運命を切り裂く .3 - 本物の狂気 -

己刀流。

武術というのは本質的には敵を殺し自分が生き残るためのものだ。

それを易易やすやすくつがえした狂気の沙汰が己刀流だった。


そもそもおかしい。

なぜ発生した運動エネルギーを伝えるのではなく、溜め込もうとしたのか。

ただ敵を滅することだけに、専鋭せんえいした結果自らの命を懸けた技の数々が生まれるなどとは誰が想像しただろうか。

カウンターですら無い。心を貫かれても喉笛を噛み千切るような殺意の塊。

そこに自己の命の保証など無い。


だがそれゆえに強い。

死兵と言うものを技術化したような尋常ならざる闘志を要求する力。

純粋すぎるまでの暴力の体現がそこにあった。


自分で作っておきながらあいつはそれをロクに扱えなかったが、俺はそのほとんどをはるか昔に似たモノを見た気がするという感覚だけを頼りに習得した。

撫でるような指先の接触一つで、大岩が爆ぜ飛ぶような既知外の技術に、また一つ俺の記録が役に立たなくなったことを理解した。

魔法のないこの世界で、魔法に迫る威力の攻撃を一個人が発揮する。

それはあまりにもこの世界では異質なことだった。


言ってしまえば放射能の心配がなければ核爆発ですらなす事ができるだろう。そういう技術なのだ、これは。


まさに狂気。

まともな人間の考えつくような武技ではない。

この時から感じていた小さな違和感がやがて世界を尽く変えようなどとは、長く存在してきた俺にすら想像できないことだった。

この違和感を真剣に受けて止めていれば、セカンドの言った「可能性」という言葉の意味を正しく理解することが出来ていなかったのを後悔することも、もしかしたら無かったのかもしれないのだ。


俺はこの時あいつが運命を打ち破る力を得たと思っていた。

執拗に降りかかる悲劇を乗り越えるための力を得たと。そう思っていた。





だが、世界はあいつの幸福を決して許しはしなかった。

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OverBlood-Archives 橘月くいな @ryuuto_dainsref

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