第4話 善良なる心
エクス達がカーリーへの攻撃に苦戦している時、 ヴィランの一人はカルネデアスの板を渡され、動揺しているのがエクスには分っていた。
その時、ヘーメラーが大声で叫んだ。
「その板を邪悪な心で使えば、相手を助け自分の命を奪うもの!己の良心に従うのだ、誘惑に負ければ自分自身を見失い、沈黙の霧の中と同じように息絶えるであろう!それがお前の望みか?」
その時、ヴィランは板を自分に向け必死な形相で言い放った。
「我が命と引き換えに子供とシェイン様の命を救い給え!」
瞬間、カルネデアスの板は眩い光を放ちながら黄金の矢に変化しカーリー目掛けて放たれた。
「今だ、全員カーリーにコンボで攻撃だ!」
カーリーは始めは攻撃をかわしていたが、カルネデアスの光の矢との波状攻撃もあり、徐々に劣勢になり始めていった。
「くぅ、今日のところはロキもいませんから撤退したほうが良さそうですね、また会いましょうエクス」
そう言うと、辺りが一瞬真っ暗になり、次の瞬間カーリーは跡形も無く姿を消し去っていた。
「クソ!逃げやがったな!あと少しだったのに」
「まあ今回はこれで良しとしようよ」
「そうだね、兄いでも結構やるね見直したよ」
「まあな、たまには良いとこ見せなきゃな」
3人はコネクトを解除すると、倒れた一体のヴィランの元に集まる、傍ではヘーメラーが涙を流して悲しんでいた。
「お前の気持ちは決して無駄ではなかった、その相手を思う心こそ一番大切なことなのだ」
「ヘーメラー様……ありがとうございます」
ヴィランの顔からは生気が無くなっているのが分った、その時いつの間にか眠りネズミとコネクトしたレイナが駆け寄り、ヴィランを抱き寄せ回復させ始めた。
「レイナ!来てくれたんだね」
「今は集中しているから黙って!」
暫く静寂が続き、レイナの渾身の回復が功を奏してヴィランは目を開けた。ヴィランは意識を取り戻すとレイナから離れ手を突いて語りだした。
「レイナ様、あなた様に言わなければならない事があります、私は実はあなたの想区を襲ったヴィランの一人です。私はあなたの王国が崩壊したあと、自責の念にかられ、脱走、沈黙の霧の中をさ迷っている時にヘーメラー様にお慈悲を頂き助けて頂いたのです」
「そうだったのですね」
「いつか、このような日が来ると悪夢に魘されて来ました。自責の念に駆られ教会のステンドグラスに自身のヴィランの姿を描き戒めとしてきました、ただ……私はあなたに倒されても文句は言えないことをしてきたのです、死を持って自分の罪を贖います、ただ私の子供には何卒ご容赦を」
「もう顔を上げて下さい。私の憎むヴィランはもうここにはいません、あなたはもう私の憎むべき者ではないのですから」
ヴィラン達は泣き崩れていた。
「よく分ったな、今までお前達ヴィランが本当に改心したか私も少々危惧していたのだ。からお互いに本当に信頼できる仲間になれるかを、このカルネデアスの板をシンボルとして中心地に鎮座させ、そなたたちを試していたのだ。でもその必要ももう無くなったようだな、そなたたちの相手を思う心が魔を解き放ち人の心を宿したのだ。これからは人間として生きよ」
そうヘーメラーがいうと、ヴィラン達は人間の姿に戻った。
「擬態していないのに、人間の姿になった!ああ、へーメラー様なんというお慈悲を有難うございます!」
「これからは共にこの想区を守ろう」
そう言ったヘーメラーも神父の姿に戻っていた。
「さあ戻りましょうか」
エクス達が気付くと既に夜が明け掛かっており、小鳥達が朝を教えてくれているようだった。
朝もやの中にそびえたつ壮大な神殿はこれからの想区の未来をまるで示しているかのように明るく力強いもののように思わせていた。
この想区にもまた平和な一日がいつも通り訪れようとしている。
一行は時計台の前で神父と想区の住民達との別れの挨拶をしていた。
「さて、このカルネデアスの板は人間になったこの想区の者たちには、必要がない、そなた達が受け継いでくれるか?」
「僕達でいいのでしょうか?」
「そなた達にならこそ任せられるのだ、常に善良なる心を持ち精進せよ、但し板の力は強大だ、邪悪な心を持てば常に自身に跳ね返ることを忘れるな、また私の力が必要になるさいは、いつでもコネクトせよ、力になろう」
エクスが渡されたカルネデアスの板は深緑色に光っていた。
その時タオがからかい気味にレイナに話しかけた。
「じゃあ、時々ポンコツぶりを発揮するレイナ姫には危なっかしくて持たせることはできねえ~な~」
「ウルッサイわね~あなたまた殴られたいの?貴方みたいなおっちょこちょいの方が絶対危ないっていうの、ば~か!」
「なにお~方向音痴!」
「無計画のナルシスト!あ~きもい!」
「ちょっと兄いも、姉御も止めてよ恥かしい」
ヘーメラーは苦笑している。
「仲が良いことだ、チームワークを大切にな、カーリーの力は強大だ用心せよ」
「分りました、有難う御座います、では私達は出発します」
「エクスさん、皆さん有難うございます、道中お気をつけてください」
「皆様もお体に気をつけてではまた会いましょう」
一行はまた沈黙の霧の中へ消えていった。
グリムノーツ 流浪民の想区 ITSUMONO @melonguma
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