冴えてる危機の脱し方

犬山猫太

冴えない危機の脱し方

 「加藤!ついにお前がフィギュアになるぞ!!」

 

 俺達の初めての激動のゲーム制作は無事に終わり、いろいろと月日は流れて俺達の作品は各所で評判を呼び大ヒットとなった。

 

 そして明くる日の俺の部屋。部屋には加藤と俺が二人きり。詩羽先輩と英梨々はそれぞれ他の原稿で忙しいみたいなので今回のサークル活動は二人だけだ。

 

 女の子と部屋で二人きりなんてもはやこのサークルにおいて、日常茶飯事なので今更ムフフなイベントなんて期待してないが…いや、あったかもしれないが!!

 

 「フィギュア?」

 俺のベッドの横にちょこんと座っている加藤がいつものフラットな感じでそう返した。

 

 「そうだ!しかもただのフィギュアではなああああい!聞いて驚け!なんと等身大だぞ等身大!」

 

 「え!?等身大!?それはすごいねー」

 流石の加藤もこれには驚いたようだいつものフラットから1.3倍はキャラが立っているように見える。

 

 「でも私はやだなー息できないし」

 

 「ん?何を言っているんだ加藤?」

 

 「だってフィギュアでしょ?私の全身に石膏?とかを塗って形を取るんでしょう?」

 

 「どんな特殊性癖だよ!?!?」

 「一応言っておくが正確には、お前じゃなくて巡璃だからな!」

 

 「だよねー」

 

 どうやら加藤には前時代的な誤った知識があるようだ…

ここは俺がしっかり教えてやねば!

 

「いいか加藤!そんな一部の人が喜びそうなやり方は今はやらん!まずフィギュアの元となるイラストから3Dモデルを作製してそこからパーツごとに3Dプリンタで出力し組み立てて行くんだ!どうだすごいだろ!」

 

「なんで安芸くんが偉そうなのかは置いといて確かに未来の技術って感じがしてすごいね」

加藤の余計な一言は置いといてこれで理解してもらえたようでよかった。加藤の言ってた方法だと色々と薄い本のネタになりかねんからな某金髪ツインテール同人作家さえも手を出さないジャンルの…

 

「今の技術の凄さをわかってくれてなによりだ。そういうことでそのフィギュアのお披露目会を来月、秋葉で行うことに決まったからその当日の準備をサークルの代表の俺と後お前でやるのが次の活動となる」

 

「あーなるほどねー大変そうだけど暇だし大丈夫だよ」

 

 さすが加藤だ物分りが早くて助かる。イベント当日は他にもお手伝いさんがいるが人では多いに越したことがない。決して初めてのことだから側にに加藤を置いて安心したいワケじゃないんだからね!

 

「じゃあそういうわけでよろしくな加藤。他のスタッフさんが前日に準備してくれているから実際は俺たちはサークルの代表として不備がないか見まわるだけだから安心しろ」

「うん、なら安心だね。…あっ!今日は家の用事があるからそろそろ帰らなくちゃ」

 

「おっそうなのかじゃあ当日はよろしく頼むな!」

 そして俺は加藤に詳しい日時などの詳細を教えて玄関まで見送りに行った。

 

「成功するといいねイベント」

 玄関先まで送った矢先、加藤がそういった

 

「ああ!成功するさ!」

 ここは無駄に不安を煽ること無く男らしく言った。

 そして加藤は夕日を背に少し嬉しそうに、だが少しフラットに帰っていった。

 

 

 

 

  そしてイベント当日、俺達は開場前の朝早くから現場に来ていた。

 

「いよいよだな加藤!」

 

「そうだね、可愛く出来てるといいなー」

 

 前日にスタッフの人たちが準備をしてくれていたので、俺達はそれがちゃんと出来ているか見守るだけだ。

 「装飾やグッズの品揃えはよし!後は例のフィギュアが届くだけだな」


 「開場前なのにもう結構人が並んでるね」


 この日を目当てにすでに会場前に人が並び始めている。

 これだけの人が集まるとは流石に予想できなかったが、これまでの苦労を考えると色々と感慨深い。


 「なんか安芸くんみたいなのが、いっぱい居てちょっとアレだね」 


 「アレとか言うなよ!今お前は全国のオタクをさらっと傷つけたぞ!」

 

 加藤のいつもの毒舌に涙を流して訴えていると、会場のシャッターが開いた。あと一時間ほどで扉も開きいよいよイベントだ。

 

 「でも、嬉しいな私達のゲームがここに並んでる人全員がプレイしてくれたと思うと。」

 

 「そうだな…」

 

