17. 友達
トシカズ。
クラス、いや、学年一人気者。
彼は男女問わず、生徒教師問わず、誰からも好かれていた。
皆から、トシカズ、と呼ばれて。
私も気持ちの中で、彼のことをそう呼んでいる。
スキ。トシカズのことがスキ。
トシカズは異性からモテモテだけど。
私は他のどの女子よりも彼のことを強く想っている。
いま、私は彼のためにマフラーを編んでいる。
清佳がそんな私をチラ見して鼻で笑った。
あの女。いつかコロス。
だけど、私の手ではやらない。いつか家に来た清佳の友達を使う。
いや。あの辺見真理という女は、清佳の本当の友達じゃない。
分かる。辺見真理は清佳に付き従っているだけ。
心情は私と共通している。
清佳は男から見れば魅力的。対して辺見真理は凡人。
真理は清佳のことをやっかんでいる。
私の特別なチカラを使わなくても、誰が見てもなんとなくだが分かるだろう。
だけどもう一つ。
驚いたことに、特別なチカラを用いなきゃ絶対に分からないことが分かってしまった。
それは。
真理もトシカズのことを想っている、ということ。
私とこれほどの共通点があれば、真理の中に入り込んで彼女を操作するのは容易い。
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私のトシカズ。私のトシカズ。
なんで、清佳と寝ていた???
トシカズは、あの薄汚いモデルの女と付き合っていたのでは...?
いや。彼はどんな女と付き合おうが、どんな女と遊ぼうが構わない。
だけど。
清佳だけは絶対に許さない――――――――――――
いやいや。もはや、私を裏切ったトシカズも許せない。
は?
なによ? そのピンクのストラップ。
真理のストラップとお揃いだからって、それで許されるとでも?
なになに?
“許して許して”って絶叫して泣きじゃくっても、ね。
まあ、鼻水まで垂らしちゃって。死ぬのがよほど怖いのね?
ははっ! ざまあ!
お前なんか消えろ!
ぐっ! 誰???
なんで? なんで私が私を止めるの?
放せ! 私の抜けた美野里なんて、ただの抜け殻じゃん! なんだよその落ち窪んだ目に痩けた頬やぼさぼさの髪は! 私の居ないアンタはただの廃人だから!
は? アンタのカラダなんかに帰るつもりは毛頭ないわ! 私はこれから、この居心地の良い辺見真理のなかに当分居るつもりだから!
わ! バカ! 清佳に逃げられた!
追うのよ、追うのよ、辺見真理!
事が済めば、アナタをこの部屋に戻す。
そして。
当面は何事もなかったことにしてアゲル・・・・・・
*************************************
ふうううう......
大きく息をついた、矢島。
ゆっくりと立ち上がる。
女のカッターナイフが喉元に向かったと同時に、彼は防御の姿勢をとるようにして無意識に手が伸びた。
その手には真理の携帯電話が握られていたのだった。
女の動きがぴたりと止んだ。
握られたカッターナイフが音を立てて落ちた。
女の白目の前で揺れるピンクのストラップ。
左右に揺れる動きに合わせて女の首も左右に揺れていた。
その隙に矢島は、呆けた女の額に掌を翳して“悪意の気を持つ他者”を辺見真理の中から退散させる短い文言を何度も唱えたのだった。
しばらくして、辺見真理のなかの女は消えた。
いまは普通の女子高生が床の上でころりと横になっている。
だが、ベッドの上と、玄関先には凄惨な死体が。
真理が目を覚ましたら大変だ。
それに。
真理は知ってはいけないことを知ってしまったようだった。
彼女は清佳とは単に友達同士だったはず。
だが、初恋の男を清佳に寝取られたことを知ってしまった。
本当に救いだったのが、逃げた清佳を追って彼女を亡き者にしたのは美野里自身だったということ。
真理は、逃げた清佳を途中まで追っていたが女の気に反してその足を突然止めた。
女は仕方なく美野里のカラダに帰って、美野里自身が清佳を追ったのだった。
その際、女はうっかりその当時の記憶まで真理の中からすっぽり抜いてしまった。
その時、真理は記憶が錯綜してパニックになるか、日常の行動パターンにのっとって彼女の脳内で勘違いが生じるか。
おそらく後者だろう。塾から帰ると、足りないモノを補充するために買い出しに出かけた、そんなところだろう。
それにしても。
やれやれ、厄介なことに巻き込まれてしまったな。
まず、2体の遺体をどうするか。
“日陰の霊術士”仲間を出来るだけ多く呼んで助けて貰おうかな。
共助共存だからな。僕らは。
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・・・・・・クソクソクソクソッ!
相手が悪すぎた!
なにが“日陰の霊術士”だ!
あああ。大気中にいつまでも居られない。
辺見真理はもうだめだ。矢島が邪魔をする。
いまは私自身のカラダしかない!
もっと腕を磨けば、誰のなかにでも入ることが出来るのに。
いまは美野里しかいない! 私自身しかいないんだ!
え? ・・・・・・なんで美野里、首つってるの?
遺書?
『ゴメンナサイ』だって!?
『妹とマスコミ関係者殺傷事件の犯人は私です』だって!?
あああ~
でも、もうそんなことはどうでもいい!
美野里が死んだ...私自身が死んでしまった
もう、私に帰る場所は、ない。
このままだと、私の霊気は消滅だ。
完全消滅だ。
ああっ、自分が消えていくのが分かる、消えていく。
消える。
消える......
......
悔しいっ...
...
...
...
END
はつこい。 吉川ヒロ @hirokichi
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