臆病な船乗り

河斬 誠

束の間の休息


 想区の外は白い霧で覆われている。

『沈黙の霧』。

 多分ここはこの霧の存在しか許されていないのだろう。

 ここには、光はなく、音もなく、匂いすらない。足が地に着いているのか不安になるほど、どこか感覚が曖昧で本当に存在しているのか疑いたくなる。

 多分ここはこの霧の存在しか許されていないのだろう。

 だけど、そんな場所をさまよっている僕たちは一体何者なんだろう。

 エクスはそんなことを考えながら、レイナが感じたというカオステラーの気配を頼りに、レイナを先頭として僕たちは次の想区へと向かっていた。


 ※


 霧が晴れ、想区にたどり着いた一行は想区の事情を把握するために、ここから一番近い村へと向かっていたが、村へ向かう道の途中に森の中で道に迷ってしまう。


「これは完全に迷いましたね。」


 シェインはそう言ってレイナに視線を送ると、危機感を感じたのかレイナは「だって~」と言い訳をし始めた。


「しょうがないじゃない、まさか迷うなんて思わなかったんだから。」

「ですが、姉御は森に入る前に、私にまかせておけばこんな森、すぐに通り抜けられる、と自信満々に息巻いていました。」

「うっ。」


 レイナの言い訳はシェインによって一蹴された。


「でも、僕らもよく周りをよく見ていればこんなことにはならなかっただろうし、今回は僕たちも悪かったんじゃないかな。」

「甘々です、新入りさん。そんなことだとまた姉御は何かしでかします。」

「オレもシェインと同意見だな。」

「うぅ~。」


 エクスの健闘むなしく、またレイナの心に致命傷を与えてしまう結果となった。そんなレイナの姿を見たタオが笑いながら、


「お嬢、これではっきりしたじぁねーか。このオレが大将にふさわしいってな。」

「あなた、何を言ってるの?」

「そりゃー勿論、このオレが大将だってことの話だろ。」

「そうじゃなくて!この状況でそんな話をするのか聞いてるのっ!」

「それに、リーダーは私よ。あなたが大将にふさわしいわけないじゃない。」

「おいおい、さっきまで迷子になっていたお嬢がよく言うじゃねーか。今回みたいにお嬢がリーダーやったら、一生想区の中で迷子になっちまうぜ、オレたち。」

「そ、そこまで重症じゃないわよ!それにロマンか何か知らないけど、すぐに脱線するあなたが大将なんかになったら、こっちの身が持たないわ。」

「言ってくれるじゃねーか。オレは売られた喧嘩は買う男。身内でも手加減はしねーぜ。」

「こっちだって望むところよ。」

「姉御もタオ兄もやめてください。それに、この騒ぎでヴィランが寄って......」

「クルル....クルルゥ....」

「きちゃったね。」

「クルル....クルゥアア!」


 ヴィランたちは叫びながらこちらへ向かってきた。


「お嬢のせいでこっちに来ちまったじゃねーか。」

「私じゃなくて、あなたのせいじゃない!」

「二人とも、今はケンカしてる場合じゃ!」

「クルルゥ....クルルル....」

「仕方ねぇな。お嬢、喧嘩はやめだ。」

「そうね。ヴィランを倒さないと。」


 二人はそう言って、『空白の書』と『導きの栞』を持って構えている。


「よっしゃー、ヴィランども。どっからでもかかってこいやーー!」

「私たちの前に現れたこと、後悔しなさい!」


『導きの栞』を使い、ヒーローの魂と接続した二人はヴィランたちと戦い始めた。


「シェイン、僕たちも。」

「やってやりましょう。」


 二人に続いて僕とシェインも『導きの栞』を使い、戦いに参加していった。


 ※


現れたヴィランたちを倒した僕たちは、出口を探して森の中をさまよっていた。


「しっかし、出口が見つからねーな。」

「深いところまで来てしまったのかしら。」


 タオの言う通りかなり歩いているけど、出口が見つからない。レイナも言っているように、森の深くまで来てしまったのだろうか。


「でも、結構歩いたからもうすぐだと思うけど。」

「そんなこと言っても、周りにあるのは木ばっかだろ。シェインは何か、発見したか?」

