第3章:名古屋クライシス

第16話 ある名古屋での騒動

名古屋県庁のある一室で竜宮寺(りゅうぐうじ) 宗久(むねひさ)主幹が来たるべき名古屋サミット開催での警備で担当者と打ち合わせをしていた。スーツ姿の大人たちの中にポワーンとした雰囲気の良子が混じっていた。


良子はPCを前にして様々なプロテクトのプログラムを構築していた。様々なOSに対応できる、ワザと緩いファイアウォールを作り、空の逆止弁付きの様な閉じ込めるサーバーを用意したり・・・ともかくも多くの想定できる事態にも対応できる対サイバーテロ仕様の対策を公安と共に協力して組んでいた。


これも御手洗の推薦が有って、彼女が了承したことだった。良子は二つ返事で決めた。既に危険は今でも御手洗の仕事を協力している上でどうでも良い話だった。それにこの仕事であのウィザードに少しでも近づければという気持ちもあった。


良子が一つ区切りを付けると「ふう」とため息を付いた。すると後ろより宗久が良子の目の前にショートケーキを乗せたお皿を差し出してきた。


「良子くん、済まないな。甘いものは頭に良いらしい」


「わ。いいのですか~」


宗久は頷くと良子はお皿を受け取りパクパクと食べ始めた。


「こちらが用意したプランはあとどれぐらいで行けるかね?」


そう宗久が尋ねると、良子は隣に座っている飯倉に話し掛けた。


「ねえ~祥子さん。どうですか~」


アップに上げた髪と近視用の女史みたいな眼鏡を掛けた飯倉は宗久に語り掛けた。


「そうですね、今日中には。それと私にも何かいただけないのかしら?」


宗久は懐よりサッとシャンパンを差し出した。まるでマジシャンの様だった。


「君はこれが良いだろう」


飯倉はニコッと微笑んだ。


「あら、私の好みをご存じで・・・」


「御手洗君から聞いているよ。監督者は選手の事を逐次知らなければな」


宗久は飯倉と同じくニンマリとした。その時部屋の扉から御手洗が入って来た。


「竜宮寺主幹。この名古屋の荒くれどもの相関図です」


御手洗は宗久に資料を渡した。宗久はそれを眺めた。


「ふむ。名古屋の歓楽街は立花一家が収めてて、空港ら玄関口は広域系の高橋組傘下の山一組が占めているのね」


「そうですね。主幹は彼らが何かすると予想しているのですか?」


御手洗の質問に宗久は当人を一目見てはまた資料に視線を落とす。


「君らの専門の、<レアリスト>。アレを一部民間に情報が漏れた。というよりも彼らが生きる術で自身の力量をその手の組織へ身売りし始めているらしい」


御手洗はついにその時が来たと思った。彼ら被験者が生きる上では用心棒家業をするものも出てくるだろうとは公安本部も想定していた。宗久は続けて話す。


「彼らの異様さを受け入れがたい人物がいるのでそこからリークが有ったのさ。普通の人から見れば異常だからな。気持ち悪がるものもいるだろう」


御手洗は節目がちで「そうですね」と同意した。彼もまた被験者で彼らと同類であるからだ。

宗久の話より御手洗は要旨を述べた。


「要するにリーク元が指定暴力団ということ。サミットの主旨のひとつであるテロへの戦いに対して、彼らの抵抗の可能性があること。ということですか?」


宗久は指を鳴らして御手洗の言を肯定した。


「その通り。世界から要人が集まる機会に世界のテロリストらがテロを起こしかねない。どのサミットでもその対策に追われる。官民一体でそれを阻止、抑止せねばならない。その為にはアンダーグラウンドな組織にも協力を仰いでまでもやり遂げるというのが官邸からの要望でもある」


御手洗は大人の事情というものと考え、そのまま飲み込んだ。この世に正義など存在しない。今平和に暮らす人たちが何事もなく人生を全うできるならば、衆愚だろうが良い世界だと世間のひとは感じているだろうと、そう御手洗は思っていた。



ミッドランドスクエア(Midland Square)は、愛知県名古屋市中村区名駅にある超高層ビル。

屋外型展望施設「スカイプロムナード」があり、44Fは220m、最高階(46F)のデッキの高さは約230mである。


そんなスカイプロムナードには、夜になると夜景を楽しむカップルたちにほぼほぼ占拠されている。

こんな中に入り込む単身者はその環境にバツの悪さを感じて退散してしまうだろう。


その階下の部分では、高級層の買い物客目当てのメーカーショップが連なっていた。


瑠美、皐、良子はそのミッドランドスクエアでウィンドウショッピングをしていた。


学園は冬休みに入り、3人共別々の用事で年明けより活動していた。


瑠美はイルミナリティ名古屋支部の立ち上げでの榊の随行員で大須に来ていた。ある程度視察に目星が付いた所で榊より「自由行動にしよう。夜になったらホテルに戻ってくるように」と告げられたので、大須のカルチャーを散策していた。


