ぼくらのグレートジャーニ―

 少年はトンネルの外で目を細めた。

 竹の葉の先にたまった露が落ち、彼の鼻先に落ちた。

 コンクリートの道に水溜りがあって空を反射させていた。


 それが深く遠い色をしていたのを見て、トンネルにいる間に雨が降ったらしいことに気づいた。

 あのどおお、どおお、という音は雨のこだまする音だったのである。



 石垣のすみっこにようへいが座っていた。

 服と靴はぐっしょりとぬれ、短い前髪は額に張り付き、陽光を浴びてテカテカと光っていた。


 友達はがたがた震えながら不服そうな顔で少年をにらんだ。

「お前が心配だったんだよ」

 彼は言い訳じみたことを少年にぼやいた。

 いつものようへいだったから、少年は頬をゆるませた。


「大冒険、どうしよっか」

 今すぐにでもくしゃみのひとつやふたつしそうな友を見て少年は言った。


 ようへいはしばらく身を縮ませて腕や腿をこすっていたが、息をついて立ちあがった。

「お父さんに言っておくよ。このトンネルには魔物がひそんでるって。お父さん以上に、俺たちの大冒険はすさまじかったんだって。だから大冒険はした。俺たちは目標を達成した」

 ようへいは満足そうで、言葉には確信があった。



 うそというものは本人にとっては真実なのだ。

 だから少年もようへいの真実を信じた。


 帰り際に彼はトンネルの入口を見た。

 苔むした石垣に翡翠色の鉄板があった。


 友の後ろをついて行くと、やがてヒグラシの音が近づいてきて、濡れた土のにおいがした。

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ぼくらのグレートジャーニ― 今田ずんばあらず @ZumbaUtamaro

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