「.....」

「シェイン、どうしたんだ?」

「タオ兄、新入りさんの言う通りだったようです。ほら、目の前を見て下さい。」


 シェインの言う方向を見てみると少し遠いけど、確かに木々が開けている場所があった。僕は、走ってその場所に向かっていった。

 走っていると今まで森の中では感じなかった風とにおいがしてきて、

 それらは出口に近づくにつれて、段々と強くなっている。そのにおいは

 嗅いだことのあるものだったが、思い出せない。

 最初は何か分からなかったけど、森を抜けたときにその何かが分かった。


「わあ~」


 僕の目の前には、海が広がっていた。


「これは、これは。」

「磯の香りがすると思ったら、海があったなんて。」


 僕が海に見惚れていると、歩いていた三人が森を抜けて海を見ていた。


「はゃっほーー!海だ海だ、海だあああああ!!!」


 タオはそう言って、海に向かって走っていった。


「おーい、エクスー!こっちへこいよー。」

「ま、待ってよーー!」


 タオに呼ばれて僕も海に走っていった。


「この光景、前に見た気が........

 あなたたち、今は遊んでる場合じゃ....

 シェインも何か言ってあげ....シェイン?」


レイナはいなくなったシェインを探して辺りを見渡す。すると、海辺にシェインの姿があった。ここからでは何をしているのかわからないため、レイナはシェインのいる場所に近づいた。


「~~♪」

「シェイン、あなた何して....」

「あ、姉御もやりますか?結構楽しいですよ、砂遊び。」

「やらないわよ!なんでうちの連中はこんなに呑気なの~!」

「まあまあ。さっきまで森の中をさまよっていたんですし、少しぐらい羽を伸ばしてもバチは当たらないと思います。」

「まあ、そうかもしれないけど....

でも、本当に少しだけよ。」


少しの間、一行は海遊びに夢中になってなっていた。


「ん、あれは。」


ましてや、一行を見ている者がいることに気が付く訳がない。



「おーい。お前さんたち―。」

「ん、あれは。姉御、あれを見てください。」

「砂遊びって結構楽しいわね♪あ、シェイン見て。これ、今までで一番の出来よ。」

「姉御、砂遊びはもういいので、あれを見てください。」

「もう、何?一体、どうしたの?え、あれは、人?」

「そのようですね。こっちに向かってきます。」

「本当ね。おーい、二人とも。こっちに来てー!」


レイナが叫ぶとエクスとタオがやって来た。それと同時にレイナとシェインに向かって叫んでいた、男性もやって来た。


「どうしたんだ、お嬢?....というか、そいつは誰だ?」

「私に聞かれたって困るわよ。」

「オレはこの海の近くの町に住んでいる者だ。それより、お前さんたちはなにをしてたんだ?」

「なんでって、そりゃー海で遊んでいるんだろ。」

「そんなこと、見たらわかる。オレが聞きたいのは、なんで海にいるのかを聞いている。」

「そりゃー海を見たら、誰だって血が騒ぐというか何かこうくるものが....」

「タオ兄は少し黙っててください。訳ありのようですが、海に何か問題があるんですか?」

「問題って、お前さんたち知らないのか?最近、海賊が出るようになったんだ。」

「海賊ですか?さっきからここにいますが、海賊なんて見てませんね。」

「そうね。私もさっきから砂しか見てな....」

「姉御も黙ってください。話が進みません。それで、海賊というのは....」

「クルル....クルルゥ...」


シェインが町人に話を聞こうとすると、海の方からヴィランが現れる。


「で、出たー!かかか、海賊だー!」


町人はそう言いながら、ヴィランから遠く離れた岩場に隠れてしまった。


「海賊ってのは、ヴィランのことかよ!」

「みんな、戦闘の準備を!」

「うん、わかった。」


束の間の休息をした僕たちは、ヒーローの魂と接続すると再びヴィランとの戦いに身を投じた。

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