皐は財部流の分家道場が大須の近くに構えていたので、そこへ年始の挨拶周りとして名古屋を訪れていた。その合間に大須観音に立ち寄った時、偶然にも瑠美と出くわした。


丁度お昼時間近もあり、瑠美と皐は栄の方でランチにしようかと思い、前須通りを栄方面へ歩いていた時に矢場町の矢場とんの所でバッタリ良子と遭遇した。


「あれ?なんでお良が」


「そんなのこちらのセリフだよ~瑠美?」


皐が良子に尋ねると、近日中に「名古屋サミット」が行われるとのことで、セキュリティ警備のため良子にも白羽の矢が立ったそうだった。


そしてお昼時と言うことで、良子は矢場とんを食べに本店に向かっている最中だった。


「私ね~、トンカツが~好きなの~」


「へえ~、それも美味しそうねえ」


「では、私らもトンカツにしようか」


そう言う流れで矢場とんを食べることになった。

お店に入ると、トンカツの良いにおいに3人は空腹中枢を刺激された。


「早く食べたい!」


3人が頼んだものはローストンカツ定食。上には名古屋ならでは味噌が掛かっている。

この味噌は見た目の濃さで余りにしょっぱいかと思いきや、物凄く甘みが先行していて、

塩味の方がまるで感じられない味。


3人とも舌鼓を打ち、すべて完食したのであった。


「ぷは~。もうお腹一杯だ~」


瑠美が満足そうに答えると、皐も頷いた。


「私も名古屋を訪れる度に、名古屋メシに魅了される」


「う~ん。名古屋に来ると、体重を気にしてしまうよ~」


「それはお良が日頃の鍛錬が不足しているからだ」


「ふえ~い。あたしはどうせ日蔭ものですよ~」


皐の指摘に良子は口を膨らました。瑠美はそれを見て笑っていた。


その後、栄の方に向かって、オアシス21や三越、地下街などを散策した。


随分昔にCOP10が行われた名古屋。その評価が有り、セントレア空港などインフラも充実したことも有って、近日中に行われるサミットを名古屋で開催することが決まっていた。


街としてもこのイベントの無事と成功の為に、街の至る所にサミットの広告が掲げられて、主要な場所には警備員や警察が増員されていた。


遠いシリアなどの話がいつ日本に波及するかは不明なため、いざという時の為でもあった。


オアシス21はそんなサミットの宣伝の為の旗が至る所に飾られては風になびいていた。

今日は風がそこそこ強かった。


歓迎ムードの中には不安も有り、サミット開催反対など運動する人たちも居ては署名運動に勤しんでいた。中には瑠美たちと同様に女子高生も混じっている。


「名古屋でサミットはテロの標的と為り得る恐れがあります。皆で反対しましょう」

「テロの脅威に政府は無力です。世界の都市が現に被害に遭っています」


などなど・・・。


瑠美らはその傍を横切る時にある女子高生からビラを渡された。


「はい!みんなも協力よろしくね!」


「え・・・はい」


「同い年ぐらいだね。どこの高校?」


その女子高生の積極さに瑠美はたじろいだ。それを見かねた皐が代わりに答えた。


「済まない。私らは東京のものだ」


「な~んだ。でもサミットは日本の関心事だからね。よろしく!」


すると離れていたその女子高生と制服を着た女子高生が彼女を呼んでいた。


「白崎さ~ん!組合長が場所を移すって!」


すると白崎と呼ばれた女子高生がその呼びかけた女子高生に返事をした。


「わかったよ~茜ちゃ~ん。ってことでまた会えたらお会いしましょう!」


そう言ってデモをしている団体はぞろぞろと地下道を駅の方へ向かって消えていった。


日常と違う情景は3人には見慣れたものだった。周囲の人たちはそうではなかった。

「何なのよ、せっかくの楽しいショッピングが見張られてて気分悪いわ」や

「う~ん、ちょっと落ち着かないね。まあサミットだから仕方ない」、

「最近世界でテロなど騒がれているのにわざわざ名古屋でこんな危険な事しなくても・・・」

様々な意見が瑠美たちが街歩く中で聞こえてきた話だった。


「敏感だね」


瑠美がボソッと呟く。良子が「うん」と頷く。皐も補足して2人に話した。


「遠いシリアにしても、対岸の火事と思えど、いざメディアに脅されると警戒心を焚き付けてしまうのだろう」


「そうだね~。私も~内閣の対策室より~、オーダーが入ったからね~。緊張感半端ないよ~」


「お良は当事者だからね~。日本を守ってね」


「もー、瑠美は~全く持って他人事の様な言い方で~」


「ハハハ」


「笑わないで~。こうなったら~瑠美を一番のテロリストの標的にしてやる~」


「わわ・・それはやめてー!」


2人のやり取りに皐が苦笑していた。


「・・・ッ全く、日本はきっと平和なんだろうな」


「ふえ?さっちゃん」


「私たちはバグテロリストの存在を知って尚、周りの人たちはそれを知らずに生活している。他の国、所謂(いわゆる)昨今(さっこん)のテロの恐怖に怯えている国なんかは日常が恐怖なんだろうね」


