名もなき戦い

@ushin78

第1話

軍服男が目を覚ますと真っ白い部屋にいた。何もなくてただ真っ白―広さはバスケットの試合ができるくらいの体育館、天井は6mくらいあり、やはり真っ白。

 軍服男は上半身を起こす。頭に鈍痛が走る。

ジャングルで狩りをしていて、突然、後頭部に痛みを感じた時には気を失い、気付いたらここにいた。

 髪はボサボサで肌は浅黒く、タンクトップも白いはずなのに薄汚れ、カーゴパンツはあちこちほころび汚れていた。

 右側の壁がスライドした。そこには銃はもちろん手榴弾、ナイフ、日本刀、剣など人を殺す武器がところせましと並んでいた。軍服男は訝しながら武器に近づいた。サブマシガンを手に取り、鉄の冷たい感触を味わった。すごく久しぶりで血が騒いだ。まだ文明社会がある頃は戦場で撃っていた時のことを思い出した。

 もうこの世界にはこんな武器はない。謎の病原菌によって動物も森林も人間も生物とされる者全てが死滅。一部残るのみで枯れた大地が広がる。

 だから軍服男は怪しく疑った。

 反対側の壁がスライドした。暗い長い廊下から重い足取りで誰かがやってくる。そこに現れたのは黒い革パンツにブーツを履き、上半身は裸で筋骨隆々の胸筋にお腹が六つに割れていて、肩から胸にかけて大きな傷跡があった。長髪に洋画から飛び出した美しい顔。マン

トを付けて立っていた。右手に剣を持ち、左手にショットガン、腰にナイフが何十本とさしていた。

 ただならぬ雰囲気の男に軍服男はかなりの手練れだと感じた。

 何の躊躇もなくショットガンで撃ってきた。

 とっさによけ、手に持っていたサブマシンガンで乱射した。乱射のせいで煙が広がり、周りが煙った。その中を一つの弾が男の頬をかすめた。血が少し流れた。

 軍服男は乱射を終え、煙る中を武器庫のところに行き、日本刀と手榴弾、2丁の拳銃を腰に差して男と向き合った。

 煙が消えると男は無表情で立ち尽くしていた。

 剣と刀が同時に抜かれ、お互い構える。同時に走り出し、刀と剣がぶつかり合う。力を推し測るように男が押してきたり、軍服男が押し返したりと攻防戦が繰り広げていた。

 男が強く軍服男を刀ごと押すと後ろに倒れた。すぐに軍服男は立ち上げり刀を上から振りかざした。それを男は剣で受け止め、刀を押し返した。何度も刀と剣はぶつかり合い、金属音が響く。

 男が圧倒的な力で軍服男を壁まで追いやる。軍服男の喉元には男の剣の刃先が近づいている。首を切られると思い、足で股間を蹴った。男がほんの少し力が緩むと軍服男は下にしゃがんでお腹を日本刀で刺した。

 刀を抜くと男のお腹から血が溢れて流れた。ぼたぼたと流れ落ち、床に血だまりができた。お腹から血が出ているのに立ち上がり、苦痛すら感じてないらしく無表情で軍服男を見ていた。

 男が一発軍服男を殴りつけてきた。よろけたが腰から拳銃を取り出し三発撃った。男の肩、胸、太ももに弾が当たり、体が倒れそうになるが持ちなおし、軍服男をじっと見た。

 持っていた拳銃で男を狙い連続で撃った。弾は全てが当たり、体中から血が流れた。突如男は倒れた。

 死んだと思い男に近づき、足で転がし確かめた。反応がないとわかると出口を探し始めた。

 背中に激痛が走る。何かに刺されたようだ。刺されたまま膝をついた。後ろを向きと血みどろの男が立っていた。まだ、生きていた。

 男は軍服男に覆いかぶり、お腹に太もも、眼球に突き刺した。眼球に激痛が走り悲鳴を上げた。

 男は軍服男を離し、苦しむ姿を何も感じずに見下ろしていた。

 武器庫に男は行き、銃を取って蹲っている軍服男の背中を撃った。弾は背中を貫通して血が溢れた。違うところからも血が出ているせいか体が重く感じた。

 最後の力を振り絞るように軍服男は立ち上がった。一歩足を踏み出すたびに痛みが走った。ポケットから手榴弾を手に持ち、男に近づいた。肩に手を置いて、軍服男は男に向かって不敵な笑みを浮かべた。手榴弾の栓を抜き、刺したお腹に手榴弾を押し込んだ。躓きながら軍服男は逃げた。

 数秒後爆発した。真っ白な壁から天井まで真っ赤に染まった。

 今度こそ死んだと軍服男は後ろを振り向いたが、男は体半分が吹き飛んで大量の血が流れているのにそれでも立っていた。

 恐ろしく感じて武器庫の方向に逃げた。

 それでも男は向かってきた。床に落ちていた日本刀を拾い徐々に速度をつけて追いかけた。

 必死で逃げる軍服男、こけて這いつくばっても武器庫に向かった。だが、行き着く前に軍服男の頭が床に転がった。首から血しぶきが上がり、大量の血が流れて動きが止まった。軍服男は死んだのだ。

 男が追いついて首を刎ねた。

 戦いは終わった。

 突然、男が後ろに倒れた。男も死んだのだ。あの状態でよく生きていたものだ。

 四方から大量の水が流れ込んできた。全ての血が洗い流される。二つの遺体がある床が開き、水と共に二つの遺体は奈落の底に落ちていった。ゴミのように粉砕機にかけられ、枯れた大地に捨てられた。同じようなのが山のように積み上げられていた。

 真っ白な部屋は洗浄され、元の状態になっていた。


 このすべての戦いを見ていたヤツがいる。モニターに映し出された映像を見て思わず笑みが零れた。

「これで人間がこの世からいなくなった」

「嬉しいねー」

 もう一人の男が言う。

「今日は祝杯だな」

「パーティーでもするか」

「やろうぜ」

 二人は高らかに笑い続けた。気が済むまで笑うと真顔になった。

「お前が創った人間強かったな」

「あの人間用に創ったのさ、地上では負け続けていたから、強いDNAを混ぜて感情と神経を抜いて創ってみた、おれとしてはいい作品ができたと思っている」

「僕も思ったよ、最後まで抵抗した人間としては有終の美じゃなかったかな」

「おれもそう思った、あいつなんか遊んでいたし」

 一息ついて、

「さて、ここからどうするの?」

 男がヤツに聞いた。

「そうだな、僕達を散々実験台にされたから人間創って実験してもいいかな、でも神様になるのもいいじゃない」

「神様になるのは楽しそうだな、奇跡起こすのもいいね」

「人間を量産しますか」

 ライオン顔とオオカミ顔は不敵に笑い合った。





           了

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