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 その日の夜、僕は学校で出された宿題と格闘していた。

 明日から土曜日曜と二連休なのだから、無理して今日やることもなかったのだけれど、日曜日には亜澄とピクニックに行くことになっていたので、遅くとも明日には片付けておきたかったのだ。

 僕が今相手をしているのは、化学の穴埋めプリントだった。

「あー、これ、何だったっけ……」

 それまでは順調だったのだが、ここに来て分からない問題に出くわした。

 確か、この辺りは教科書よりも、資料集の方が詳しかったはずだ。

 机に掛けてある鞄を手に取り、中を探る。

 今日は化学の授業があったから、僕が今求める資料集は鞄の中だ。

 目的のものをあっさり見つけ、取り出す。

「さて、と。……ん?」

 資料集を取り出した時――きっと本と本の間に挟まれていたのだろう、何かの紙切れが一枚、鞄から飛び出してきた。

「……何だこれ?」

 ひらひらと舞い、床に落ちた。

 掌二つ分くらいの、縦長の紙切れ。

 そこには何やら文字のようなものがびっしりと書き込まれている。中には何かの図形のようなものも見える。それはいわゆる、お札だった。

「こんなもの、鞄に入れてたかなあ……」

 そもそも何のお札なのだろう。

 僕はそんなに信心深くないから、基本的にこんなものは持っていない。

 こんなものをくれるような知り合いにも、心当たりがない。

「まあ、そこに転がしたままにしとくわけにもいかないか」

 拾い上げようと、椅子から立ち上がる。

 一歩、二歩。

 お札の落下地点へと接近。

 身を屈め、手を伸ばす。

 お札に手が触れた瞬間。

 不思議な感覚――。

 脳に、何かが流れ込んでくる。

 記憶が、雪崩込んでくる。


 緋紗納ひしゃな県。

 春羅木はるらぎまりん

 華良緋からひヴィラ。

 朱里亜しゅりあ紋都もんと

 紫兵裏しへいりかえる

 三一人の転校生。

『瘴気』。

 ドラゴン。

 バジリスク。

 ダンタリオン。

 巫女。

 華良緋からひ宮殿でのお茶会。

 ヴィラの任務への同行。

 まりんとヴィラの衝突。

 そして、再び現れた紫兵裏しへいりかえる


 僕は、全てを思い出す。

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第四十四県の怪 @Boku_me_moi

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