「う~ん、そうだね~。私たちは平和な生活をこれでも営んでるね~」


皐の話は瑠美、良子共に共感した。今の日本でどこかで自爆した、大勢が誘拐された、それが世界的な狂信者がらみだった、そんな話は聞かない。その昔のカルト教団と呼ばれた組織がテロを起こして以来、その手の話とはまるで疎遠であった。


今でもそのテロを起こしたと目された組織は日本人は未だに嫌縁している。

きっと現在別のテロが日本で起きた時には再び自分の事の様に意識するだろう。


オアシス21から出た瑠美たちは錦通を錦の方へ歩いて行くと左手にサンシャイン栄の観覧車が見えてきた。瑠美は初めて見て、建物について不思議に思った。


「なんで観覧車?」


瑠美は首を傾げていた。良子がクスクス笑っていた。


「名古屋じゃあんまり不思議じゃないんだよ~。結構観覧車があってね~。これもその一つなんだ~」


「へえ~、名古屋って変わってるね」


皐が再び補足した。


「地方を活かすには東京や大阪とは違った手法でやらないといけない。うちの道場は他にも札幌もあるけど、そこにも都市部に観覧車があるよ」


「成程ね」


瑠美はそう感想を漏らした。そして東山線に乗り込み、名駅のミッドランドスクエアに向かった。

良子の提案でもあった。


「あそこは~夜景がきれいだから~。心が和むと思うよ~。女子3人ならば~寂しくもないし~」


地下鉄に乗りながら、良子の説明を受けた瑠美と皐は「寂しい」というくだりについて質問した。


「あ~それはね~、カップルがちょっと多いのよ~。そこそこ明かりもないから~、吹き抜けでビル風で高さもスリリングだよ~」


「カップルが多いか。そうだね。中々1人じゃ難しいかもね」


「ああ。気分が良くないかもな」


「でも~、それを差し引いてもいいぐらいに夜景がきれいだから~」


こうしてミッドランドスクエアに瑠美たちは辿り着いていた。

直ぐ上がるにはまだ日が高いので、周囲のお店を覗いてから上がろうと話がまとまった。


3階に上がってテナントを色々回っていたところで、下階より悲鳴が聞こえてきた。

瑠美たちはエレベーターを急ぎ足で駆け上がってくる人たちを見て、ただならぬ状況と考えた。


皐が逃げてきた人に話を聞こうと尋ねた。

一番歳が近そうな同じ女子高生を見つけた。


その女子高生は黒髪の綺麗な顔立ちのコで、黒いコートを身に纏い、学生カバンを背負っていた。

全く不良とは無縁な感じであった。瑠美はどこかで見たことあるなあと感じて思い出していた。


「あー、白崎さんと呼ばれた女子高の制服と同じだ」


そう瑠美が言ったが、当人には聞こえていない。パニックを起こしているようだった。皐が当然な質問を彼女に投げかけた。


「どうしたんだ。そんなに慌てて何があった?」


その女子高生は息を切らしながら、皐を見た。皐はその女子高生の顔に怯えを見て取れた。


「ハア・・・ハア・・・、急に・・・着ぐるみの集団がやって来て・・・1階のフロアに煙幕を放って、すぐ傍に居た知らないお姉さんが・・・血を流して倒れたの・・・カタカタという機械音が聞こえて・・・」