 ここにはいないが一番の功労者である英梨々と詩羽先輩、この最強の二人がいなかったら俺達の最強のギャルゲーは完成しなかった。

 そして加藤、お前があの時あの場所であそこにいなかったら俺がサークルを作ることはなかった。

 加藤を胸がキュンキュンするようなヒロインに出来たかはわからないが、間違いなくお前の存在は必要不可欠だった。


 「大変です!」

 俺と加藤が物思いにふけってると、スタッフの一人が慌ててこちらに駆け寄ってきた。


 「どうしたんだ?」

 スタッフはすごい汗だくてただ事では無いことがひと目でわかる。


 「フィギュアがまだ届かないんです!」


 「な、なんだってー!?!?」


 スタッフの話を聞くと、どうやらフィギュアを運んでいるトラックが高速道路で事故に巻き込まれて足止めを食らっているらしい。

 幸いフィギュア本体は無事らしいが、こちらに届くまであと2時間くらいかかるらしい。


 「クソっ!ここまで来たのにどうしたらいいんだ…」

 

 「安芸くん‥」


 俺は頭が真っ白になっていた。

 あのフィギュアはサークルの集大成でありそれがないとこのイベントの意味がなくなり、ここに来てくれた人達の期待を裏切ってしまう。


 「何か…何か…解決方法は…」

 あのフィギュアはとても出来がよくて、何処をどう見ても巡璃そのものであり、加藤そのものでもあった。


 「ん?加藤そのもの…?そうだ!」


 「何か方法が見つかったの安芸くん!」


 この状況を打破するにはもうこの方法しかない!

 俺は加藤を見つめ叫んだ。

 

 「お前がフィギュアになるんだよ!!」

 

 「???」

 

 加藤は俺が何を言っているか理解してないようだ。


 「いいか加藤、フィギュアが届くまでお前がケースの中に入りフィギュアの代わりになるんだ!」


 「えー!そんなの無理だよー!」

 流石の加藤もこの提案には驚きを隠せないでいるようだ。

 

 「大丈夫だ!幸いここには巡璃の衣装もある!客との距離も十分にあってバレる心配はない!」


 「いや問題はそこじゃない気が…」


 「頼む加藤!もうこの方法しかないんだ!」

 俺は渾身の土下座を加藤に決めて頼み込んだ


 「もーしょうがないなーサークルのためだもんね」


 「加藤ー…」

 

 さすが加藤ちょろ…いや頼りになる!


 「そうと決まれば早速着替えだ!」


 俺は加藤に用意した衣装を渡して更衣室に押し込んだ。

 早くしてくれ加藤もう時間がないぞ。

 そしてしばらくして加藤が出てきたが、それをみた俺は焦る気持ちが一瞬で吹き飛んでしまった。


 「どうかな?ちょうどいいかな安芸くん?」


 そこにいたのは紛れもない巡璃であった。

 英梨々か命を削って描き上げた巡璃、それが今ここにいる。

 いつもの加藤も私服は女の子らしく可愛らしいものだったが、これはそれとは違う雰囲気がでていた。

 正直に一言で表すと、

 「可愛い…」

 

 「えっちょっと安芸くん何言ってるの!?」


 加藤が頬を赤らめてそういった。一瞬、何を言ってるかわからなかったが思わず口に出してしまっていたようだ。

 それを意識したらこっちも顔が熱くなってしまった。


 「え、えっととりあえずもう後10分しかない!とりあえずこのインカムを渡しておく。」

 気まずい空気を無理やり払って加藤にインカムを渡してショーケースに案内した。

 

 「イベントが始まったら取り敢えずポーズを決めて動かないでくれ、本物のフィギュアが届くまで一時間以上ある、それまでが勝負だ!」

 

 「今思ったけど開場の時間を少し遅らせればよかったんじゃないかな?一時間くらいなら大丈夫じゃない?」


 「何を言う加藤!これだけのファンの人たちを待たせるわけにはいかないだろ!オタクは気が短いんだぞ!」


 「なんだかなー」

 

 納得してないようだがオタクはマジで面倒くさい自分で言うのも何だが。

 

