マイ・アイデンティティ

高谷永

第1話


市田商店の裏道をまっすぐ進む。


1つの街頭がポツンと浮かぶ。そこから大股6歩。2人なら大丈夫。手を繋いでいるから怖くない。冒険の始まりだ。








一人暮らしをして初めて母親の偉大さがわかる。 大学から徒歩12分。スーパーまで徒歩5分。まぁまぁな好物件であるこの学生アパートで新たな暮らしをスタートさせて、もうすぐ3年。友梨は寝坊をする度に、母親の優しさを痛感していた。


「つまらないな、」


授業開始から45分経っている。もう出席は諦めた。最初は心を躍らせた一人暮らしも、次第にマンネリになってくる。家からもってきたウサギのぬいぐるみを見るたび、楽だった実家に帰りたくなった。



いや、あの子がいた地元に帰りたいだけなのかもしれない。高校から離れてしまい音沙汰もないが、きっとあの子は私の倍は楽しく生きているだろう。


考えれば、いつもあの子は周りを振り回していた。自己中、ワガママ、気まぐれ女と散々言われていたが、あの子は気にも留めていなかった。しかしアンチソーシャリストな割に友達は多かった気がする。かくゆう私もその内の1人だった。ウサギのぬいぐるみだって彼女から貰ったのだ。



ビー玉のようなウサギの色彩の濃い目を見つめていると、スマートフォンが喚きだした。


「もしもし」

「もしもし、友梨?オレだけど、授業サボって何してんの?」

「なんで授業中に電話してるのよ。」

「おい、質問してるのオレだから!」


ケタケタ笑う声が耳に入る。


「どんだけ、朝弱いんだよー。授業一緒に取った意味ないし。」

「うるさい。とりあえず、ノートよろしく。」


めんどくさそうな声で唸る、彼。

これは、無理だな。ノートは他の人に頼もう。


「なー、今から家行ってもいい?」


ほら、蓮もサボりだ。

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