「機械音?」


「・・・いろんなものが割れる音が、様々な悲鳴が聞こえたの・・・。それで私、パニックになって・・・うっうっ・・・」


その女子高生はその場でへたり込み、泣いてしまった。

皐はすかさず階下を身軽な体でひとっ走り確認しに行った。


ミッドランドスクエア1階では着ぐるみを来たテロリスト達に占拠されていた。その中央にピエロの仮面をしたやせ細ったスーツの男性、桜明の旧教頭の小石川の姿があった。


小石川は手を挙げると着ぐるみたちは散開して各フロアの制圧に走った。


「あまり時間は無いですよ~。市民に恐怖を与えてサミットを中止に追い込みましょう」


小石川はケラケラと笑い声を立てた。


階下からエスカレーターを伝い、多くの人が上の階へ走り避難していた。

2階に下りた皐はカタカタという機械音を階下で聞こえ、それをエスカレーターの隙間より確認した。


「(どうやら銃器のようだな・・・)」


知るべきことを今の情報で確認できた。そして急ぎ3階へ舞い戻り、瑠美と良子に知らせた。


「瑠美、お良。ここは戦場となったみたいだ。1階が不審な集団で且つ銃器を持って占拠されている」


「えっ・・・」


「うそ・・・」


瑠美と良子は言葉を失っていた。良子はタブレットを手早く出して、名古屋のサミット対策本部へ連絡を取った。


「・・・すぐにでも鎮圧に乗り出すらしいよ~。既に名古屋県警も察知して動いているらしい」


良子の話を聞いて、2人は一息付いていた。

しかしその束の間、この3階にも煙幕が漂ってきた。


「ぐっ・・・これはいわゆる催涙ガス!」


皐は傍に居た女子高生に軽く当て身を入れて担ぎ上げて、瑠美と良子に上の階層へ移動するように促した。


「瑠美、お良!上の階に行くぞ!このコも問答無用に連れていく」


瑠美、良子共に頷き、エレベーターを伝って5階ホールまで逃げ延びた。

女子高生を気絶させた理由も2人には得心していた。

彼女はパニック状態。説得するには手間になる。その間に銃殺されては元も子もない。


5階のホールロビーまで辿り着くと、皐は抱えていた女子高生を下ろした。

そして、「周囲の偵察に行ってくる」と瑠美、良子に言い残してその場よりいなくなった。


瑠美は知らない女子高生を介抱していた。


「かわいそうに・・・」


「う~ん。日本でも起きるんだね~こんな事が~」


すると、その女子高生が目を覚ました。


「う・・・うん・・・ここは?」


瑠美が女子高生が目覚めたことに気が付いた。


「大丈夫かな?」


女子高生は壁に背を付けて、声を掛けてきた瑠美を見上げた。


「ん?貴方は・・・」


「私は竜宮寺 瑠美。東京から仕事の付き合いで名古屋に来たんだ」


瑠美は女子高生の目線までしゃがみこんだ。そして笑顔を見せた。


「ここは分かる?」


「うん・・・ミッドランドスクエアの中・・・はっ!」


その女子高生は慌て始めた。


「あ・・・ああ・・・殺され・・・」


取り乱しそうになった女子高生を瑠美はその口を手で塞いだ。


「ふぐっ・・・」


「その先は言ってはいけない。言葉にすると余計に不安になるから。大丈夫!ここは安全だよ」


その女子高生は震えていたが、瑠美の力強い言葉に徐々に震えが止まり、コクリと頷いた。

良子は周りをキョロキョロと見渡してから、ニンマリと笑みを浮かべた。


「とりあえず~できることをしよ~。瑠美は~お父さんと~連絡取ってくれない?」


「へ?なんでパパと」


「いいから~、お父さん何をしてるか知ってる?」


「ううん、あんまり知らない。ただ官僚だとしか・・・」


「そう言うこと。あんまり語れないのよ~」


「ん~・・・わかった。電話してみる」


瑠美はスマートフォンで父親に電話を掛けた。すると3コール目で電話が繋がった。


「・・・瑠美か。どうした、と言うよりも近くに良子ちゃんが居るな」


父親の発言に瑠美が驚愕した。


「ちょ・・・ちょっと!何で、と言うよりもどこから見てるの!」


良子が繋がった瑠美の携帯を「ちょっと借りるね~」と一言でひょいと取り上げた。


「もしもし~、瑠美のお父さん~。と言うよりも竜宮寺主幹」


「お前たちはミッドランドスクエア内にいるんだな。先ほどの連絡でわかった。その様子だと皐ちゃんも一緒か?」


「当たり~ってことでピンチなんですう~。特権でミッドランドスクエアの全コントロールへのダイブを許可してもらえないかしら~」


「・・・仕方ない。次長に伝えておく。必ず生き残れ」


そう言って瑠美パパからの電話が切れた。良子はすぐさまタブレットでミッドランドスクエアの全ての監視カメラを自身の管理下に置いた。


「これでよし~!・・・って、さっちゃんが敵と遭遇しそう。すぐに電話しなくちゃ」


良子が皐へ電話をして、その場から離れるようにと伝えていた。

その間に瑠美は女子高生より自己紹介を受けていた。


「私は桜華女子高の立花(たちばな) 茜(あかね)です」


「茜ちゃんかあ~。瑠美って呼んでね」


「うん、瑠美ちゃん」


茜はその場からゆっくりと立ち上がった。

良子からの電話で戻ってきた皐が茜が気が付いたことについて、他の2人との視線で会話を交わした。


良子はタブレットで素早くミッドランドスクエアを掌握し、3人へエレベーターホールへ向かうように促した。


「私たちが~、エレベーターホールに着くと同時にエレベーターが到着するから~、これで天辺まで上るよ~」


瑠美、皐とも頷いて、茜を抱え、エレベーターホールへ移動した。

良子の事前のチェックにより、エレベーターホールには誰も居なかった。


エレベーターを待つ間に皐が茜に質問した。


「私は財部 皐と言う。立花さん、貴方はここには誰と来たの?」


「私は・・・姉達と来ていて、展望台に居たの。だけど、あそこ吹き抜けているからちょっと風に当たり過ぎてそれで1人下に戻って来ていたの・・・」


高い所で気分が悪くなったことを聞き、瑠美は心配していた。


「・・・大丈夫かな?またその展望台に戻ることになるけど・・・」


「うん。命には代えられないから・・・」


良子がタブレットで下階の様子を眺めていた。


「う~ん。確かに命に代えられないね~。カメラ映像でもちょっとエグイよ~。1階では警官隊とその襲撃者たちが銃撃戦。2階、3階と襲撃者たちに一般人が次々と撃ち殺されているよ~・・・」


