ひとりぼっちのきいろいピエタ

雨昇千晴

ひとりぼっちのきいろいピエタ

 そのくにでは、ウサギのからだは白く、みみは紅いものでした。

 からだがいかにかたくひきしまり、みみがいかにつややかで、ピンとさきまでするどいか、それがウサギたちのうつくしさでありじまんなのでした。


「まあおくさま、きょうもよいおみみで」

「うふふ、はやりのおみせできっていただきましたの」

「それはすばらしゅうございます」


 そんなくにで、ピエタというこはなぜか、きいろいみみでうまれました。

 からだはあせっかきであおじろい。みみのさきはもろもろとくずれてしまう。なによりそのみみがきいろいピエタは、まわりからいじめられてばかりでした。


「うわ、だっせぇ!」

「だっせぇきいろ! そんざいすんじゃねーよ!」

「やめなさい! ピエタだってりっぱにリンゴ族ですよ!」


 ピエタはいじめられることそのものもつらかったのです。

 しかしそれとおなじくらい、おとなのことばもつらいものでした。

 ピエタはリンゴ族ではないと、じぶんでしっていたからです。


 すうねんまえ、はかばのすみでひろわれたのが、ピエタでした。

 そのときはまだちいさすぎて、みみのいろもわかりませんでした。

 ところがすこしおおきくなって、ピエタのみみのいろがきいろだとわかると、おとなはふたつにわかれました。


 こどもにまざって、わるくちをぽんぽんなげてくるおとなと。

 ピエタはリンゴ族だと、なんどもいいきかせてくるおとなに。


 そのひも、いつものようにあさからいじめられ、おとなにいいきかされてゆうがたになりました。

 さいごにとどめのようにどろみずをかぶせられ、ピエタはくちのなかのすなをはきながら、とぼとぼとひとりあるきます。


「まあ、どうしたの」


 ひめいのようなその声を、ピエタはさいしょ、じぶんにむけたものだときづきませんでした。

 ピエタがかおをあげると、そこにはあたらしい図書館のせんせいと、そのおくさんがいたのでした。

 ひっこしてきたばかりだったので、ピエタのことを――そのあつかいを――まったくしらなかったのです。


 ピエタはあたたかいおふろにいれられ、いいにおいのするせっけんをおしつけられて、すっかりもとのきいろいみみにもどりました。

 せんせいもそのおくさんも、じつにひきしまった白いからだと、つややかな紅いみみをもっていたので、ピエタはせんせいのふくをかりているのが、とてもいたたまれないきもちでした。


「きなさい」


 せんせいがピエタをてまねきました。


「あなたはナシ族みたいにきれいなみみをしているのね」


 あまいおちゃをだしてくれたおくさん――シエナさんがそういいました。


「むかしむかし、ホウスイというくにから、このくににやってきたウサギたちがいるの。かれらはナシ族をなのり、いにしえのおうさまに、たくさんのたからをもたらしたというわ」


 リンゴ族のほかにもウサギがいる。

 ピエタにとって、それはたいへんにおどろくことでした。


「しらなかった?」


 たのしそうなシエナさんに、ピエタはちいさくうなずきました。


「わたしたちは、このくにしかしらないウサギのこたちに知識をとどけにきたの。ナシ族のこともそのひとつ」


 知識はちからなのだとシエナさんはいいました。

 どんなにやさしいウサギでも、ただしらないというだけで、すれちがったりこばんだり、まちがったことをしてしまう。

 それはとてもかなしいことなのだと。


「学ぶことで、せかいはうんとひろくなるのよ」


 ピエタはせかいということばも、とかいというばしょもしりませんでした。

 このくにのそとにはもっといろいろなくにがあり、そこではリンゴ族もナシ族も、ほかのさまざまな一族もたくさんいるのだと、シエナさんは本をひろげおしえてくれました。


「ゆうはんのじかんだ」


 とうとつに、図書館のせんせいがおもおもしくつげました。いつのまにか、あたりはまっくらになっています。


「まあ、たいへん。すぐにしたくをしなくっちゃ」

「さらを3まいよういしなさい。したくはわたしがする」

「あの、ぼくは」


 ピエタはすぐかえるとつげようとしましたが、そのまえにせんせいがいいました。


「友人をひきとめて食卓にまねかぬなど、われわれのさほうにはんする」

「そうよ、たべていらっしゃい。これも学びのうちだもの」


 ピエタはこえにつまり、ほろほろとおおつぶのなみだをこぼしました。


 ***


 ずっとあとで、ピエタはせんせいとシエナさんにききました。

 どろだらけのみしらぬこどもに、どうしてしんせつにしてくれたのかと。

 すると、おおきくわらってこうかえされたのです。

「ほんとうの友達は、ひとりぼっちのときこそであうものだ」

 と。

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ひとりぼっちのきいろいピエタ 雨昇千晴 @chihare

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