?」
俯きもう1人の自分と会話をしている内容が耳に入りつい聴き返してしまった。
「シロの1人でいたくないという願望に反応して僕は産まれたんだ。」
カオステラーは主役か主役に近しい人間がなる。
シロの1人でいたくないという強い願望によりシロに憑依したカオステラーはもう一つの人格という形でシロに憑依した。
その結果クロというもう一つの人格を生み出した。
「お兄さん達の目的はこの想区を元に戻す事・・・・ならカオステラーである僕は消えシロは名前のないウサギに戻る。」
「・・・・ごめん」
「お兄ちゃんが謝ることじゃないわ」
「・・・・うん・・・」
「さて、じそろそろ時間みたいだ」
「え?」
振り向くとレイナたちが来ていた。
「新入りさんお疲れ様です、ボロボロですね。」
「立てるか?」
「タオ、シェイン」
二人もボロボロのようだ表情から疲労の色が見て取れる。
「それじゃあ調律に取り掛かるわ」
「・・・・・うん」
言いたいことはあった、他に何か方法はないのかとか。
この二人を助けてあげられる方法はないのかとか。
だが、それは無意味なことだと知っている。
これが一般的な想区での事であるならば『運命の書』の運命を変えてしまえばいい、つまりシロとクロを一緒に連れて行けばよいのだ。
だがクロという存在自体がカオステラーである以上それはできない。
だから
「ねえ、シロ、クロ少しお話ししようか」
「「え?」」
だから全て消えてなくなってしまうまでせめて、少しでも悲しみとかを紛らわす事が出来たら・・・
そう思った。
「シロ、シロ、お兄さんは僕達が消えちゃうのが寂しいみたいだよ?」
「クロ、クロ、お兄ちゃんは私達とお別れしたくないみたいね」
初めて会った時を思い出すやり取りに苦笑が漏れた。
「じゃあ、一つ質問していい?」
「え?うん」
「お兄さん好きな人はいるの?」
「ぶっ!!」
「にゃっ!!」
「「「っ!・・・・」」」
突然に思いもよらない質問をされ吹き出すエクス。
なにやら素っ頓狂な声を上げるシロ。
そして笑いを堪えるシェイン、タオ、調律中のレイナ。
「え、えーと・・・・」
なんと答えていいものか非常に困っていた。
(好きな人はいる、いやいたというべきか・・・・
だって彼女にはもう好きな人がいるのだ・・・
もうあきらめた・・・はずだったが・・・いざ好きな人はいるかと聞かれて一番最初に浮かんだ顔が・・・・)
「クロ!突然何聞くのよあなた!」
「だってシロがさっきお兄さんたちが来るの待ってる時に、好きな人いるのかな・・・てぼやいてたからさ」
「別に聞かなくていいの!クロのアホ!早く消えたら」
「あー、そういうこと言っちゃうの?いいよーだ、エクスお兄さーん!シロがお兄さんとけっこ・・むがっ!」
「アホ!クロのアホ!」
先程までのお別れムードはどこへやら
1人迷走しているエクスと
体の半分と半分で喧嘩をしているシロとクロ。
「何か凄く面白い絵面ですね」
「ああ、だいぶ愉快な事になってるな」
その様子をなんとも微笑ましそうに眺める2人は顔を見合わせ笑うのだった。
================
その後も当たり障りない雑談をし気が付けば想区内が光に包まれる。
どうやら調律が終わったようだ。
「そろそろ時間かな。」
「そろそろ時間だね。」
「うん、みたいだね。」
外から大きな音が聞こえる。
おそらくあの白い街がぐずれているのだろう。
「さて・・・・どうやら僕もここまでだ。」
少しずつ黒い色が白に変わっていく。
クロが生きていたという証拠になる物がなくなっていく。
「シロ・・・・楽しかったね・・・・」
「・・・・うん・・・・」
「でも、これで本当のお別れだ。」
「・・・・うん」
「泣かない、泣かない」
優しく言うクロの言葉を聞き涙を堪えようとするも止まることなく流れてくる。
「あ、そうだ、エクスお兄さん」
「なに?」
もう殆ど色が落ちてしまっている顔をエクスの方に向きクロが言う。
「一つお願いがあるんだ、聞いてくれる?」
「うん、いいよ」
「ありがとう、この想区が元に戻ってもシロに会いに来てあげて欲しいんだ。」
クロが消えればシロは1人だ。
今回の出来事も全て忘れシロはまたあの暗闇に1人で生きていく事になる。
それだけはどうにかしたかったのだ。
「うん、わかった、必ず会いに来るよ。」
「ありがとう、じゃあこれあげる」
もう殆ど意識が薄れ体の所有権も白に戻り始めている、そんな体を無理矢理動かし封筒を渡す。
「これは?」
「悪足掻き・・・・かな?」
封筒を受け取ると同時にクロは完全に消滅した。
カオステラー本体が消滅した事で書き換えられていた想区も一気に元に戻る。
光に飲み込まれていく世界の中で座り込み泣き叫ぶ少女の声だけが響いていた。
===============
「エクス!!」
レイナの声で意識がハッキリとしてくる。