良子は抜けた声で恐ろしいことを次々と口にしていた。

それに瑠美と茜は恐怖した。


「ちょちょ・・・ちょっとー!お良、あんまり状況を細かに言わなくてもいいよ!」


「うっ・・・うっ・・・」


その時、良子が呼んだエレベーターが到着した音がなった。


(ポーン)


その音でそのエレベーターが開いた。そこに1人の着ぐるみを来た銃を構えたひとが立っていた。


3人とも唖然とし立ち尽くしていたが、皐だけが反応していた。

新調した携帯、スマートフォンの良子特製アプリを使い、一瞬でその着ぐるみを制圧した。


「ふう・・・時代に合わせまいと思っていたことを曲げた成果が出たものだ」


皐は今まで電話など電話とメールだけで十分と考え、ガラケーでいた。しかし良子のアプリの優位性も考えて、良子に相談、その上でスマートフォンを用意してもらっていた。


皐はその着ぐるみの頭を剥いだ。すると中からは見知らぬ男性が出てきた。


「・・・知らないな」


皐がそう呟く。良子はその顔を写真で取った。


「取りあえず~後で身元を調べるために取っておこう~」


着ぐるみ男をエレベーターの外に出し、4人はエレベーターに乗り込んだ。

そして41階を目指した。


エレベーター内から外が見えた。階下には沢山の赤色灯があった。それ以外は陽が落ちて夜景が広がっていた。


「確かにデートスポットだねぇ」


瑠美がそう感想を漏らしていた。すると「チーン」という音が鳴った。

44階に着いたという知らせだった。


瑠美たちがエレベーター外に出た途端、4人とも物凄い悪寒に晒された。


「ぐっ・・・」


「ああ・・・」


「なんで~」


瑠美、皐、良子共に意識を保てたが、茜は気絶してしまった。


「茜ちゃん!」


瑠美が倒れそうになった茜を抱えて、エレベーターホールの傍に寝かせた。

良子はエレベーターを41階で機能停止させた。


「瑠美、さっちゃん。これで~下からは~誰もやって来れないよ~。階段以外はね~」


「そうか。わかった」


皐は良子の話を聞き、少し周りを見渡した。

結構な展望台の客と受付カウンターと人はいたが、全ての人が床に崩れ落ちて意識も落ちていた。


「・・・大事だな、これは・・・」


皐がそう声にすると、壁伝いで誰かがふら付きながら、皐の方に近付いてきた。

皐はその気配を感じて、戦慄した。物凄い手練れだと直感した。


「(来る・・・)」


皐は自身の攻撃射程内に収まったその者に目がけて渾身の一撃を放った。

その者の腹部に皐の攻撃は綺麗に決まったはずだったが、


「(なっ・・・分厚い真綿を叩いたようだ・・・)」


そして攻撃した相手を皐はゆっくりと見ると驚いた。


「榊さん!」


「・・・何をするんだ皐。痛いじゃないか」


皐はゾッとした。渾身の打撃を与えた相手が畏怖するひとだったからだ。

そして榊は傷だらけだったこともあった。皐は瑠美たちを呼び、榊の下へ集まった。

榊は床に腰を下ろした。


「瑠美も来ていたのか。ここは危険だ。逃げろ」


瑠美は首を振った。


「榊さん。階下も今銃撃戦で逃げ場がないんです」


榊は驚いていた。そしてしばらく考え込んでいた。

少し間を置いて、榊が発言した。


「・・・下は別のグループか。こちらとは目的が違う。つまりは先の学園事件と同様か・・・」


「どういうことですか?」


皐が榊に質問した。


「今、この展望台にウィザードが居る。それと見知らぬ女性が居る。ウィザードに隙を突かれて再び成す術が無かった。逃げるに精一杯だった。階下については知らない。ある筋からの話はウィザードだけだったからな」


「ある筋?」


瑠美がそう言うと、榊は頷いた。


「名古屋に来た理由は2つある。一つはメイド喫茶。もう一つは名古屋でもスマートコンプレックス騒動が起きているという情報だ。勿論ウィザードが噛んでいた」


良子は腕を組んで考えていた。


「う~ん。バグテロリストに階下の本物のテロリスト・・・。日本は危機だね~」


「そうだな。ウィザードは一環して世界転覆、下の者達はサミット妨害だろう。どちらにせよ世界平和は願わない者ばかりだな」


榊がそう話すとググッと壁を伝い、立ち上がった。


「さて・・・と。私はウィザードが気になるので再び戻るが、お前らも付いてくるのだろう」


3人とも榊の言に頷いていた。


「わかった。また瑠美の力が顕現するかもしれないからな。その可能性も高いかもな」


瑠美がそれを聞いて質問した。


「どういうことですか?」


「・・・この名古屋は聖地だ。3種の神器の1つが奉納されている土地、力が発揮するには良い条件だ」


良子は「あれ~?」と一人声を上げた。それに皐が尋ねた。


「お良、何かあるのか?」


「う~ん榊さん~。何で貴方が無事でここまで逃げてこれたのですか~?」


確かに、瑠美も皐もあのウィザードから逃げるとは至難だと感じた。それについて榊は回答した。


「それを確かめにいくのだ。とどめを刺されると思った時に、その場を飛びのいてウィザードが離れたのだ。すると一人の知らない女性が立っていて、ウィザードを見据えていた」


