4 喜怒哀楽

「信じられない」

不意に出た言葉だった。

真澄の喜びの感情が、この中学生のような姿の少年として現れた。

そんな非現実なことが、と真澄は目の前の存在を否定しようとした。

だが、あの非現実なバケモノによって少年の言っていることが本当かもしれないと出かけた言葉を飲み込んだ。

代わりに状況を整理するため、真澄は少年に疑問をぶつけた。

「・・・・・・君が俺の感情だとしたら、どうやって出てきたんだ?」

「それが分かんないんだよね。真澄がヤバイ!助けないと!って強く思ったらこっちに来てた」

少年は体全体を使って話すタイプのようだ。

「まだ信じられない、けど・・・・・・君が感情だという証拠が欲しい」

「えーそれは難しいな。僕は一番弱い感情だからさっきので力を使い果たしちゃったんだ」

うーむ、と口に出しながら分かりやすく考えるポーズをとっている。

「あ!真澄の 他の感情を呼ぶことができるよ」

少年は右手を真澄の左胸へ伸ばすと、何かを引っ張っるような仕草をした。

見えない糸を思い切り引っ張っているようだった。

ええ、なんだこいつ・・・という目で見ていた真澄に変化が起こる。

胸の奥がザワザワしてきたのだ。

それは甘かったり辛かったりしょっぱかったり、とにかく混ざった何かが胸を掻き回しているのだ。

「・・・・・・吐きそうだ」

瞬間、少年は思い切り見えない糸を引き上げた。

マグロを一本釣りした、と言われても良いぐらい豪快な仕草であった。

真澄の胸から抜け落ちたようにカランカランと音を立てて、何かが転がる。

「それってあのバケモノが食べてたやつ、だよな」

キラキラと光る3個のガラスを少年は拾い上げる。

「これは、感情石って言うんだ。感情がギュッと詰まってるんだよ。なんかフィールにとっては美味しいご飯みたいだけど」

「フィール?」

「さっきの怪物。僕たちはあいつらをフィールって呼んでる」

「あれがフィール・・・・・・そうだ、女の人がフィールに襲われてたんだよ!」

真澄は非現実な出来事に追われたせいで頭からすっぽり女性のことをが抜け落ちていた。

女性のもとに慌てて駆け寄り、声をかけるが返事はない。

女性の周りにはキラキラとガラスの破片が散らばっていた。

「早く病院に・・・・・・」

「駄目だよ」

すぅっと少年の目が細められた。

「彼女はもう空っぽだから」

「空っぽ?」

「落ちているのは感情石の破片、お姉さんの感情達なんだ。それを食べ尽くされた以上、お姉さんの中には何も残ってない」

感情による死。

常識では考えられない死を目の前にして、頭の中が真っ白になった。

「大丈夫だよ、真澄。僕たちは真澄を守る力を持っている。あんたは、特別なんだ」

少年の手元から落とされた感情石は、淡い光を強めながら落ちていく。

カランと音を立て、ゆっくりと割れ、そして・・・・・・。


「うっひゃ〜!外だ〜!ヤンバいね!テンション上がるね!ね!キヌちゃん!シグレ!」


「暑い。最悪。帰りたい。ニコうるさい」


「アキ、お前はなぜいつも後先考えずに行動するんだ」


3人、の男女が現れた。













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グラウンド・ゼロ 雪上 火色 @yukidaruma62

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