「ここ・・・・は?」
気が付けば周りには何もなくあるのは霧だけだった。
レイナが心配そうにエクスの顔をのぞき込む。
「大丈夫?」
「え、ああ、うん、少しボーとしてただけだよ」
「もお、ここで迷子になったら危ないんだから、ボーとするなら次の想区に着いてからにしなさい」
「う、うん」
どことなくボーとする頭を振り気を引き締める。
そこで何か違和感を覚える。
「ねえ、レイナ」
「なに?」
「新しい想区を目指してどれくらい立つっけ?」
「2日くらいかな?」
「その間にどこかの想区に立ち寄ったりしたっけ?」
「いえ、どこにも寄ってないわよ?どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないよ」
どことなく記憶があやふやだった。
何故か大切な事を忘れているような気がするのだが思い出せない。
誰かと約束を、大切な約束をしたような気がするのだ。
「新入りさん、何持っているんですか?」
「え?」
シェインに言われて気付く、何やら見覚えのない封筒を持っていた。
「なんだろう?これ」
「中身を見てみては?」
「そうだね」
封筒を開け中身を見てみる…
中には栞が入っていた。
「これって」
「導きの栞ですね、でもなぜ封筒に?」
「さあ?」
栞を見ても特に変わった様子はなくコネクト出来るヒーローが描かれている。
ただ描かれているヒーローに見覚えがなかった。
黒いウサギの耳を生やした少女、名前の欄にはクロと書かれている。
「んーむ、新入りさんのですか…て!!どうしたんですか」
「え?・・・・あれ ・・・・なんだ」
栞を見たエクスの目から涙が流れて止まらなかった。
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薄暗く誰もいない空間にその少女はいた。
暗い闇の中でも目立つ真っ白なウサギの耳をはやした少女だ。
手には導入部分だけが書かれた『運命の書』を持っている。
自分は何のために生まれたのだろう。
何度目になるかわからない自問自答を繰り返す。
ストーリーテラーに忘れられた想区・・・・・
故にたとえ誰かが運よく訪れようと一度出れば忘れられる場所『忘却の想区』
それがこの想区の名前だった。
誰にも記憶されることもなくただ孤独にいつか来るであろう終わりを待つ・・・・
それだけの運命。
「なんで生まれてきちゃったんだろ・・・・」
自身の『運命の書』をペラペラとめくり始める。
書かれているのは最初の1ページのみ、2ページ以降は白紙の本を特に意味もなくめくり続ける。
最後のページに差し掛かった瞬間唐突に右手が勝手に動いた。
「え?何これ?」
右手は一度こぶしを作り開くとクレヨンが握られていた。
普通に誰かに見せられたらまるで手品みたいで関心するかもしれないがこの状況下で見せられて出てきた感想は・・・
「え?きもちわる・・・・」
だった。
これには右手も少しショックだったのかクレヨンを落っことしそうになる。
「なんなのこれ?」
「感動の再開なのにひどくない?」
「だ、誰!」
唐突に声が聞こえたので辺りを見回すが当然誰もいない。
「あー、そっか、忘れてるのか、ほら右、右!自分の体の右側・・・て言っても見えないよなーうーむ・・・・」
なにやらブツブツ言いだす声、そこで気づく、その声は自分の口から出ているものだと。
「なにこれ!気持ち悪い!」
「そういえば初めて会った時もこんなんだったっけ?」
急展開に追いつけない白いウサギの少女が呆然としていると右手は勝手に動き出す。
クレヨンを起用に指でクルクルし先ほどから開いたままになっていた『運命の書』の最後のページにひらがなで何かを書き込んでいく。
「ちょっ!何するのよ!」
「まあまあ、いからいいから」
それは以前、初めて会った時にも行った行為・・・・
何もない白紙に文章が書かれていく。
「これでよし!」
「何勝手に書き込んでるのよ!」
「いいじゃないか、どうせ白紙だし、導入部しか書かれてないんだから。」
右手からクレヨンを取り上げ書かれた文を読む。
それはすごく幼稚な文章で中身もなくておまけに全部平仮名の文章
「まあ、まだしばらくは無理かもしれないし、今はただの落書きだけどそのうち僕がその落書きの通りに君を幸せにする、だからそう邪険に扱わないでよシロ」
「シロ?」
「そ、君は白いからシロ、そして僕はクロ、初めまして」
「クロってことはあなた黒いの?」
「そ、僕は黒いウサギなんだ」
こうして二匹のウサギは再び出会った。
この出会いにより導入部分だけだった『運命の書』に新たな文が書き加えられていることに二人はまだ気づいていなかった。
=誰かの書いた物語= トリノオト @torinooto
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