今度は榊が腕を組んだ。そして考え込んでいた。

ウィザードと対峙できる女性、果たしてそれは誰なのか・・・


榊が襲われたところは瑠美たちが居たフロアのすぐ傍だったが、そこには誰も居なかった。

ただ誰の血痕か分からないものが点々としていた。


皐は気配は上にあると感じ、榊に相談した。


「榊さん、どうやら上ですね」


「そうだな。では拝みにいくとするか」


3人は頷き、榊と共にエスカレーターを上がっていった。そしてそのフロアに着くや否や、おぞましいくらい身の毛が弥立つとはこの事かという雰囲気に4人が飲まれた。


「な・・・なんなの・・・これ」


「うわぁ~・・・かつてない程の絶望感です~」


「ああ・・・ウィザードがいるのが分かるがそれに相乗効果が出ているようだ」


3人ともそれぞれの意見を持って述べた。榊は傷だらけの体に鞭を打ち、毅然と歩き始めた。

それに3人が従う。


陽も落ちて、辺りは闇に包まれていた。

このスカイプロムナードの良い所は全くの光が無い孤高の空間。

高層故の遮るものがないビル風が高所のスリルを誘う。


そんな中4人が目にしたのは、片腕を抱えながら息を切らしていたウィザードと平然の対峙する・・・


「オラクルだ~・・・」


ボソッと良子が口にした。4人とその2人との距離が有り、2大テロリストは互いを敵とみなし、その緊張感で榊ら4人の事に気付けていない。


「ジャッジが居るとはな・・・。しかし何故か2人は戦っている」


榊がそう漏らすと、ジャッジが暗がりで見えないはずの4人を見据えていた。


「なっ!」


皐がその視線を感じた瞬間、3人は金縛りにあった。

榊はその威圧感から逃れていた。


「ふん。こちらに気づいてたか。3人共取りあえず奴らの下に行くぞ」


「あわわ・・・行くぞ!っと言われても・・・」


「動けませ~ん」


「ぐっ・・・不覚だ・・・」


すると、榊は一喝して、周囲を凛とさせた。すると、3人の金縛りが解けた。


「全く・・・。お前ら耐性の訓練をしなさすぎる」


「耐性の訓練?」


榊の言に瑠美が当然の質問を投げかけた。しかし榊は取りあえずそれを無視した。


「後でだ。すべて生きてここから出れてからな」


榊はビルの縁を螺旋の様に続く回廊を下に降り始めた。それに3人が続いた。


下の広間に降り立った4人が見たのはウィザードとジャッジの戦闘している光景だった。

ウィザードの電光石火の攻撃を清流の如く見事に受け流すジャッジ。

ウィザードの攻撃をそのまま返す合気道に近い技ウィザードに手傷を負わせ続けていた。


「・・・はあ・・・全く、我が大願を邪魔する理由など貴様にはないはずだが」


「フフフ・・・私は貴方に世界をいじられたくないのよ。私にも人類の希望を見つめていきたいという夢があるのでね」


「絶対善か。そんなユートピア思想などゴミでしかない。人類の救済は一度滅び再生するしかないからだ」


「だから私は貴方にそんなに動かれたくないのよねえ」


「平行線だな」


ウィザードがそう呟くとスッと直立し、次の瞬間周囲に突風が吹き荒れた。


「きゃあ!」


「ひゃあ!」


「なっ!」


3人共それぞれ反応し、榊も腕で目隠しをした。


「ジジイ・・・何を・・・」


榊が次ウィザードを見た時、その場には居なかった。

そしてジャッジに目を向けた時、ジャッジの手がウィザードの右ストレートを払っていた。


「・・・早いな」


ジャッジがウィザードの攻撃を受けた時、自身も後方へ体を飛び流していた。

皐はその動きを見て、攻撃を受け流すに相対速度を見極めたのだと理解した。

しかしジャッジはその攻撃を完全には受け流せなかった。


「あっ・・・」


ジャッジが苦悶の表情をした。受け流す為に使った自身の右腕が妙な関節の曲がり方をしていた。


「(骨が砕けた)」


榊はジャッジの腕を見て、そう判断した。ウィザードの攻撃は続いた。

今度は右足でジャッジの後頭部を狙った。その速度も尋常ではなかった。


しかし、ジャッジはその攻撃を受ける前にウィザードの懐へ飛び込んだ。


「何!」


ウィザードは間近に迫ったジャッジの顔に笑みがあったのに戦慄した。

するとウィザードの体が派手に後ろへ吹っ飛んでいった。


「バカな男・・・。この私にレアリティで挑むなんて。貴方の片足は1日役に立たないわ」


ウィザードの左足はジャッジに言われた通り、まるで力が入らなかった。


「・・・不覚。しかし、貴様を倒せない訳ではないことが分かった」


「そうねえ・・・私の伝達速度についてこれればね・・・」


「ふっ・・・それは無理な話だ」


