透明

 私は本当は横浜が好きなのです。私が生まれた街なのですから。産んでくれた両親にも、今まで出会った人たちにも、感謝しているのです。私が一人で生きられなかった頃、手を差し伸べてくれました。私が育めない命を屠るために、自らの手を汚してくれました。私は生きている、殺すために生きている。同時に殺されると思って生きている。私だけ殺して殺されるのがイヤだなんて言えますか? ただ思うのです。私がゴミだめで死のうと、自ら命を終わらせることは決してないと。

 Gの部屋の中。彼らが咥えているパイプや煙は何一つ象徴しない微睡まどろみだ。猫のスマートフォンから続きを読んだ。

 ねむい。きらきらする。白く張った煙の向こうにきらきら輝く何かが、螺鈿らでん細工のように透けて煌めいているのを苺は見た。


 オーナーが好きだったのが永遠トワ——。寝返ったのが猫——。螺鈿は白い煙から伸びて、深々と苺の喉を突き刺した。煌めくそれは鋭いナイフだった。ああまた眠っていた。よく見る夢を見ていた。あたしが販売員で、猫が販売員で。愛して止まない横浜に、互いの家族を持ち暮らしていた。そんな夢。猫もキノコにあたらなかった。猫と同じ食事を食べて生きていた。猫が書いた小説。ショップの什器に並ぶ服。いくつもの場面が去来し暗闇の中に消えた。



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猫と苺 𝚊𝚒𝚗𝚊 @aina

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