第1話 引っ越し
「お父さんね、再来月から
江奈簾県?どこだっけそこ。なんか昔テレビで聞いた気がするなぁ。
いやテレビ以前にふつうに日本にある都道府県の一つなんだし覚えてないとやばいだろ俺。しかしこんなに記憶にうっすらとしか残らない県も珍しいんじゃないか?
たぶん話題にも上らないようなショボい田舎なんだろ。
え…てか、それより…!?
「え?!引っ越し?!それって俺も行かなきゃダメなやつ!?」
「なに驚いた顔してんのぉ。当たり前でしょ?家族なんだから。」
******
少し寒さの残る3月。俺、
最初は田舎ならではのよそ者文化というかそんなものがあったりしたが、明るい母に家庭的な父親のおかげで4月になる頃にはすっかりご近所との中の良好で俺も隣のおばあちゃんに「たくちゃん」なんて呼ばれてる始末。
当たり前だが、生まれ育った東京とは大違いで…。
父親と母親がこの江奈簾になじめばなじむ程、後味の悪い気持ち悪さが残る。
「巧、ほら隣のお婆ちゃんが梅干し下さって!明日から入学式でしょ~?それでお祝いも下さったのよ~!これ、お守りなんだって。後でお礼言っときなさいね!」
母の手にはくすんでいて明らかに汚らしく新品でないような小袋が乗せられていた。
酷い嫌悪感に苛まれる。ふつう入学祝って金とまでは言わないがお菓子とか新学期から役立ちそうなものとかじゃないのか?
なんだよお守りって、それ以上に普通こんな汚れたもん寄越すかよ。
「…どっかおいといてよそれ。」
「えぇ!持って置きなさいよぉ!確かにちょっとよごれてるけど…」
「ちょっと…?」
怪訝な顔をした俺にちょうど風呂から上がったらしい父が声をかける。
「なんだ巧、明日の入学式緊張してるのか?」
そりゃするだろ。
新しい地で「東京から来ました」なんていうんだぞ?それもこんなど田舎のど底辺高校でそんな自己紹介してみろ。
「ん…、もう俺寝るわ。」
「あっ…巧ぃ!」
高校卒業したら後は自由だと父は言った。3年も耐えられるかわからない苦痛を明日から味わわなければならないと思うと憂鬱でならない。
江奈簾県って知ってるか? のこのこ @odenko07
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