「じゃあ終いね。流石の私も貴方に近付いて倒そうなんて無謀な話だわ」


ウィザードは左足を引きずり、その場を後にしようとした。それを榊は逃すまいと構えて一撃を加えようとした時、ウィザードの殺気が榊を貫いた。


「な・・・なんだと・・・」


榊は死を恐怖した。それにより榊はその場から動けなかった。

榊はもし飛び込んでいたら必死の映像しか思い浮かばなかった。


「正解ね。貴方が仮に飛び込んでいたら首が飛んでいたわ」


ジャッジが榊が行為を止めた事に評価を下した。

そしてジャッジは懐にしまっていたタロットを片手で触り始めた。


「・・・フフ・・・瑠美さん達、数奇な運命を持ったみたいね」


ジャッジがそう呟くと、瑠美はドキマギした。


「な・・・何ですか、急に」


「いえ・・・貴方らがこの名古屋の騒動を収めてくれることを期待しておりますわ。ウィザードの種まきにしろ、サミットにしろうんざりですわ」


そう言ってジャッジもその場を後にしていった。その動きに誰一人動けなかった。

2大テロリストがその場から消えると、4人共その場にへたり込んでしまった。


「ぐっ・・・また届かなかった・・・」


榊は悔しさを滲ませていた。その姿を見た3人は自分らがそれ以上に役立たないことに心底落ち込んでいた。


「はう~・・・榊さんで届かないものがいつ私は届くのかな・・・」


「う~ん。天文学的かもしれませんね~」


「そんな絶望的な事で締めるんじゃないお良」


3者3様の語り口で感想を述べていた。それも束の間、3人共階下から迫る危機に付いて思い出していた。


「そうだ!テロリスト達がここに逃げてくるかも」


瑠美が思い出して慌てていた。良子は持ち前のタブレット端末でこのビルの監視カメラを調べた。


「・・・う~ん、もうテロリスト達は非常階段で35階ぐらいに到達しているね~。下からの警官隊や機動隊らに押されながらみたい~」


榊が腕を組んで、当然の流れを答えた。


「ふむ。階下の人らが人質になる確率が高いな・・・」


「しかし、茜さんだけでなく、他にもスタッフ含めてかなりの人数が気絶している」


皐がそう言うと、良子はニンマリとして3人に答えた。


「大丈夫~。応援は何も下からとは限らない~」


榊、瑠美、皐共に良子の問いかけに上を見上げた。するとヘリコプターの音が聞こえてきて、吹き抜けのビルの天辺よりフル防備の人達が瑠美たちの周囲に降り立った。


「・・・お良。この人たちは?」


「う~ん。私のチームの方々~」


すると、そのフル装備した一人の人がヘルメットを脱いで近付いてきた。その顔を瑠美は知っていた。


「パパ!」


「瑠美、生きていたか。幸運だったな。それに榊くんか・・・」


「ご無沙汰しております。竜宮寺さん」


「いや、いつも不肖の娘が迷惑をかけている。済まないな」


「いえ、貴方が出向くとは余程の事態なんですね」


「そうだな。近日中に迫るサミットに阻止を目論む者達を根絶やしにせねばならない。今回はその過激派の尻尾だ。一網打尽にしてやらねばな」


瑠美は何の話だか理解できなかったが、言い回しが物騒過ぎると感じた。

サミット阻止を実力行使する者を根絶やしにすることも過激だと思うのだがと。

皐が至極当然の質問を投げかけた。


「えー、おじさま。どのような経緯か不明なのですが・・・」


「うん!私もだよパパ!」


竜宮寺パパはそんな質問を答えようにも周囲の取り巻きがそうさせてくれなかった。


「主幹!全てのゲートに配置完了致しました」


「主幹、下から来るテロリスト達が後2フロアの所に来ております。階下の品川連隊長より連絡がありました」


などなど、矢継ぎ早に連絡が舞い込んでいた。そんな様子を見かねた良子がかいつばんで説明をした。


「えーとね~、竜宮寺パパ、通称竜宮寺 宗久(むねひさ)主幹は内閣情報調査室の1部門の長で~、対反社会体制から~日本を防衛するために~組織している方なのね~」


「通称って・・・宗久パパだよ!」


瑠美はどうでも良い所に憤慨していた。皐は榊の顔に目を流した。如何にも知っていて当然な顔をしていた。そこまで来ると碌なことを考えてしまう。


「・・・口に出すのもやぶさかでないが、まさか御手洗さんからの私たちの流れも瑠美パパに通ずる点も考慮しているのでは?」


そう榊に皐が問いかけると「当然だな。行政の縦割りは横との連携が弱点であり、それを補填できるパイプは有利になる」と答えた。


皐は御手洗も流石に官僚組織に属しているだけあると思った。マイナンバー制度の行政の弱点を補う上で並列に連携ができる点で採用されたものの1つだが、それだけでも尚弱点が補い切れてはいない。

