3人の関係
「…なーつやーぁ!」
小柄な身体のその子は、俺達…いや、俺の隣にいる夏夜に向かって小さな手を一生懸命大きく振り、こちらへ駆け寄ってくる。
「春希」
「…春」
「あれ、秋兎?2人でお話してたの?」
俺の存在に気付いた春希は、俺と夏夜を交互に見つめた。
「春希、その…」
「春、何でもないよ。帰るんでしょ?…夏、付き合わせてごめんね」
「いや…」
自分の感情を押し殺し、努めていつも通りに振る舞う。
胸が張り裂けそうなくらい辛いハズなのに…
案外平静を装えるんだ、俺…
「…そう?夏夜、帰ろ!」
「あぁ」
大して気にしてない様子の春希は、笑顔で言う。
夏夜も微笑んで頷いた。
…俺にはあんな顔見せた事ないのに。
何だろう…凄く居づらい雰囲気…
「秋兎も一緒に帰ろっ?」
2人のやり取りに複雑な想いでいると、春希が無邪気に笑って言った。
そうだよね、春希は俺と夏夜が付き合ってた事知らないもんね。
「や…俺、ちょっと忘れ物して…2人共、先帰って?」
俺は嘘を吐いた。
ホントは忘れ物なんてしてない。
早く2人から離れたくて…
早くこの場所から逃げ出したくて…
…どうしようもなく、泣きたくて堪らなかったから。
だから、嘘を吐いたんだ。
そんな俺の嘘を信じた2人は。
「そうなの?それなら仕方ないね…夏夜、行こっか!秋兎、じゃあねっ!」
「秋兎…また明日」
「…うん。春、夏、またね」
『また』かぁ…
正直明日会うの、キツいなぁ…
でも同じ学校だし、元々俺達3人幼稚園からの幼なじみ。
家も近所だから会う確率は高い。
それに春希と夏夜は恋人で。
所詮俺と夏夜は偽物の元恋人だから。
本物とじゃこんなにも差があるんだね…
…夏夜、本当に嬉しそうだったなぁ…
そりゃ幸せだよね、想いが通じたんだから。
俺は…もう一生叶う事もないけど。
胸がズキズキと痛む。
「…バカみたい、俺…」
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