変な奴


春希と夏夜を見送った俺は、一人立ち尽くしていた。


…すると。


「無理しねぇで泣けば良いのに」


「…っ!?」


突然知らない人に声をかけられた。


えっ…人、いたの…?


「俺だったらお前を傷付けたりなんかしねぇけど」


「…誰?」


「俺は南、南冬悟。冬悟で良い、秋兎」


馴れ馴れしく名前を呼ぶその人。


何で話した事もない、見ず知らずの人間が、人の心の中に土足で踏み込んで来るの。


なんか嫌だな…


「みな…」


「冬悟」


「…冬、悟。…どうして俺の名前…」


「そんな嫌そうな顔すんなよ」


「え…?」


俺、顔に出てた…?


そこまで余裕なかったのかな…?


「お前の事なら何でも知ってるぜ?」


…言ってる意味が理解出来ない。


「なに…」


「西原秋兎。2年A組。身長163㎝。容姿端麗。成績優秀。運動神経中の上。品行方正で教師にも生徒にも人気あり」


ペラペラと話し出す相手に頭が付いていけないでいる。


それでもその人…冬悟は止まらない。


「…そんで、恋人は幼なじみの東夏夜。あ、元か。ソイツの今の恋人は同じく幼なじみの北宮春希。お前はたった今フラれて傷心中。図星、だろ?」


「なっ…!?」


何なのこの人!!


俺の何もかも見透かしたように…!


「た…他人の、あなた…冬悟に、俺の何がっ…」


「分かるよ」


「な、に…」


冬悟は、頭に血が上ってまくし立てようとする俺を遮って即答するから。


俺は黙ってしまった。


「…見てたから」


へ…?


「ずっと、秋兎の事見てた」


見てたって…俺を?


…ずっと?


「う、そだ…っ」


「かもな」


は…!?


ふざけてるの…!?


俺をからかって楽しい?


「っ!いい加減にっ…!」


「はなっからそうやって素直に感情出せば良いのに」


「…っ!?」


「ムカつくんだったら怒れよ、泣きたいんだったら泣けよ。その不器用な性格直せば楽になるぜ?」


「…え」


もしかして、俺を怒らせる為にわざと…?


「まぁ、俺ならお前を変えれる自信あっけどよ」


…どこからそんな自信が湧いて来るのか、冬悟はシレッと言う。


「根拠、は…?」


「ねぇ」


…はっきり言った。


飽きれ通り越していっそ清々しいよ、その性格。


「良いか秋兎、俺はいつか必ず秋兎の全てを奪うから覚悟しとけ!」


何急に…


俺の全てを奪う?


どこまで俺様…


「…絶対無理」


「でも秋兎、今俺の事でアイツらの存在忘れてたろ?」


「…!!」


「ほらな?なんか少しスッキリした顔してるし、俺は行くわ」


ニッと笑い、背を向ける冬悟。


しかし振り返って俺の名前を呼ぶ。


「…あ。秋兎!」


「…?」


首を傾げる俺に一言。


「俺はお前の泣き顔も悪くないと思うぜ。そんだけ、んじゃな」


「……」


そう言って冬悟は歩き出す。


冬悟が去った後も、暫くの間俺はその残像を追っていた。


急に現れたと思ったら、ズケズケと言いたい放題言った挙げ句、俺の全てを奪うとか勝手に決めて、何事もなかったかのようにさっさと姿を消した失礼な人間。


…でも、確かにあの人の言う通り…


一緒にいてくれた少しの時間…


俺は春希と夏夜の事が頭になかったのは確か。


口は悪いけど、なんだかんだ俺の為に悪役になってくれた。


…不器用ながら励ましてくれたのかな?


ー俺はお前の泣き顔も悪くないと思うぜー


『南冬悟』…か。


「…変な人」


そう口にしてふっ、と笑った。


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切ない恋の行方は… 萱草真詩雫 @soya

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