その組織も有利、不利な情報を隠匿するものだ。それを共有できたときに弱みになるか、または相乗効果となるか時と場合による。


御手洗は竜宮寺 瑠美というカードを持ったことで内閣との繋がりを得た。より公安の行動範囲が拡張される計算の下だと皐は考えた。内閣も公安の情報を得て、スマートコンプレックスの情報の共有をしていることだろう。


宗久は瑠美の頭を軽く叩き、瑠美を激励した。


「よく頑張ったな。ママも喜ぶ」


「うん!瑠美は頑張り屋だよ」


宗久は皐と良子を見て、2人にも話し掛けた。


「遅れて済まなかった。一介の高校生にテロなど体験させて内閣の代わりに謝罪する。後で君らの両親にも伝えておく」


「いいえ~。私は~こんな仕事をお手伝いしてると~両親に連絡済みなので~平気です~」


「うちも心配要りません。お気になさらずに」


2人の返答に宗久は笑顔をこぼした。


「わかった。後で3人共美味しいご飯に連れていってあげる」


3人共その答えに歓声を上げた。そんな反応を見た榊は「現金なものだ」と苦笑していた。


かくして名古屋県警の機動隊と内閣情報調査室の特殊部隊によりミッドランドスクエアのテロ騒動は

スカイプロムナードの一つ下の階層で実行犯らは一部逮捕または射殺された。しかし残党が味方部隊を悉く惨殺して逃げていったことに県警、内閣共に憤怒した。


エレベーター傍で気絶していた茜は瑠美たちの介抱により目覚め、事態が終息したことを告げられると、


「はあ~・・・死ぬかと思いました」


と吐露を漏らした。そしてその直後思い立った様に立ち上がり何かを探し始めた。


「どうしたの?茜さん」


「・・・姉さん・・・どこなの!」


茜はスカイプロムナードの周囲を走り回った。それを瑠美と皐は追いかけた。良子は一人キョロキョロと辺りを見回してある異変に気付いていた。


「・・・みなさん~・・・誰も目覚めませんね~」


良子の周囲はスタッフ、展望客共々結構な人数が気絶していた。その人たちが一向に目覚めない。


茜がトイレの傍の通路に差し掛かると、目的のものを見つけて叫んでいた。


「姉さん!結衣姉さん、朱里姉さん!」


瑠美と皐が茜に追いつくと茜は倒れている2人の女性を壁にもたれかけさせていた。

そして2人の女性を揺さぶっていた。


「なんで・・・なんで起きないのよ!」


茜は死んだように眠っている2人の姉を見て、混乱していた。

瑠美と皐はその2人の傍に歩き寄っていた。


「・・・何でだろう?ジャッジかウィザードが仕掛けた?」


「可能性はあるな。スマートコンプレックスならば良子が解けるだろう」


皐がそう答えると同時に「む~、ダメみたい」という声が瑠美らの後ろから聞こえた。

皐は振り向かずその理由を聞いた。


「どうしてだお良?」


「さっちゃん、ここに居る人~全てが同じ症状でね~、レム睡眠状態から持ち上がらないように脳波作用されているみたい~」


瑠美が端的に答えるよに良子に求めた。


「つまり、どういうことなの?」


「完全催眠。脳の活動を強制的に休ませているみたい~。このままではそのうち体の機能も止まっちゃうね~」


それは死の宣告だった。皐は良子に先の質問の答えを再度求めた。


「お良よ。打開案は?」


「う~ん、従来のスマートコンプレックスの仕組みならば対処可能だけど~、新種は解析に時間がかかるよ~」


「つまり何もできないの?」


「うん~、今はね~」


茜は「ねえ!起きてよ姉さん!」と叫び続けていた。そんな姿を瑠美は居た堪れなく眺めていた。

皐は再び良子に質問した。


「一番、早く治す方法は?」


「当然~、仕掛けた犯人を捜すことね~」


「なら!決まったね」


瑠美は皐と良子の傍に寄ってきて2人に話した。


「この事態も私たちで解決して、茜さんの笑顔を取り戻す!」


瑠美の決意に皐、良子とも力強く頷いていた。


小石川ことピエロは部下と共にミッドランドスクエアを後にしていた。包囲網も彼らの戦力からしてとても網とは言えない。中区と栄区との境界で彼らはある者達と合流していた。


「よほほ、えらい目にあいましたよ旦那」


ピエロがそう男に語り掛けた。男は労う。


「ピエロさんにもえらい目なんてあるのですか?」


ピエロは苦笑して、男に話した。


「ハハハ・・・いえ、報酬さえもらえればお酒で回復できますからご心配なく。ほらお嬢も回収してきましたよ」


するとピエロの傍より女子高生が出てきた。女子高生はクスクスと笑っていた。


「若頭さんの手回しのお蔭ですよ。この<白雪姫>は試用段階が終えたわ。サクサク進めましょ」


女子高生は取り巻きに守られて夜の街へと消えていった。





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スマートコンプレックス norakuro2015 @norakuro2015

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