 「さあ、もう開場だその小型インカムから全力でバックアップしていくし予定いしていたショーケースとお客の位置より遠くにしてあるから安心しろ」


 「大丈夫かな−」


 そして開場時間となり俺は加藤をショーケースに入れ近くで待機した。

 始まって直ぐに大量のお客がなだれ込んできた。

 お客たちは真っ直ぐにこちらの方へなだれ込んできた。


 「安芸くん!ちょっと人多すぎない!?これじゃあバレちゃうよ!」


 「大丈夫だ加藤、俺がお客をしっかり見張ってるから安心しろ後表情硬いぞ」

 「無理だよー」


 「しっ!近づいてきたぞここからはお前はもう喋らずに俺の指示だけ聞いとけ」


 なだれ込んできたお客たちは直ぐに写真を取り始めた。

 しかし一部の人達がローアングルから撮影しようとしている。


 加藤が顔をさっきよりも赤らめながら視線だけをこっちに移してきた。


 「加藤ダメだこっちを見るな!バレるだろ!大丈夫だなんとかする」


 俺はお客に慌てて注意した。

 

 「お客様−!!ローアングルでの撮影はご遠慮おねがしますーーーー!!」


 さすがのローアングラーも羞恥心があるのか突っかかってこなかったので助かった…


 そして更にフィギュアからの意識をそらすため俺は秘策を取り出した。


 「今から!柏木エリ描き下ろしの等身大パネルの抽選会を行います!!!」

 そう俺が大声を上げるとお客たちは一斉にこちら方へなだれ込んできて、加藤の方への意識をそらした。

 ホントは予定がなかったがこのイベントのために英梨々が描き下ろして来たものだありがたく使わせてもらうぜ英梨々。


 そしてこの場を他のスタッフに任せて俺はショーケースの加藤の方へ向かった。

 さすがに何人かお客が残っていたがさっきよりはマシになっていた。

 

 しかし駆けつけるやいなや何か加藤の方がおかしい

 汗が多く出ているような、幸いお客にの方は遠いので近くにいる俺にしかわからないが。


 「どうした加藤!トイレか?」

 っと気を紛らわすために冗談を言ってみたが。

 

 「‥‥っっ‥」

 

 「まさか…本当に‥…??」

 ヤバイこれは明らかに予想してない事態だ…!。

 

 「フィギュアの方もう10分ほどで来るみたいです!」


 その時スタッフの方からありがたい言葉を頂いた。

 インカムを等して聞いている加藤も何処か嬉しそうに見える。

 

 「頑張れ加藤あともう少しだ!少しくらい漏れても大丈夫だ耐えてくれ!!」


 しかし加藤の震えは次第に増えてきた…


 「何かさっきから巡璃揺れてね?」


 そんな言葉がお客から聞こえて来た。


 「クソッ!そろそろ限界か!まだ届かないのかフィギュアは!!」

 焦りと苛立ちと加藤への申し訳無さが俺を襲う。

 サークル代表として失格だ…初めてのイベントでこんな失態をやらかすとは、万が一のことも考えておくべきだった。


 加藤の目に涙が溜まってきている震えも増えて尿意が限界寸前なのが俺にもわかってしまう。


 しかしその時スタッフが駆けつけてきて

 「フィギュア届きました!!」

 っと天にも登るような事を伝えてきてくれた。


 そしてすかさず俺は、ダッシュで現物を取りに行った。

 実際の等身大巡璃フィギュアはやはり加藤に似ていてとても可愛かった。

 などと感傷に浸っている時間はなくスタッフと一緒に運ぶのを手伝った。


 そしてショーケースの中の照明を落とし、照明の交換と言い謝りながら周りにカーテンを敷きお客から見えないようにして

加藤と巡璃を交換した。


 「加藤大丈夫か!!」


 「っ‥…!」


 加藤はものすごい汗を流しながら俺の呼びかけもいざ知らず、直ぐにトイレのある方へ向かった。


 そして俺は本物の巡璃をセッティングしお客に披露した


 「お待たせしましたー申し訳ありません照明の交換修了しましたー」


 幸いお客は抽選会の方に集中していたので入れ替わった事に気づいた人はいなかった。



 そして山場を越えた俺は加藤の様子を見に行った。

 「加藤大丈夫だったか?お前のお陰で何とかなったぞ!」

 加藤はスタッフルームで燃え尽きたように座り込んでいた。


 「いやー他の方法もあったと思うけど、あの状況じゃ他に思いつかなくてなー」


 「………」


 「まさかトイレを我慢しているんてなーハハハ」


 「………」


 加藤はまだ震えている。

 しかしこの震えはトイレを我慢しているものでは当然無く。


 「安芸くんのバカああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 「ぶほオォ!!」

 

 思いっきり殴られた。

 それは怒りに震えているものだった…。


 「加藤、今日のお前は暴力系おもらしヒロインで何倍もキャラが立っているぞ…!」


 「漏らしてない!!!」

 バシン!!


 もう一度殴られた。


 


 イベントは無事成功を収めたものの、加藤はいつぞやの時と同じようにしばらく口を聞いてくれなかった。

 

 

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