二章 おてんば娘と逃走劇のエトセトラ

第15話 プロローグ

 首都グラニの裏路地に、周囲を用心深く見回している不審な人影があった。

 キャスケットを目深に被り、ニットウェアの上に羽織ったフード付きの上着に、生地のほつれがあちこちに見えるショートパンツ。

 使い古された服を纏った、犬の獣人の少女だった。

 だが、帽子から垂れ下がったセミロングの髪や、ライトゴールドの足の毛並みは艶やかで、身なりに比べて浮いた印象があった。

 少女は曲がり角からそ~と頭を覗かせると、先の様子を窺う。

 誰もいない事を確認すると、抜き足で素早く角から飛び出す。

 それから壁にもたれかかると、それに沿って忍び足で道を進む。

 少女の垂れた耳がピクリと跳ね上がった。

 聞き覚えのある足運びが聞こえてきたからだ。

 音の大きさからして距離はある。

 少女は顔を引きつらせながら、慌てて物陰に飛び込んで身を屈めた。

「……しつこいなぁ、もうっ!」

 小声で悪態を吐きながらも、周囲への集中力は維持していた。

 再び遠のいていく足音に神経を研ぎ澄ませながら、大きな溜め息を吐き出した。

「やれやれ……やっと撒けたかな」

 静寂に包まれた路地裏で耳を澄ませていた少女は安堵の笑みを浮かべる。

「とにかく! ヒト混みに紛れ込んで、姿を眩ませないとネ!」

 両手を握って小さく気合を入れると、再び立ち上がる。

 相変わらず挙動不審な動きで、彼女はソロソロと大通りを目指し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クラリオン~時と業の永劫奇譚~ 柒星天道 @tentou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